RPAプラットフォームベンダーとして世界で確固たる地位を築いているUiPathは、国内でも順調な成長を遂げている。これまでは定型業務を自動化し、顧客企業の社員の働き方を効率化してきたが、今後は一歩先にある全社への適用を目指している。2017年から日本法人のかじを取る長谷川康一CEOは「自動化の市場はブルーオーシャンで、ものすごいニーズがある」と強調する。さらなる飛躍に向けてパートナーの存在を重要視しており、新たな価値の創造に力を入れる方針だ。
(取材・文/齋藤秀平 写真/大星直輝)
大きな波に乗って成長
――直近の日本のビジネスの状況はいかがでしょうか。
過去1年間で150人くらいの役員クラスの方とお会いしてきました。お聞きした話を集約すると、非常に大きなデジタルの波がきていると感じています。主な論点としては三つあります。一つめは、一部の業務をデジタルにするだけではなく、業務全体をデジタルにしていく必要があること。二つめは、お客様のニーズが多様化する中、スピード感を持って製品やサービスを提供し、早く失敗して、そこから学んだことを生かすことが大事であること。三つめは、製品やサービスを提供した後、どんどん価値が下がる従来型のビジネスではなく、使い込むことによって価値が上がるサブスクリプション型のビジネスが重要であること。デジタル技術が進展する中、多くの役員クラスの方は、これらについて非常に前向きになっています。われわれは米国の上場企業の日本法人であり、数字についてはグローバルで公表しているものが全てになりますが、グローバルと同様に、日本のビジネスも、この大きな波に乗って非常に順調に伸びています。
――コロナ禍でデジタル化の機運が高まっていますが、ビジネスを後押しする要因になっていますか。
新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の社会や人に大きな気づきを与えたと捉えていますし、DXの必要性は高まっているとみています。例えば、リモートワークによって社員がオフィスにいなくても、ロボットが人間の代わりをする仕組みがたくさん生まれています。また、印鑑をなくそうという動きが影響していると思われますが、最近ではワークフローシステムを提供するITベンダーと非常に多くの仕事をしています。ただ、DXに向けて取り組んでいるのは、日本だけではありません。RPAに関して言うと、19年ごろまでは、日本が世界の市場をリードしてきましたが、今は米国や欧州が非常に速いペースで伸びています。
――RPAに対するニーズが高まる中、製品の優位性についての見解をお聞かせください。
最も競争力のある製品を目指す世界戦略の中で、日本の非常に高い要求に応えることを重要視し、それは今も踏襲しています。現在、日本の経営層やミドルマネージメント層は、解決すべき課題を発見する部分に大きな問題意識を持っています。われわれの製品は、課題を発見するプロセスマイニングの領域では世界トップクラスの性能を持っており、さらにほかの機能を組み合わせることで、課題の発見と解決の両方を実現することができます。こうした製品をつくることができたのは、日本のニーズをしっかり取り込んできた結果だと思っています。あとはクラウドとオンプレミスで製品を提供できることも強みです。企業の間でクラウド化は進んでいますが、お客様の話を聞いていると、全てがクラウドにはならないとみています。お客様の環境に沿って対応できるのは、われわれがしっかりと日本のお客様の状況を理解できているからともいえます。かつては製品開発の4割くらいに日本の要望を反映させていました。会社の規模が大きくなり、もう製品開発に対する国別の要望の割合は取っていませんが、引き続き日本が最重要拠点であることは間違いありません。
巨大な客船から魚の群れに
――17年からCEOを務めていますが、この5年間で顧客のRPAに対する認識や使い方に変化はみられますか。
多くの企業は、RPAとは何かという部分から始まり、RPAによってできること、できないこと、そしてやりたいことが分かってきました。RPAはこれまで、定型業務を自動・効率化する役割を担ってきましたが、今は効率化した後に何をするかとの段階になっています。新しい自動化を実現するためのツールとして、われわれの製品に対する期待は高まっています。
――新しい自動化について、もう少し詳しく説明してください。
新しい自動化とは、社員個人の生産性を上げ、それを全社レベルで利用することを指します。今までの日本は、巨大な客船のようなシステムをつくり、その上に社員が乗っているような状況でした。違う港に寄ったり、バックしたりすることはできず、自由度に欠けていました。しかし、これからのデジタルの時代では、一人一人の社員が一つの魚の群れをつくり、右に行ったり、左に行ったりしながら目的地に向かうような柔軟なシステムが必要だと考えています。その視点でみると、自動化の市場はブルーオーシャンで、ものすごいニーズがあるとみています。
