SB C&Sが13期連続の増益を達成した。Value Added Distributor(付加価値提供型ディストリビューター)として、新しいテクノロジーをいち早く、使いやすいかたちで市場に届けることで、ビジネスを成長させている。4月に社長に就任した草川和哉氏は、「事業領域の拡大」「ビジネスモデルの進化」「リカーリングモデルの拡大」の三つの成長戦略を推進するとともに、組織の強化やAI活用の加速に取り組み、さらなる成長を目指している。DXの実現に向けたIT投資が活発化しており、販売パートナーから同社に寄せられる期待はこれまで以上に大きくなっており、「販売パートナーにとって不可欠な存在になる」と力を込める。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
13期連続増益を達成
――4月に社長に就任されました。率直な気持ちを教えてください。
1981年に日本ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)が創業しました。そこから43年間、当社が手掛ける流通事業は脈々と続いています。トップはこれまで孫(ソフトバンクグループの孫正義・代表取締役会長兼社長執行役員)、宮内(ソフトバンクの宮内謙・取締役特別顧問)、溝口(SB C&Sの溝口泰雄・代表取締役会長)が務めてきました。歴代のメンバーをみるとしびれますし、非常に身の引き締まる思いです。
私は93年にソフトバンクに入社し、そこからさまざまな販売パートナーの方々に支援していただきここまで来ました。この人脈を生かすことで、これからも販売パートナーと一緒にビジネスを拡大させていくことができると思っています。
――昨年度は取締役副社長兼COOを務めていました。どういったことに取り組んだのでしょうか。
私はこれまで事業部門を歩んできましたが、COOとして、人事、財務、経理、経営企画といったコーポレート部門もマネージしていくことになったのは大きな変化であり、社長に就任するための最初のステップだったと捉えています。
当社はソフトバンクグループの企業として高い成長を期待されています。その実現には、常に新しいことに挑戦し、新しいことを提案していかなければなりません。一方、「常に成長戦略」という取り組みを継続していくとなれば、「常に構造改革」が必要となり、自ら率先して変革する文化がDNAとして根付いています。成長戦略は、事業領域の拡大、ビジネスモデルの進化、リカーリングモデルの拡大の三つが柱です。昨年度は、この成長戦略を実行できたことで13期連続増益を達成しました。
――成長を加速させるために強化していくこと、新たに取り組むことを教えてください。
すでにいくつか手を打っています。事業領域の拡大においては、Value Added Distributorとして、既存事業を成長させるのはもちろんですが、違う分野にも進んでいくことを考えています。当社には事業開発を担うサービス開発事業本部があり、現在、IoT事業やFintech事業を立ち上げつつあります。その中で、グループシナジーによる取り組みも進めています。ソフトバンクでは、「PayPay」によって「ソフトバンク経済圏」を構築しようとしています。当社は、マルチ決済の導入を支援する「PayCAS(ペイキャス)」を立ち上げ、ソフトバンクと一緒にビジネスに取り組んでいますが、大きく前進しており、手応えを感じています。
AIとクラウドに注力
――現在の法人向けIT市場をどう捉えていますか。
従来は、基幹システムの老朽化対策など守りのIT投資がメインでしたが、DXにより攻めのIT投資がとても伸びてきています。そのため、販売パートナーと話をしていても、新しいソリューションの提案などDXに関連することにはとても興味を持たれますね。
――生成AIの登場により、IT市場ではAIが話題の中心になっています。
AIビジネスについては、23年度の下期から組織化して強化を図っています。生成AIの利用はハイブリッドになっていきます。オンプレミス(でのAI利用に関する製品)では、「SoftBank World 2023」でGPUサーバーに関する発表を行いましたが、それ以降、大きな需要が出てきており、改めて注目の高さを実感しています。クラウドでは、「Azure OpenAI Service」のビジネスを推進していきます。昨年、日本マイクロソフトとともに、主要都市でロードショーを行い好評でしたので、今年も開催を予定しています。
――クラウドビジネスの強化にも長年取り組まれてきましたね。
クラウドでは特にSaaSが重要なポイントだと考えています。現在、国内企業のSaaS利用は米国に比べると遅れていますが、将来的には拡大していくはずです。しかし、SaaSはサービスごとに課金体系などの違いがあるため、SaaSの利用が拡大するほど、販売パートナーはその管理が課題になります。当社は、サブスクリプション契約、更新管理のためのプラットフォーム「ClouDX(クラウディーエックス)」を提供することで、その課題を解決できます。また、SaaS専任チーム「Cloud Service Concierge」による支援も行うことで、販売パートナーがSaaSビジネスに取り組みやすい環境を整えています。
――いわゆる“NEXT GIGA”や、Windows 10サポート終了への対応を教えてください。
