NTTデータは、2022年10月1日付で英国に本社を置くNTTリミテッドを傘下に収めた。単純合算ベースの売上高は富士通とほぼ並ぶ3兆6000億円規模となり、25年度の目標は4兆円超とさらなる成長路線を描く。世界トップ5のSIerを目指してきたNTTデータにとって、データセンター事業者として世界3位のシェアを誇るNTTリミテッドと一緒になることは、SIサービスとデータ基盤の両方を併せ持つITベンダーへと変貌する上で大きな意味があるという。23年7月をめどに国内事業会社と海外事業会社を傘下に置く持ち株会社体制になるタイミングを“第4の創業期”と位置づけ、「真のグローバル企業」を実現したい考えだ。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
海外売上高比率が半数を超える
――NTTリミテッドがNTTデータグループに入ったことで、海外売上高比率は一気に6割に達する見込みです。来年度(24年3月期)は通年で連結対象となりますが、どのような経営方針で臨みますか。
今は海外事業会社のNTTデータインクを先行して立ち上げ、その下にNTTリミテッドはじめ海外グループ会社を置いている段階です。23年7月をめどに国内に持ち株会社をつくり、その下に国内事業会社と海外事業会社を横並びにする再編を予定しています。私はこれを“第4の創業期”と位置づけており、将来的に「真のグローバル企業」を目指したいと考えています。
――「真のグローバル企業」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
分かりやすく言えば、「海外事業も手がけているNTTデータ」ではなく、「グローバルでビジネスを展開しているNTTデータ」になることです。世界のどこにいてもサービスを利用してもらえる体制を一段と強化していきます。
大手自動車メーカーをはじめ、製造業では世界中に商品を届けている企業が国内に数多くありますが、当社の属する情報サービス業は、必ずしも同一のサービスを届けるわけではありません。ユーザー企業の課題を解決したり、新しい価値をユーザーとともに創り出したりする業態ですので、グローバルに均質なサービスを提供しつつ、実際はユーザーの業種・業態や地域経済に密着する“グローカル”である点が製造業と違うところです。
技術や知見をグローバルで共有することを徹底するとともに、ユーザー企業に寄り添い、地域に根を下ろしたビジネスを展開することが重要になると捉えています。
――なぜ“第4”の創業期なのですか。
1967年に旧日本電信電話公社のデータ通信本部としてコンピューター事業を始めたことを第1の創業期としています。その後、88年に独立して今のNTTデータになったときを第2の創業期、05年に本格的な海外進出の意志を固めたタイミングを第3の創業期と捉えています。今回、旧ディメンションデータとNTTコミュニケーションズの海外事業などを統合して発足したNTTリミテッドを傘下に収め、真のグローバル企業になるとの目標を掲げたため、新たに第4の創業期と位置づけることにしました。
世界3位のDCシェアを併せ持つ
――既存のNTTデータのビジネスに比べて、NTTリミテッドの業態はかなり異質な気がします。NTTデータは、これまで多くの海外事業会社を傘下に収めてきましたが、ほとんどは同業SIerか特徴的な技術を持つソフト開発会社でした。その点、NTTリミテッドは世界第3位のシェアを持つ巨大なデータセンター(DC)事業者です。
言わんとしていることは分かりますが、当社も国内で16カ所のDCを運用しており、DCビジネスの経験がないどころか強みとしている部分でもあります。SIerは顧客目線で機能的、価格的に最適なDC設備や通信ネットワークを目利きする役割を担っており、この点は変わりません。
しかし、この目利きとは別の次元で「データを活用したビジネス」や「データ保護」の要素が求められているのも事実です。さまざまなデータを蓄積、分析して最適解を導き出すことに加え、データを活用することで従来はなかった新しいビジネスを創り出すデータ起点の経営が重視されています。それとともに利益の源泉となり得る大切なデータをどこに保管するのかが問われています。
もう少し視野を広げると、経済安全保障の観点から、自国のデータを域内に留め置く需要は決して無視できません。NTTリミテッドは欧米やアジア太平洋、インドなど20カ国・地域に93拠点、141棟のDCを運営しており、欧州や北米、東南アジア諸国連合(ASEAN)の域内に建設した堅牢なDCにデータを保管することが可能です。
――NTT持ち株の上期(22年4-9月期)決算説明会で、NTTリミテッドのDC事業の通期の想定受注金額の9割ほどが上期のうちに積み上がっており、中でも大手クラウド事業者からの需要が大きいとのことでした。つまり大手クラウドベンダーが大口顧客になっているということでしょうか。
守秘義務がありますので個別の顧客については申し上げられませんが、いわゆるハイパースケーラーと呼ばれる大規模クラウド事業者の需要は大きいものがあります。当社のシステム構築(SI)事業でパブリッククラウドを積極的に活用する一方で、当社のDC基盤をそうしたクラウドベンダーに利用していただくエコシステムを構築しているとの見方もできます。
