工場やインフラなどでは、専用の制御機器が用いられ、最近はこのようなOT(オペレーショナルテクノロジー)環境を狙ったサイバー攻撃が増加している。台湾のTXOne Networks(ティーエックスワンネットワークス)は、OTセキュリティー製品を提供し、サイバー攻撃を受けても事業が止まらない世界の実現を目指している。日本法人の近藤禎夫社長は、製造業を中心に数多くのOT環境が存在する国内において、パートナーとの協業強化などを通じて、OTセキュリティーの普及に取り組む考えだ。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
OTセキュリティー市場をつくる
──顧客やパートナーのOTセキュリティーへの関心は高まっていますか。
日本法人は2022年4月に設立しましたが、当時は「OTセキュリティーとは何か」といった基本的な質問が多くありました。しかし、最近は、OT環境を狙ったサイバー攻撃による被害の拡大や、グローバルで法規制が強化されていることなどを背景にOTセキュリティーの重要性が高まり、「こういった環境でのセキュリティー対策はどうしたらいいか」といった具体的な相談が増えています。24年11月に新オフィスへ移転し、オフィス内にお客様やパートナーが製品・ソリューションを体験できる「TXOne Innovation Hub」を開設しました。デモを実際に見ていただけるようになったことで問題点が明らかになり、これまで以上に深いディスカッションができるようになっています。
──OTセキュリティー市場についてはどう分析されますか。
OTセキュリティーの重要性を訴えるセキュリティーベンダーが増えているので、一緒に市場をつくっていくことが重要だと捉えています。また、OT環境は複雑であり、自社の製品がどの部分を守っているのかを正しく発信するのが大切です。自社で賄えない部分は、ほかのセキュリティーベンダーの製品との連携が必要になりますし、実際、当社でも他社との製品連携を進めています。
NIST(米国国立標準技術研究所)は24年に「サイバーセキュリティーフレームワーク2.0」を発表しました。以前の1.1は、「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」の五つがコア機能とされていましたが、2.0では「ガバナンス」が追加されました。本来ならば、2.0を意識したセキュリティー対策を考えなければなりませんが、1.1を基準に製品を導入しているお客様も少なくない状況にあります。最新のガイドラインがどのようになっているのか、それに対応していくにはどうすればいいのかなどを業界全体で、きちんと発信していくことが大事だと考えています。
顧客からのフィードバックを生かす
──製品の強みを教えてください。
OT環境には高価な産業機器や医療機器などがあり、長く利用されています。これらの機器の場合、古いOSが使用され、ITのように最新のセキュリティー製品を適用できません。現場で働いている人たちのセキュリティー知識が必ずしも高いとは言えない現状もあります。当社はこのようなOT環境を意識した製品を開発、提供しているのが強みです。
例えば、エンドポイントセキュリティー製品「Stellar」は、機器が稼働していてもインストールが可能で、インストール後に再起動をする必要がありません。また、OT環境には、メーカーや業界により異なるさまざまな産業用プロトコルが存在します。このプロトコルをどのようにコントロールするのかが重要になるのですが、ネットワークセキュリティー製品の「Edge」シリーズは、さまざまな産業用プロトコルに対応できる点が特徴です。
台湾本社CEOのテレンス(テレンス・リュウCEO)は、お客様からのフィードバックをとても重視しています。本社は、半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)からのフィードバックを生かして製品を開発したり、一緒にセキュリティーガイドラインをつくったりしてきました。日本の場合は、グローバルで高いシェアを持つメーカーが多いため、しっかりと日本市場にコミットして、お客様からフィードバックをしてもらい製品や戦略に生かしていきたいですね。
当社は「Keep the Operation Running~オペレーションの継続~」を掲げ、サイバー攻撃を受けても、事業が止まらない世界の実現を目指しています。お客様、パートナーと共にその世界をつくっていきたいと思っています。
──どのような企業で製品利用が進んでいるのでしょうか。
半導体はグローバルにおいて台湾が強い市場であり、トップ企業のTSMCがけん引しています。日本においても、TSMCの進出は大きなインパクトがありました。TSMCと取引する際は、サプライチェーンセキュリティーの観点からセキュリティー規格「SEMI E187」に準拠し、セキュリティーを担保した物を納品しなければなりません。企業がSEMI E187への準拠を目指す際に、当社のことを知り問い合わせてくるというケースが増えています。半導体については、新しい工場や施設の建設が進んでいますし、政府が大規模な支援を行うと発表しています。そうした中でセキュリティーの重要性はより高まっていくはずであり、引き続き注力します。
