NECフィールディングは、AIや量子アニーリング、ロボットなどの先進的なデジタル技術を駆使して保守サービス業務の効率化に取り組んでいる。ユーザーとのやりとりをAIで分析し、ハードウェアの不具合箇所の特定を支援したり、量子アニーリングを配送の最適化に活用したりしている。9月に開設した大型配送拠点「相模原テクニカルセンター」(相模原市)では、自動倉庫や自動搬送などの技術を積極的に取り入れ、競争優位性をより高める考えだ。6月21日付でトップに就任した形山嘉浩社長に話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
負荷軽減や時間短縮を実現
──最新のデジタル技術を駆使した業務改革に取り組んでいるとうかがっています。
当社は、ハードウェアの保守やITインフラの構築を事業の柱としており、近年はAIや量子アニーリング、ロボットなどの先進的なデジタル技術を駆使して業務の効率化に取り組んでいます。保守サービスでは、素早く的確に不具合の原因を特定し、どれだけ効率的かつ短時間で復旧できるかが競争力の源泉となりますので、日進月歩で進化する先進技術を積極的に使っています。
例えば、不具合が発生したハードウェアのログをAIで解析し、どの部分に障害があるのかの切り分けや特定に役立てています。2021年から段階的に活用を始めたところ、AIによる障害切り分けの正答率は90%台まで高まりました。もちろん最終的には人が見て判断しますが、ざっくりとした答えをAIが出してくれるので、障害切り分けにかかる保守サービス担当者の負荷軽減や時間短縮に大いに役立っています。
──AIの活用はさらに進んでいるのでしょうか。
本年度(24年3月期)はコンタクトセンターで聞き取った内容の自動文字起こしや感情分析でAIの活用を検証しています。自動文字起こしはオペレーターの負荷軽減に役立ちますし、感情分析は連絡をくれたユーザーの緊迫度、焦り具合を読み取って、緊急度合いを推測します。非常に緊迫した状況であることが読み取れれば、オペレーターに注意を促して対応の優先度を高める判断材料にできます。
──量子アニーリングの活用についても話していただけますか。
NECが研究開発に力を入れている量子アニーリング技術は、当社でも22年9月から東京と大阪の配送ルート最適化の用途で使っています。通常は保守作業用の自動車に保守部品を積み、保守担当の技術者が運転してユーザー先に出向くのですが、東阪は駐車場の制限もあって、技術者は電車などで移動し、部品を運搬する運送車とタイミングを合わせて現地で落ち合う流れが多い。
部品を降ろした運送車は、そのまま次のユーザー先へ移動しますので、人と運送車の到着タイミングがぴたりと合うような配送計画を立てるのに、これまでは2人かがりで2時間ほどかかっていましたが、量子アニーリングを使うようになってからは、わずか10分で配送計画を立てられるようになりました。
独自事業の軸足は公共セクターに
──6月21日付で社長に就任されていますが、どのようなキャリアをお持ちなのか教えてください。
NECで中央省庁を中心に公共分野を長く担当してきました。具体的にどの省庁かは守秘義務のため申し上げられませんが、公共分野に明るいことは当社のビジネスととても相性がよいのではないかと感じています。
当社はNECのサーバーや汎用機、ネットワーク機器、PCのほか、OEM製品を含めてNECブランドのハードウェア全般の保守サービスを担う子会社です。それと同時に、ITインフラ構築ビジネスを軸とした自主事業を展開し、自治体や学校、病院といった公共セクターを注力業種と位置付けています。この領域は、これまで私が担当してきた公共分野の知見を生かせます。
──なぜ民需ではなく、公共セクターを注力業種としているのですか。
自治体や病院、学校は今後も継続してIT導入が続くとみているからです。民需と異なるのは、公立の病院や学校はIT予算が限られ、自治体も予算が厳しいところが多い上に、全国に点在しています。当社は全国340カ所に保守サービス拠点を置き、ユーザーにとても近いところに常に人がいることを強みとしています。また、予算が限られている点については、ほかのベンダーにとっての大きな参入障壁になり得ます。
──主力の保守サービスの状況と課題については、どのように認識していますか。
ITインフラ構築や他社製品を保守するマルチベンダー保守などの当社独自のビジネスは、ここ20年ほど手がけており、直近では売り上げ全体の半分ほどを占めるまでに拡大しています。一方で、ハードウェアの保守にあまり予算をかけたくないと考えるユーザーが増えているのも事実で、当社としてはいかに保守サービスの業務を効率化するかが勝ち残っていく上でとても重要な要素となっています。