NEXT GIGAは全国の学校が対象ですので、各地に人員を配置して、販売パートナーに当社の持つ情報をしっかりと届けていきます。そして、当社には通信を提供できる強みがあるので、ネットワークを持たない学校や逼迫している学校に対して、ソフトバンクと組んでモバイル回線のSIM入りの端末を提供するなどしていきます。
Windows 11へのマイグレーションについては、4月に設立した「Windowsマイグレーション相談センター」を通じて支援を強化しています。
流通業の資産は人
――組織強化も重要なポイントになりますね。
当社は、スローガン「Innovation TOGETHER」の全社推進に取り組んでいます。Innovation TOGETHERを構成するのは、「主体性」「挑戦」「共創」の三つのキーワードになりますが、今期は共創に重点を置いています。具体的には、コミュニケーションの機会を増やしていきます。新型コロナ禍では、オール在宅勤務の期間がありましたが、経営的に見て、ジャッジが遅れている感覚がありました。昨年から、週1日は出社するようにしたところ、(オール在宅勤務期間に比べて)社員同士のコミュニケーションが活発化しましたし、若手社員が成長を実感できるようになりました。こういった部分を大事にしていきたいので、共創を社内でより促していきます。
また、事業の中には衰退していくものもあります。しかし、担当者が自らその事業をやめたいとは言えません。それを判断するのが、マネジメントラインです。そういった意味では、業務の一部をAIに肩代わりさせて、新たにフォーカスする事業に人をシフトしていくといったことも少しずつ進めています。われわれ流通業の資産は、人です。人のスキルを人が上げていく、この循環をつくっていくことで強い組織になっていくと思っています。
――社内でのAI活用についても教えてください。
トランザクションの効率化に焦点を当て、AIを組み込むことを実践しています。例えば、受注処理システムでは、AI OCRを活用して発注の際に発生する入力業務を自動化していますし、社内情報ポータルでは、生成AIに取り扱うプロダクトやサービスの情報を学習させることで、欲しい情報を入手するための時間を大幅に短縮できました。当社のカルチャーは実践です。実践して使い倒したものを、販売パートナーに自分の言葉で伝えられるのが強さになっているので、これからもAIの活用を加速させていきます。
――販売パートナーに向けて今後の展望をお願いします。
ディストリビューターは、販売パートナーに必要とされなければなりません。そのため、販売パートナーに選んでもらえる最適な組織にしています。当社には、豊富な情報を持っている強みがあります。例えば、当社のエンジニアたちは年間で300回以上のウェビナーを開催し、公平な観点から製品などの情報を販売パートナーやエンドユーザーに発信しています。扱う製品に関しても、目利きのプロが選定し、その製品を販売しやすいように、優れた技術を持つエンジニアで構成する技術部門と、メーカーを担当する販売推進部門がセットで販売パートナーをフォローしています。これがValue Added Distributorとしての役割ですし、続けていくことで、販売パートナーにとって不可欠な存在になりたいですね。そして、社会になくてはならない会社を目指して努力を続けていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
国内企業によるDXの取り組みの加速は、販売パートナーにとって大きなビジネスチャンスになっている。一方で、常に生まれ続けるテクノロジーを理解して、ユーザーに適切に提案することの難しさを感じている販売パートナーも少なくない現状がある。
その中でSB C&Sは、Value Added Distributorとして、迅速に必要な情報を発信し、製品単体ではなく販売しやすいソリューションとして提供するなどして、販売パートナーを支援している。草川社長が取材の中で何度か口にした「販売パートナーにとって不可欠な存在」を体現していると感じた。
同社は13期連続増益を達成するなど高成長を遂げているが、草川社長には、さらなる成長が求められる。大きなプレッシャーがあるのは容易に想像できるが、インタビュー中の言葉には、自信が感じられた。同社がどのように進化していくのか、とても楽しみになった。
プロフィール
草川和哉
(くさかわ かずや)
1969年広島県生まれ。1993年2月にソフトバンク(現ソフトバンクグループ)に入社。ソフトバンクBB(現ソフトバンク)のコマース&サービス統括コマース&サービス本部副本部長などを経て、ソフトバンク コマース&サービス(現SB C&S)の執行役員ICT営業本部長や上席執行役員ICT事業本部長などを歴任。20年にSB C&Sの取締役常務執行役員兼ICT事業本部長となり、取締役専務執行役員としてICT事業本部長やコンシューマ事業本部長兼クラウドサービス事業本部長を務めた後、23年4月に取締役副社長兼COO兼コンシューマ事業本部長に就任。24年4月から現職。
会社紹介
【SB C&S】ソフトバンクBBからIT流通事業(コマース&サービス事業)部門が分社・独立し、ソフトバンク コマース&サービスとして2014年4月1日に発足。法人向けIT製品・サービスの大手ディストリビューターとして存在感を放つ。19年1月1日にSB C&Sに社名変更。