――自動化の市場を開拓していく上で、パートナー戦略についてはどのように考えていますか。
しっかりとお客様に価値を供給していくためにも、引き続きパートナーと一緒に製品を提供していくことが重要です。戦略としては、お客様の価値創造を支援できるようなパートナーにフォーカスしていく方針です。大手のお客様の中には、すでに成果を出している企業もあります。こういった動きをさらに広げていくために、自動化が価値創造に向けてどのような効果を発揮するかという点について、パートナーと意識を共有していきます。
これからは、個人がスマートフォンを使うのと同じように、オフィスでテクノロジーを使う時代になるでしょう。今までのようにIT部門の人がシステムをつくるのではなく、ビジネスを分かっている人がテクノロジーをどんどん使えるようにするには、人材育成が非常に大事です。パートナーもそれについては分かりつつあります。例えば、電通国際情報サービスとは今年4月から、育成プログラムの提供を開始し、3年以内に1500人以上のDX人材を育てることを目標にしています。
――これまでRPAは大企業での導入が目立っていました。中堅・中小企業に導入を広げていく考えはありますか。
われわれの製品は、中堅・中小企業、あるいは地方の企業に対しても提供できるようになっています。全国の企業が自動化によるメリットを享受できるようになれば、日本のために役立ちますし、われわれにとってもいいビジネスになります。なので、そういった企業に導入を広げていきたいとの考えはありますし、各企業に製品を提供するパートナーの存在は欠かせません。20年に立ち上げたディストリビューションパートナー制度では、戦略的に協業しているSB C&Sの商流の中で順調にパートナーを拡大しており、これからも新たなパートナーの獲得に力を入れていきます。
――パートナーの製品の扱い方はどのような状況でしょうか。
ロボットの開発などのいわゆるRPAの製品に加え、Growthプロダクトと呼んでいる周辺の製品にもパートナーが非常に興味を持っています。具体的には、さきほど触れたプロセスマイニングの製品や業務プロセスを文書化する製品などがあります。また、RPAに関連するさまざまな製品を揃えることで、これまでとは毛色の違ったパートナーがわれわれのビジネスに入りやすくなっています。
――最後に今後の抱負をお願いします。
われわれは日本を元気にしたいと思っていますので、共通の価値観を持つお客様やパートナーとともに実現を目指していきます。この5年間で、RPAのテクノロジーも、会社も相当、進化しました。お客様はRPAの活用について経験値が増え、パートナーはいろいろなことを支援してきています。そういったことを基に新しい自動化をつくりだし、圧倒的な生産性を支えていきたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
前職までの30年以上、コンサルティングや金融の業界に身を置いていた。UiPathのトップになって5年がたった今、かつて働いていた業界での仕事と、現在の仕事のどちらがおもしろいかと問うと「今のほうがおもしろい」と即答した。
理由の一つとして挙げたのは「お客様のビジネスの近いところにいる」ことだ。自動化によって課題を解決し、顧客に喜ばれることは、今の仕事ならではの醍醐味だと感じている。また、IT業界特有の変化の速さも魅力だと説明する。
経営者として「人の役に立つために何ができるか」を常に考えている。市場では、自動化に対して企業の理解は深まり、さらに先を目指す動きが出ている。ビジネスをデジタルに置き換えるための橋渡し役として、これからも自動化の普及に努め、より身近な仕組みとして定着させることを目指す。
プロフィール
長谷川康一
(はせがわ こういち)
広島県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒。アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)やゴールドマン・サックス証券、バークレイズ銀行でCIOやCOOなどを歴任し、海外でのマネージメントも経験。2017年2月から現職。20年4月から経済産業省「地域の持続可能な発展に向けた政策のあり方研究会」委員。
会社紹介
【UiPath】2005年にルーマニアで創業。現在は本社を米ニューヨークに移し、21年4月にニューヨーク証券取引所に上場。日本法人は17年2月に設立。「Fully Automated Enterprise(完全に自動化したエンタープライズ)」の実現をミッションに掲げ、最先端のRPAソリューションと一連の技術を組み合わせたエンドツーエンドの自動化プラットフォームを提供。