PFUは主力のドキュメントスキャナ製品のブランドを、富士通ブランドからリコーブランドへと4月から順次切り替えることで、リコーグループとして本格的に始動する。昨年9月のリコーグループ入りから半年余り、グループの相乗効果を国内外で高めていく取り組みを加速させてきた。国内ではデジタル化の入り口としてのスキャナ用途の拡大、リコーの販売チャネルの活用を進めるとともに、欧米市場ではPFUが持つディストリビューター経由で、リコーの360度カメラや電子黒板といった周辺機器を販売するなどクロスセルを推し進める。村上清治社長に話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
スキャナのブランド変更を実施
――この4月から主力のスキャナ製品のブランドを従来の富士通からリコーへの切り替えが始まりました。リコーグループとしてのPFUが本格的に始動した印象を受けます。
リコーブランドへの切り替えは、4月から8月までをめどに全世界で完了する予定です。主力のスキャナ製品のシェアは高く、国内で約70%、北米で約40%、欧州で約33%となっています。市場規模の大きい北米では有力なディストリビューターや販売パートナーと深い関係を持っているのも強みです。まずは、スキャナ製品のブランドをリコーに変えることで、リコーグループとしての活動に弾みをつけていきます。
――リコーは約840億円を投じて、昨年9月1日付でPFUをグループに迎え入れましたが、改めてその狙いを話していただけますか。
ご存じの通り、オフィスや作業現場で発生するさまざまな紙文書や帳票、カード類をデジタル化する入り口に当たるのがスキャナです。リコーは2000年にスキャナ単体の事業は撤退して、複合機に統合していますので、当社のドキュメントスキャナはリコーにはない強みであると同時に、業務のデジタル化が急速に進むなか、スキャナの市場はもっと大きく拡大すると見込まれてグループに迎え入れられました。
複合機でもスキャナ機能を強化していますので部分的な機能は重なるのですが、それでも当社は個人から業務用途まで、小型のものから大型で高速、高性能な機種まで幅広く取り揃えているため、複合機ではカバーしきれない用途まで活用できるのが大きな魅力です。もちろんシワがある紙だったり、厚手だったりしても読み取ることが可能で、カード類や複写伝票にも対応するドキュメントスキャナ本来の機能も非常に高いものがあります。
――単純にリコーグループのドキュメントスキャナ領域を強化することだけが目的ですか。ほかにも期待している相乗効果はありますか。
分かりやすいのが北米市場で、前述の通り当社は北米で有力な間接販売のチャネルを持っています。リコーはどちらかといえば複合機を中心に直販指向が強い。ただ、リコーも複合機だけ売っているわけではなく、360度カメラやプロジェクター、電子黒板(インタラクティブホワイトボード)などのデバイス類を幅広く手がけているので、当社の販売チャネルで取り扱うことでシェアをより伸ばせるとみています。
国内100拠点余りの強みを生かす
――国内でのリコーグループの連携はどうですか。
国内ではドキュメントスキャナのシェアは既に約70%に達しているため、今以上に販売を伸ばすには用途を広げる以外に方法はありません。市場のパイを広げるのはトップベンダーの責務でもありますので、リコーグループの営業力も活用しながら新しい用途の提案に力を入れます。もちろんグループ連携は、どちらかがどちらかに頼るのではなく、双方の強みを生かしつつ、足りないところは互いに補ったり、自身の業務プロセスを見直したりするなどして、本当の意味での相乗効果を生み出していきます。
――ドキュメントスキャナ以外の国内ビジネスの状況はいかがでしょうか。
まず、当社の成り立ちを振り返ると、石川県発祥のウノケ電子工業から始まって、その後、富士通や内田洋行、パナソニックが大株主となり、オフコンや周辺機器の製造を手がけていました。PFUはそれぞれの頭文字をとるかたちで名づけらました。オフコンはコンピューター事業、周辺機器はドキュメントスキャナや高級キーボード、自社製品の保守を目的に全国に保守網を展開して現在に至ります。
コンピューター事業といっても汎用的なパソコンやサーバーではなく、製造装置や医療機器、通信機器などの制御用コンピューターとして組み込む用途がメインで、キオスク端末の開発なども手がけています。この組み込み型のコンピューター事業は、ハイエンドへの集中と顧客接点の深化、高付加価値のサプライヤーとして伸ばしていく余地があります。
また、全国に展開した100拠点余り、約800人のサービスエンジニアが所属する保守網を活用して、ユーザー企業の業務プロセス変革を提案できる事業の創出を推し進めます。この保守拠点は24時間365日、最短4時間で客先に出向く体制を構築しています。リコーの国内販売会社のリコージャパンも約350カ所の保守拠点を持っていますが、24時間体制で保守サービスを提供しているのは当社の特徴でもあります。
