専用のストレージ装置を用いる従来型のITインフラに対し、複数のサーバーに内蔵されるストレージクラスターを記憶装置として利用し、コストや複雑さを削減するハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)。そのパイオニアと言えるニュータニックスの日本法人社長に今年、日本マイクロソフトやレッドハットでパートナービジネスを統括してきた金古毅氏が就任した。クラウドシフトが進むITインフラの世界で、今後どのような成長のシナリオを描くのか、戦略を聞く。
(取材・文/日高 彰 写真/大星直輝)
クラウドへのシフトはむしろ追い風
――HCIは、仮想サーバー環境の刷新・統合や、VDI(仮想デスクトップ基盤)の構築のために用いられるケースが多い製品でしたが、現在はどのように使われているのでしょうか。
今年の7月に、お客様がどのようなワークロードで当社の製品を使われているか、調査をしました。それを見ると、確かにインフラやVDIでの需要が高いのは事実なのですが、データベースやデータウェアハウスといったデータ管理の基盤や、ERPやサプライチェーン管理のような基幹システムでの活用が増えてきていることがわかりました。AIや機械学習も伸びています。当社のHCIのコアコンポーネントである「AOS」の性能は、この4年間で6倍に向上しました。それに伴って、ワークロードの幅も広がっている格好です。
――日本市場では、HCIのソフトウェア別市場シェアで1位を継続しています。グローバルの数字と比べても大きなシェアを獲得しているということですが、国内で高い評価を得ている理由は何でしょうか。
調査会社のレポートによるとシェアはほぼ6割に達しており、国内市場では安定したポジションを確立していると言っていいと思います。非常にシンプルに扱える製品であり、安定しておりかつセキュアという評価をいただいています。また、使いやすく管理コストが安く済むことに加えて、ハイパーバイザーが無料でついてきますので、ライセンスの費用も削減できます。日本は新しいテクノロジーに対して保守的な傾向がありますが、いったん導入事例が作れれば、同業他社のお客様でも採用が進みやすい市場です。近年は自治体など公共系でも実績を積み重ねています。
シンプルに扱えるという点では、当社は「コンシューマーグレード」という言葉を使っています。一般コンシューマー向けの製品を買ったとき、説明書を細かく読まない方も多いと思いますが、優れた製品はそれでも十分に使いこなすことができます。当社の製品も同じように、クリック操作でどんどん先に進めて簡単に管理できるというところに、非常にこだわりをもって設計しています。
――日本市場におけるサーバーの出荷台数は横ばいか減少の傾向にあります。ITインフラ製品のビジネスにとって逆風の環境ではないのでしょうか。
当初HCIを生業にしていたニュータニックスは、ハイブリッドクラウド実現のため製品ポートフォリオを戦略的に変えてきています。例えば、「Amazon Web ervices(AWS)」や「Microsoft Azure(Azure)」の上にオンプレミスのニュータニックスと同じ環境を展開できる「Nutanix Cloud Clusters(NC2)」というサービスがあります。オンプレミスでニュータニックスをお使いいただいているお客様がクラウドへ移行したいとなった場合、既存のライセンスをNC2に移転することができます。
パブリッククラウドへの移行やハイブリッドクラウド環境の構築を行う際、アプリケーションをリファクタリングしなければならない場合は時間もコストもかかってしまいますが、ニュータニックスの環境であれば現状のままクラウドへ上げられます。クラウド移行の基盤としてのニーズは今後より高まると考えています。
データ管理でさらなる成長を目指す
――目下取り組んでいる成長戦略を教えてください。
23年度第1四半期(22年8~10月)のグローバルの業績では、年間契約額が前年同期比27%増となりました。20%前後の成長をコンスタントに遂げているのは、HCIだけではなく、その上で動く周辺サービスのライセンス販売を増やしているからです。具体的なサービスとしては、ファイルストレージやオブジェクトストレージを提供する「ユニファイドストレージ」、複数のデータベースを管理する「データベースサービス」、VDI環境を構築する「エンドユーザーコンピューティング」の三つがあり、中でも今後求められると考えているのが、データベースサービスです。
これは、オンプレミスでもクラウドでも、ニュータニックスの上で動いている複数のデータベースを、一つのAPIとコンソールからすべて管理できるサービスで、「Oracle Database」「SQL Server」「PostgreSQL」「MySQL」「MongoDB」に対応しています。昨今、アプリケーションが爆発的に増えており、しかもマイクロサービス化されています。アプリケーションにひも付くデータベースが加速度的に増えていく中で、企業はなるべくデータベース管理の工数を減らさなくてはいけないという課題を抱えています。ここに、ハイブリッドクラウドに対応し、しかもコンシューマーグレードのUIでデータベースをきちんと管理できるサービスを提供することで、IT管理者がデータベースの管理に忙殺されるのではなく、付加価値の高い仕事にリソースを割くためのお手伝いができると考えています。
――販売チャネル向けの支援策は。