――旺盛な需要に応えるため22年度のDC設備投資額の見通しは、外部資本を含めて前年度比56%増の25億ドル(3375億円)に達し、もはや既存のSIerの投資規模をはるかに超えています。
確かにDCの設備投資とSIerの戦略投資は方向性が違いますね。当社はNTTリミテッドを中心とするDC投資とは別に、22年度は320億円規模のイノベーション投資をグローバル規模で進める予定です。これは人材育成や競争力の高いIT商材の開発、知財の増強を通じて、ユーザー企業の業務革新や自動化、社会の仕組みを変えていくような力量を高めることを目的としています。
クラウドとエッジの両方を担う
――NTTリミテッドのDC設備や通信ネットワークの強みと、既存のSIerとしてのNTTデータが強みがうまく噛み合えば、ライバルのSIerやDC専業の事業者にはない独自の立ち位置が確立できそうです。
私は「つくる力」「つなぐ力」と表現しています。つくる力はNTTデータのSIerとしての側面で、文字通りユーザー企業の業務アプリケーションの開発や、業務改革に必要なコンサルティングサービスを指します。つなぐ力はネットワーク構築に優れた旧ディメンションデータと、通信キャリアとしてのNTTコミュニケーションズの海外事業で培ったNTTリミテッドの能力です。DCも数多く運営していますので、NTTリミテッドがクラウド側、NTTデータのSI事業がエッジ側のビジネスをそれぞれ担うと捉えることもできます。
――NTTデータの既存の海外グループ会社とNTTリミテッドの海外拠点とかなりの地域で重複するように見えます。インフレで欧米の人件費が高止まりする懸念もあります。
23年7月をめどとする持ち株会社体制への移行までに、組織や人事面も含めて検討している最中ですが、このあたりは現地メンバーの意見を重視して決めていきます。冒頭に話したとおり、情報サービス業はユーザーの業種・業態、地域経済に密着する“グローカル”なビジネスであり、地場で顧客と向き合っているメンバーが働きやすいよう交通整理をしていきたいと考えています。
欧米のインフレがどこまで進むか予測は難しいですが、今のところ地域の市場価格の変動に報酬も合わせるようにしています。コロナ禍期間を経て、例えば欧州の案件に北米やアジアのメンバーがオンラインでリモート参加するといったことも当たり前になりましたので、長い目で見ると仕事の内容に合わせて世界全体で賃金が平準化に向かうことも考えられます。
――25年度までの4カ年中期経営計画について説明していただけますか。
NTTデータとNTTリミテッドの昨年度(22年3月期)売上高の単純合算ベースでは3兆6000億円ですが、これを連結売上高で4兆円、営業利益率は10%にすることを目標にしています。NTTリミテッドのDC拠点については、22年度はインドネシアやインド、ドイツ、南アフリカ、オーストラリアなどで11カ所を新規開設する予定で、来年度も欧州、北米、アジアの各所にDCを新設する計画を立てています。つくる力とつなぐ力を合わせて目標に迫っていく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
NTTデータは国内で16カ所のDCを運営しており、「SIerとしては国内屈指の規模」(本間洋社長)だと自負する。データ保護の観点から中央省庁や金融機関、大手企業を中心にDC基盤をSIerが自前で持っているかどうかを重視する傾向があり、そうした需要に応えた結果という。
今回、グローバル規模でDC基盤を持ったことで、世界の主要顧客のデータ保護やデータ起点の経営戦略を支える体制が整った。併せて技術の目利き(ディスカバー)、設計(デザイン)、開発(ディベロップメント)、運用(ドライブ)の四つの頭文字Dから始まる価値創造モデル「4Dバリューサイクル」を通じ、世界のどこでも、ユーザー企業が必要とするサービスや価値を届ける。
SIerとして培ってきたシステム開発力とNTTリミテッドのDCやネットワーク基盤を「つくる力、つなぐ力」と表現し、新体制におけるグローバルでの競争力の源とする構えだ。
プロフィール
本間 洋
(ほんま よう)
1956年、山形県酒田市生まれ。80年、東北大学経済学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。2001年、NTTデータ情報ネットワークビジネス事業本部カードビジネス事業部長。07年、広報部長。09年、執行役員広報部長秘書室長兼務。10年、執行役員流通・サービス事業本部長。13年、常務執行役員第三法人事業本部長。14年、取締役常務執行役員エンタープライズITサービスカンパニー長。16年、代表取締役副社長執行役員法人・ソリューション分野担当。18年6月19日、代表取締役社長就任。
会社紹介
【NTTデータ】英国に本社を置くNTTリミテッドを2022年10月1日付でグループ傘下に収めたことで、本年度(2023年3月期)の売上高は前年度比28.1%増の3兆2700億円、営業利益は同11.0%増の2360億円の増収増益の見通し。従業員数は約19万人、世界で約80カ国・地域で事業を展開する。