――ユーザー企業に近いところに数多くの拠点を展開している強みを生かして、業務プロセス変革を支援するビジネスを伸ばすということですか。
ルーツがオフコンメーカーだったこともあり、ITインフラや通信ネットワークの知識、それに加えて実はアプリケーションの開発エンジニアも数多く擁しています。保守サービスのネットワークを駆使して、ユーザー企業の業務プロセスの変革のお手伝いができると捉えています。こうしたことから、私はPFUの目指す姿として「“はたらく”を変える」ことに貢献することを掲げました。
顧客企業のプロセス改革を支援
――リコーの目指す姿が「“はたらく”に歓びを」ですので、それと呼応するような語感ですね。
ドキュメントスキャナはデジタル化の入り口であり、さらにそこからつながる業務プロセスの変革を支援し、ユーザー企業の“はたらく”を変えることが、当社にとっても大きなビジネスチャンスになると考えたからです。
企業が競争に勝ち進んでいくには、ライバルとの関係や事業環境の変化、デジタル技術の進展に合わせて常に業務プロセスを見直していくことが求められます。これを怠ると競争力を失ってしまいます。例えば、過去にはERPパッケージのベストプラクティスに業務を合わせてプロセス変革をする手法が注目を集めましたが、導入後も見直しや手直しを続けないと効果が持続しません。「導入したら終わり」ではないのです。
当社にはITインフラやネットワークだけでなく、アプリ領域に長けた技術者もいますので、ユーザーの業務プロセスの課題を突き止め、改革を支援する領域の伸びしろは大きいと感じています。
今はローコード開発やSaaSの組み合わせなどによって、それほど高度なITの技量がなくてもユーザー企業自身がITシステムを手直しでき、必要ならリコーがサイボウズと共同開発した「RICOH kintone plus」のような基盤の上にアプリをつくることも可能です。アプリをつくったあとはRPAツールを駆使しての自動化も容易です。1970年代に、オフィス業務を自動化するOA(オフィスオートメーション)の概念を業界に先駆けて提唱したリコーグループのノウハウも取り入れていきます。
――直近の業績についても教えていただけますか。
ここ数年を振り返ると連結売上高は約1300億円で伸び悩み、新しい事業の芽はまだ十分に育っているとはいえない状況です。まずはドキュメントスキャナの売上高を、リコーグループとの相乗効果によって足元の約590億円から25年度までに130億円上乗せして720億円に増やすことを目標に掲げています。リコーのグローバルの販売チャネルに当社のドキュメントスキャナを乗せると同時に、当社が北米や欧州市場で持つディストリビューターチャネル経由でリコー製品を売るクロスセルを推進します。
並行して国内拠点を生かしてユーザー企業の業務プロセス変革の支援や、組み込みコンピューター事業の高度化、高付加価値化を推し進めることで、早期に当社全体で年商1500億円規模を実現したいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
村上氏が社長に就くのはPFUで3社目となる。1社目はアパレル会社の三愛で再建と事業売却を行い、2社目はシェアードサービス会社のリコークリエイティブサービスで業務プロセス改革を推し進めた。キャリア全体を振り返ると「経営企画や事業戦略、新規事業の立ち上げなどを経て、グループ会社の再建やプロセス改革に取り組んできた」。
PFUは数多くの優位性があるが、過去には内田洋行や富士通などの親会社の営業力に頼っていた側面がある。今後はPFU自身の提案力、販売力をより高めていけるよう改革を推し進めることで、PFUとリコーグループが互いに高め合える関係構築を急ぐ。
プロセス改革を重視する村上氏の手法から、ついたあだ名は「ブルドーザー」で、信条は「やればできる」。揺るぎない信念をもって力強く改革を遂行する様子がうかがえる。
プロフィール
村上清治
(むらかみ せいじ)
1961年、福岡県生まれ。85年、明治大学経営学部卒業。同年、リコー入社。2012年、三愛代表取締役社長執行役員。13年、リコーグループ理事。18年、事業開発本部本部長。20年、リコークリエイティブサービス代表取締役社長。22年9月1日付でPFU代表取締役執行役員社長に就任。
会社紹介
【PFU】連結従業員数約4400人、年商は1336億円(2022年3月期)。売り上げ構成比はドキュメントスキャナ関連事業が約40%、国内100拠点余りの保守サービス網をベースとしたインフラカスタマーサービス事業が約45%、組み込み用コンピューター事業が約15%を占める。