われわれは100%パートナー商流の会社ですので、お客様がハイブリッドクラウドの世界へ円滑に移行していただくためには、パートナー各社の力をお借りすることが必要です。今年、パートナープログラムの強化を発表しました。当社の製品を売っていただくにあたって、パートナー各社が先行投資した分をしっかり回収いただけるよう、インセンティブを含むファイナンス的な支援を強化しています。それと並行して、エンジニア向けの教育・認証制度をアップデートしました。われわれの認証を取っていただいたエンジニアの数が増えて、それをきちんとお客様に知っていただくべく、パートナーのマーケティング活動も支援していきます。
「選択肢」と「安心感」を提供する
――日本市場は新しいテクノロジーに対して保守的というお話がありましたが、今後のITインフラをどのように設計していくか、ユーザー企業はまだ悩んでいるという状況でしょうか。
当然、クラウドシフトは誰も否定していないと思いますが、他国と比べるとスピード感には違いがあります。アジアの中だけで見ても、やはりお客様の内製化が進んでいる国はニュータニックスの浸透スピードが速い。アジアの中では当社が最も早い時期から開拓したのが日本市場ですが、クラウドネイティブなアーキテクチャーの導入は、他の市場のほうが圧倒的に速いです。
ただ、インフラを今後どうするか悩まれるのは当然です。当社のCEOも「クラウドは“運用モデル”だ」と言っていますが、ビジネスをどうアジャイルにしていくかという中で、アプリケーションを動かす“場所”がクラウドじゃないといけない、オンプレミスじゃないといけないという時代ではないと思います。クラウドネイティブな運用ができる仕組みさえあれば、動かす場所は、ワークロードに何が求められるかによって、クラウドでもオンプレミスでも選べばいい。そのための選択肢を、われわれのようなベンダーがどれだけ提供できるかということだと思います。
――日本のIT市場において、今後どのような企業になっていきたいと考えていますか。
どうしても、「ニュータニックス=HCI」というイメージがあります。それは私も否定しませんが、HCIだけじゃないですよと。われわれはお客様のビジネスの課題をきちんと解決できて、お客様のアジリティ(俊敏性)を上げられる製品・体制を整えているということを知っていただきたい。今までのニュータニックスは、テックカンパニーとして技術を磨いてきた一方、会社としてのマーケティング活動やブランド力を上げるということに対して、そこまで貪欲ではなかったという部分もありました。これだけいい製品ポートフォリオを持っているので、それを知っていただくための活動にも力を入れていきたいと考えています。
――新たなITインフラ投資を行う際、HCIは既にメジャーな選択肢になった感がありますが、市場には浸透していない部分があるのでしょうか。
大きなエンタープライズのお客様には、まだ「HCIでは不安だ」と思い込んでいらっしゃる方が多いと思っています。逆に言うと、当社にとっては伸びしろがあるということです。われわれの課題は、新しいテクノロジーを取り入れることに対しての障壁をどこまで下げられるのか、別の言い方をすれば、「安心感」を提供できるかというところだと思います。ハイブリッドクラウドに向かうための選択肢をきちんとご提供できる会社になるというところが、お客様の安心感やアジリティを上げるためには重要だと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ニュータニックスが持つ企業文化について、金古社長は「まだまだスタートアップ企業。毎日新しいものをビルドしており、戦略もアジャイルに軌道修正しながら成長に向かっている」と説明する。日本法人は設立から10年を迎え、大手企業や公共系のユーザーも増えているが、「いまだHCIは市場に浸透しきっていない」という認識だ。
「コンシューマーグレード」のユーザーインターフェースを搭載し、専門的で高度な知識を持たないIT担当者でも管理を行える点をセールスポイントとしている。使い勝手の良さから、導入したユーザーの満足度やリピート率は非常に高いという。
商材そのものが優れた評価を得ている一方で、スタートアップの気風ゆえに、営業やマーケティングの戦略は「十分にオーガナイズ(体系化)できていない部分もあった」。会社を一段上のステージに引き上げるため、IT業界で長年パートナービジネスに取り組んできた金古社長の手腕が今こそ求められる。
プロフィール
金古 毅
(かねこ たけし)
日本マイクロソフトでOEMビジネスやパートナービジネスの開発に従事し、2012年に同社業務執行役員、14年に執行役、16年に執行役員に就任。17年にはパートナーセールス統括本部長に就任し、パートナーとの協業でクラウドビジネスを拡大した。19年にレッドハットで常務執行役員パートナー・アライアンス営業統括本部長に就任。22年6月より現職。
会社紹介
【ニュータニックス・ジャパン】米Nutanixの日本法人。2013年設立。米本社は09年にカリフォルニア州サンノゼで設立。11年に初の仮想化基盤製品を発売し、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)という新たな製品カテゴリーを形成した。当初はアプライアンス型での製品提供を行っていたが、現在はソフトウェアのサブスクリプションが主力。22年7月期のグローバルでのARR(年間経常収益)は約12億ドル、顧客数は2万2600社。