日本では、自動車産業が非常に大きな市場なので、当社も注目しています。ITにおけるセキュリティーのガイドラインはありますが、OTについてはこれから整備を進めていく段階であり、現在はその動きを見ている状況です。ただ、同じ自動車産業が盛んなドイツでは、「欧州サイバーレジリエンス法」などの影響により、OTセキュリティーへの取り組みが進んでいます。当社製品の利用も増えているので、ドイツの事例などを日本の自動車メーカーに共有するといった取り組みを推進していきます。
このほかにも、医療機器のセキュリティー強化を目的に医療機関が製品を導入するケースもありますし、食品や製薬といったさまざまな業界においても制限のある機器が使われているので、提案を進めています。そして、日本の製造業の多くは中小企業です。中小企業に対してはパートナーとの連携により、分かりやすく導入しやすいソリューションを展開していきます。
パートナーを重視した戦略を推進
──22年6月からトップを務めています。どのように体制を強化してきましたか。
グローバルでは、ハイタッチ営業でフラッグシップとなる顧客をつくるという戦略を推進しており、日本法人もまずはその部分に取り組みました。それと同時に私がこだわったのが、パートナー支援の強化です。国内市場においては、パートナーの存在は不可欠ですから、パートナー部門をグローバルで最初に立ち上げ、積極的に投資してきました。
──具体的なパートナー戦略について教えてください。
セキュリティーへの取り組みが進んでいるのは大企業であるため、まずは当社と一緒に大企業へアプローチしてくれるパートナーの整備を進めました。その後、中小企業への販売強化を目的にディストリビューターの開拓に注力し、現在は6社まで拡大しました。25年は、ディストリビューターの販路を生かして中小企業や地方企業への提案を強化していきますし、協業によるマーケティング活動にも取り組みます。
パートナーが持つソリューションやサービスと当社製品を組み合わせるといった展開も進めていきたいです。例えば、当社のプラットフォーム製品「SageOne」は、OT環境にあるデータを統合し、AIで分析します。分析結果をパートナーのSOC(Security Operation Center)につなぐことで、OT環境向けのマネージドセキュリティーサービスが提供できるようになります。現在パートナーは、ディストリビューターとリセラーになりますが、コンサルティングや運用を得意とするパートナーもおり、幅広いパートナーとの協業を進めたいです。
また、OTの現場を理解して、インシデントが発生した際などに対応できる人材がパートナーとお客様の両方で必要になってくるはずなので、人材育成に関する支援にも取り組んでいきます。
──今後の目標をお願いします。
OTセキュリティー市場をしっかりとつくりたいです。その中で、当社が世の中にとって役に立つ会社だと思ってもらえるようになることが大切だと思っています。そのためにも、社員の拡充や地方拠点の設立などさまざまな強化を進めていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
1995年に米Microsoft(マイクロソフト)日本法人に入社し、パートナー部門などさまざまな部門の立ち上げに携わってきたが、「約25年勤め、自分の役割が終わったかなと考えるようになった」という。次のステップを考えている時にテレンス・リュウCEOと会う機会を得た。「彼のOTセキュリティーに対するビジョンに感銘を受け、日本法人の立ち上げに携わりたいと思った」と振り返る。
OTセキュリティーの重要性は年々高まっており、国内でもセキュリティー対策に積極的な大企業に向けては、すでに、多くのビジネスチャンスがある。しかし、中小の製造業などは、セキュリティーへのリテラシーが必ずしも高いとは言えず、対策の重要性を分かってもらうのは容易ではない。「OTセキュリティー市場をつくる」という目標を掲げる中で、どのように手腕を振るうのか注目していきたい。
プロフィール
近藤禎夫
(こんどう よしお)
1963年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、コンピュータサービス(現SCSK)に入社。その後、CSK(現SCSK)と日本IBMの合弁会社CSI(現SCSK Minoriソリューションズ)に転籍。95年に米Microsoft(マイクロソフト)日本法人に入社、ビジネスインターネット事業部、パブリックセクター、パートナー事業本部でリーダーシップチームの一員として従事した後、業務執行役員パートナー事業本部副事業本部長に就任。2022年6月から現職。
会社紹介
【TXOne Networks Japan】台湾TXOne Networks(ティーエックスワンネットワークス)の日本法人として2022年4月に設立。エンドポイント保護製品「Stellar」やネットワーク保護製品「Edge」シリーズなどのOTセキュリティー製品の提供などを行う。台湾本社は19年6月に設立。