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リナックス・ワールドで熱気ある商談 シェアと利益確保が命題

2003/02/17 19:12

週刊BCN 2003年02月17日vol.978掲載

 今年も新年一番のイベント「リナックス・ワールド」が、最高気温が連続零下という数年ぶりの厳冬となった米ニューヨークで、1月21―24日までの4日間にわたり開催された。生き残りのために何らかの具体策を講じなければならなくなった各企業には、数年前にブームが起こった頃のお祭り騒ぎの雰囲気は既にない。とくに今年は、より具体的なビジネスの場となった。「絵に描いた餅をいかにして食べるか」――。実際のビジネスでのシェアと利益の確保が命題となってきた各企業の傾向と会場の様子をレポートする。(田中秀憲(フリージャーナリスト)●取材/文)

■大手メーカーの新提案は皆無

会場は例年と同じジャビッツセンターであるが、他のイベント同様、占有スペースは狭くなる一方だ。一見、かつての熱は冷めたかのように感じられる。来場者も2001年の2万5000人をピークに年々減少し、今年は遂に2万人を割ってしまった。しかし実際には、個々のブースは熱気に溢れた商談が数多く行われており、各企業に期待の大きさとともに、ようやく技術先行から脱却し、地に足がついた感が強い。

 オープンソースが売り物のリナックスではあるが、IBM、サン・マイクロシステムズ、ヒューレット・パッカードといった大手は、ウェブサービス分野での競争や提携が足かせとなっているのか、一様に歯切れが悪い。いずれも過去の導入事例を中心とした展示に終始し、新たな模索や提案は皆無に等しい。同様にインテル、AMDといったチップメーカーもあまり真剣ではなく、サーバーを並べて処理能力を誇示しているだけだ。

 一方、ようやく飛躍の機会を得た中小企業は元気がいい。実用化へ向けた新しい提案は広範囲に及び、各種のアプリケーションやユーティリティ類の充実は驚くほどだ。実用に足るビジネス用製品が数多く見られ、そのいずれもが以前のようなアイデアや技術的な示唆のみにとどまらず、具体的な内容を持つことが目立った。また、コネクタなどの小物類も以前とは比較にならないほど展示が増えていた。

 カナダのバンクーバーに本社を置くアクティブ・ステートのメールサーバーシステムは、98%もの確率でスパムメールを排除することが可能だという。これまで、こういった周辺分野が欠けていたことを受けての商品展開だ。今後もこれらのユーティリティ類は充実して行くとみられる。これまで具体的な導入に二の足を踏む要因となっていた点だけに、今後の一般化への大きな足がかりとなるだろう。

 今回、マイクロソフトがゲーム分野に特化して、ビジネス面では鳴りを潜めていたように、各分野の老舗企業はまだ静観の構えだ。しかし今後は、これらの大手も何らかの具体的な対応策を強いられるのは必至だろう。

 実際に業務に導入するとなれば、そのメンテナンスや保守管理は一層重要だ。この点でサーバー管理/メンテナンスサービスのPC・コンサルト社(米ニューヨーク州)のイジー・タヒル氏は、「われわれは純粋な技術志向の企業ではない。わが社は現実のビジネスに必要な業務を行う企業であり、いかにして顧客に有意義なサービスを提供できるかを第一に考えている。PC・コンサルト社は現実社会のビジネスを営んでおり、かつてこのイベントにブースを出し、そして消えて行った『オタク』の会社ではない」と力強く述べていた。

■日本市場への意欲十分

 各種のフォントを提供しているバイストリーム社(米マサチューセッツ州)の製品群の中には、漢字を含む中国語などとともに日本語や韓国語までも網羅している。さらにはデジタル/アナログ両方のテレビ用の製品までそれぞれ別個にラインアップされており、これまで以上に多くのビジネスシーンでの利用を訴えていた。

 バイストリーム社も含め、海外を重要な市場と見なしている企業は多い。同社のボブ・トーマス氏の名刺の裏には、自社製品の書体によると思われる美しい印刷による日本語での記載があった。「当社には日本語を話すスタッフもいるので、いつでも問い合わせを」と固く握手された。

 さらに、前出のタヒル氏は「われわれの高度な技術は日本企業にも役立つでしょう。今回、日本のテレビ局からも取材を受けた」と、いずれも日本市場への意欲が十分だ。

 欧州に関しても同様であり、ベーシス・インターナショナル社(米ニューメキシコ州)の販売部門ニコ・スペンスディレクターは、同社がドイツとフランスにも積極的な営業活動を行っていると語った。

 現実のビジネスへ――。これが今回のイベントで各社に共通した印象である。実際に基調講演も各ブースでのデモンストレーションも、企業におけるリナックス導入手法に重きを置いていた。

 SOC社(米ユタ州)は、その展示ポスターにニューヨークが舞台の人気テレビ番組「セックス・アンド・ザ・シティ」をパロディー化して、ニューヨークでのイベントに意欲を示した。

 いかに一般の層に、言い換えれば企業のシステム採用担当者に気に入ってもらえるかが勝負だと言い、生き残りへの意欲がひしひしと伝わってくる。遂に夢から覚めて起きあがってきたリナックス。今後も大いに期待できるだろう。
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