【ニューヨーク発】無線電子メールの特許権を保有するNTP社が、電子メール端末「ブラックベリー」を開発したリサーチ・イン・モーション(RIM)社を特許侵害で訴えていた件で、訴訟合戦が勃発。このゴタゴタがさまざまな憶測を呼んでいる。

 ブラックベリー訴訟のことは既に日本でも報道されているだろう。200万人を大きく超えるユーザーに影響を与える可能性のあった訴訟騒ぎも、ようやく行く末が見えてきたが、実はこの騒動の背景には目に見えない熾烈なシェア争いが隠されていたのかもしれないのだ。

 ブラックベリーとは、簡単にいえば非常に高機能な「ポケベル」だ。カナダのリサーチ・イン・モーション社(RIM)が、端末も回線も一手に扱っており、シェアを伸ばした。2003年にはすでに50万人強だった加入者は04年末までには100万人を突破。05年2月には250万人を超えたという。英語圏での通信はアルファベットをそのまま送信すればよく、転送データ量が少なくて済む。そしてそれゆえに多機能化が容易であり、PDAやパソコン以外のニッチなニーズをしっかり確保してきた。

 その勢いにはっきりと翳りが見えたのはつい最近のことだ。01年11月、米国の知的所有権の管理会社NTP社が、RIMを相手取り特許侵害を連邦裁判所に訴え出た。当時の裁判所はNTPの被害額を2300万ドル以上と認定。その後は両社が控訴と一時差し止めの繰り返しを続けてきた。05年5月に4億5000万ドルにまで達した和解金は合意には至らず、仮に将来合意にたどり着いても、最終的な和解額は10億ドルを超えるとみられていた。昨年末の時点ではRIMは最悪の場合は事業停止の憂き目にあうこともかなり真実味を帯びてきていたのだ。

 06年になって米国の特許庁がNTPの主張を退けたことにより、どうやらRIMの事業停止は避けられそうではある。そして現在、アナリストたちの分析は大きく2つに分かれつつある。多数派は、RIMとNTPは和解し順調にブラックベリー事業を続けるとの見方だ。NTP側にしても、長期にわたってRIMから特許権の使用料を徴収し続けたほうが得策であるはずだ。また、これまでNTPには実業の経験はなく、RIMの事業停止を本気で望んでいたとは考えにくいことも考慮されている。

 そしてもうひとつの見方は、株式市場がらみだ。この騒動でRIMは株価が下落し、投資家が敬遠する対象となってしまい、企業としての体力が低下した。そのため独占してきた市場で他社に駆逐される可能性が生じたわけだが、そのことこそが今回の騒動の目的だったのではないかというものだ。この訴訟騒ぎのせいで、200万人以上のユーザーのほんの一部でもブラックベリーから離れることとなれば、その宙に浮いたユーザーを取り込むのは全く別の事業主となる。RIMが消えればNTPは事業を継続する可能性が低いため、結果がどうなろうとも利益を得ることになるその彼らこそが、今回の騒動の黒幕だという邪推である。

 その彼らとは一体誰だろう。各携帯電話会社はスマートフォンや新世代の携帯電話の売れ行きに何らかのカンフル剤を求め続けているし、PalmやポケットPCの各メーカーも同様だ。

 しかし別のアナリストは、RIMやNTPもこの騒動でさらに知名度が高まり、これまでブラックベリーに興味のなかった層にもアピールできたのではないかともいう。今回の訴訟は、関係するすべての企業にとって、少なくとも何らかの行動を起こさせるきっかけとなりそうなことだけは間違いない。
田中秀憲(ジャーナリスト)