安定稼働の重要性はより高くなる
──9月に開設した相模原テクニカルセンターについて教えてください。
相模原テクニカルセンターは、部品配送のために開設した6500平方メートル余りの大型拠点で、自動倉庫や無人搬送といったロボット技術によって自動化する設備を25年をめどに導入する予定です。これまで人力で行っていた搬送作業を徹底的に自動化・省力化していきます。既存の川崎テクニカルセンター(川崎市)のバックアップを担う事業継続計画の一環としての機能を果たすとともに、保守効率の一層の向上や自主事業を伸ばすハイテク拠点としても存分に活用していく方針です。
──川崎と相模原のセンターは、災害対策で相互にバックアップするには距離が近すぎませんか。
確かに同じ県内ではあるものの、海側と山側で立地環境はずいぶん違います。延べ床面積が3万平方メートルの川崎センターは神奈川県の海側にありますが、相模原センターは地盤の固い山手にあります。両センターを軸に全国約150カ所の中小倉庫に保守部品を配送する中核拠点を二重化すると役割は十分に果たせると考えています。
──NEC直系子会社は、ネットワーク構築に強いNECネッツエスアイ、中堅・中小企業向けのSIに強いNECネクサソリューションズ、NECグループ屈指のソフト開発力を誇るNECソリューションイノベータなどありますが、どのような関係にありますか。
グループ会社としての役割分担は明確にありますが、一方で当社の自主事業ではケースバイケースで連携しているのが実際のところです。自主事業はITインフラ構築やマルチベンダー保守がメインですので、NEC本体やグループ会社と連携できるところは連携して、グループとしての価値提供を最大化していけるよう努めていきます。
──クラウド化が急速に進んでいますが、ユーザーの拠点におけるハードウェアの設置状況にはどのような影響が出ていますか。
学校や病院、役所、店舗、工場、倉庫などのIT機器、デジタル機器の数は減るどころか増えています。当社センターでも徹底した自動化・ロボット化を進めていますし、病院の診療や検査に使う医療機器のIT化も著しい。学校はGIGAスクール構想で様変わりしました。端末やサーバー、ネットワーク機器など、さまざまなハードウェアに関して、ユーザーはまず第一に安定稼働を求めています。不具合が起きたときは、できる限り速やかに交換部品を揃えて現場に出向き、修理・復旧する需要は依然として大きいと捉えています。実際、自主事業のITインフラ構築では2桁億円の大型案件も増えています。
こうした状況を踏まえて、当社のキャッチコピーは「デジタル環境から人の暮らしまでトータルサポートする会社」としています。当社は、全国に配置した保守サービス拠点と部品の配送網を駆使して、離島や山間部に至る全国のすみずみまで出張保守ができます。この能力を存分に発揮し、社会が抱える課題を解決することが勝ち残る道だと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「業務効率化の追求によって、これまで利益が見込めなかった案件でも採算が合うようになってきた」と手応えを感じている。身の回りのデバイスが増え、ネットワークへの依存度が高まる中でも、ハードウェア自体の単価は下がっている。全国をカバーし、24時間365日の稼働が可能な保守サービス体制を維持するのは容易ではない。
ライバル会社がさじを投げた案件を「当社が代わりに請け負うケースがより増える」とみる。ハードウェアの安定稼働はITインフラ基盤の要であり、とりわけ予算の限られる自治体や病院、学校といった「公共セクターのITインフラを支えるのは、当社の重要な役割だ」。ハードウェアの保守ビジネスにおける提供価値は「急激に勢いが増している」と自信を示す。
プロフィール
形山嘉浩
(かたやま よしひろ)
1969年、岡山県生まれ。92年、下関市立大学経済学部卒業。同年、NEC入社。2017年、第二官公ソリューション事業部長。20年、社会基盤企画本部長。22年、執行役員。23年4月、NECフィールディング執行役員副社長。同年6月21日から現職。
会社紹介
【NECフィールディング】NECグループの保守サービス子会社。自主事業としてマルチベンダー保守やITインフラ構築ビジネスを手掛ける。2023年3月期の単体売上高は1725億円。保守サービス拠点数は全国約340カ所。単体従業員数は約4500人。