これがAMDにとって大きな転機になる――日本AMDの堺和夫社長(
=写真)は力を込めて言う。9月24日、AMDはパソコン用の64ビットMPU(マイクロプロセッサ)「Athlon(アスロン)64」と上位機種の「Athlon64FX」の発売を発表した。IAサーバー用の64ビットMPUは実用化されているが、パソコン用はこれが初めてとなる。これまで「互換プロセッサ」メーカーと見られることが多かった同社にとって、他社に先駆けて64ビットMPUを発売することは、AMDというブランドイメージを大きくアップさせることになりそうだ。64ビットMPUの投入がAMDに、さらにパソコン業界にどんな影響を与えるのか、堺社長に聞いた。
――x86アーキテクチャを引き継ぐ初めてのパソコン用64ビットMPUだけに、反響も大きかった。 OSもアプリケーションも32ビットの時代に64ビットの投入は早すぎるという意見もあります。しかし、AMDは将来の64ビット時代をにらんで、現在の32ビットの世界とのシームレスな移行を考えました。現在の資産を継承してそのまま64ビットに移行できるようにしたわけです。
過去の歴史から見れば、AMDはインテルのセカンドソースメーカーで、32ビットMPUの時代になって、独自にMPUの開発をスタートさせました。今の主力製品であるAthlonに至ってはインテル製品との互換性はまったくありません。単にマザーボード上で互換性があるというだけです。また、特許の数でもインテルを抜いています。それだけの技術開発をしてきたわけです。
その結果、Athlonのコアが非常に高い評価を受け、サーバー用のMPUとして64ビットのOpteron(オプテロン)の開発につながりました。そのサーバー用のMPUを64ビット化を進めて技術的な評価を固めてきたことが、クライアント用の64ビットMPUの投入につながったわけです。
――64ビットのクライアントを必要とするような需要はすでに出てきていると。 ゲーム機ではすでに64ビットのMPUを使っています。大量のデータ処理が必要な画像処理など、今の32ビットで我慢しているような分野、というのが64ビットMPUを必要とする領域です。例えば、AMDはF1のフェラーリチームをサポートしています。先日の日本グランプリでも現場で見ましたが、F1というのは非常に大量のデータを高速で処理することが求められます。デジタル画像も大量に活用しています。それらのデータ処理を高速で行うには、大容量メモリと64ビットMPUが不可欠です。64ビットを求める環境はできているわけです。
――Athlon64の市場投入で今後の主力製品は64ビットに移行していくことになりますか。 それはカスタマー次第ということになります。もちろんAthlon64については、上位機種も下位バージョンも開発し、製品バリエーションを拡大していくことを決めています。しかし、来年以降も32ビット版Athlonの開発も製品供給を続けていくことをAMDは表明しています。64ビット版は、AMDの技術開発の先進性を示すとともに、将来の64ビットOSやアプリケーションの時代にもシームレスに移行できることが狙いです。32ビットのAthlonもさらに性能向上を図った製品を投入していきます。
――ところで、製品のネーミングについてAthlonを継承していますが、別の製品名で区別していない理由は。 開発段階では、別のネーミングも考えていました。しかし、先ほども言ったシームレスな移行が64ビットMPU開発の最大のテーマですから、32ビットのAthlonを引き継ぐことにしたわけです。実際、Duron(デュロン)を経てAthlonを開発、発売したことでAMDのプロセッサを多くのメーカーが搭載するようになりました。価格戦略も重要でしたがブランドイメージの確立もできたと思っています。今回、Athlon64の発売で、さらにブランドイメージが高まることになるでしょう。セカンドソースという立場から始まって、クライアント用64ビットMPUの発売で先行するところまできた。その意味で、Athlon64はAMDにとって大きな転機になるわけです。