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新日鉄ソリューションズ クラウド本格立ち上げへ 大型受注で勢いづく

2008/11/03 21:12

週刊BCN 2008年11月03日vol.1258掲載

ビジネスモデルの確立目指す

 新日鉄ソリューションズ(新日鉄SOL、北川三雄社長)のクラウドコンピューティング事業が本格的に立ち上がり始めた。介護・福祉事業者向け業務システム開発大手のワイズマン(盛岡市、南舘伸和社長)のASPサービスのITインフラとして採用が決定。2009年春をめどにサービスを開始する予定だ。新日鉄SOLは業界に先駆けてクラウドコンピューティングに取り組んできたが、収益モデルの構築に時間がかかっていた。過去1年余りにわたって研究を重ねた結果、ITエンジニアリングとクラウドを組み合わせるモデルをベースに、SIerとしての強みを生かしたビジネスを展開。収益モデルの早期確立を目指す。

 新日鉄SOLは、クラウドコンピューティングサービス「absonne(アブソンヌ)」を07年10月に始めた。だが、不特定多数のユーザーや企業が使うGoogle型のクラウドサービスでは、システム構築を本業とするSIerの強みを十分に生かせない。

 そこで取り組んだのは、顧客企業のITエンジニアリングとクラウドサービスを組み合わせたビジネスモデルである。顧客の情報システムをabsonne上に構築することで、SIビジネスとアウトソーシングビジネスを両立させ、収益力を高める。

 今回のワイズマンからの受注は、absonneの大型クラウド案件としては初めて。過去1年余りにわたってクラウドビジネスを模索してきたが、「一つの方向性が見えた」(大城卓・ITエンジニアリング事業部長業務役員)と手応えを感じている。これをテコに今年度(09年3月期)中に「2-3社の大型受注を目指す」と、攻めに転じる。業務アプリケーションのSaaS/ASP化を進めるSIerやISVの需要を積極的に取り込む方針だ。

 情報システムはこれまで、ハードウェアなどITインフラを顧客企業自ら購入するケースが大半を占めた。クラウドコンピューティングでは、ITベンダーが持つハードウェアリソースをネットワーク経由で“利用”する。コンピュータリソースを「所有する」から「利用する」形態に切り替えるもので、SaaSなどと並んで、今後のITビジネスの主流になるとみられている。ワイズマンの事例は、新日鉄SOLが十数億円投じて開発したabsonne上で介護・福祉事業者向け業務システムを動作させ、ASP方式で顧客にアプリケーションサービスを提供するもの。ワイズマンはサーバーなどのITインフラを所有せず、利用することになる。

 新日鉄SOLでは、従来型の顧客が所有するハードウェアをデータセンター(DC)に預け、同様のASPサービスを提供するのに比べ、向こう5-7年の期間で見れば同システムにかかる総費用の約20%の削減を見込む。クラウドの技術基盤であり、新日鉄SOLの得意とするグリッドコンピューティング技術のノウハウを生かし、ITシステムを常に最適な状態に保つことでコスト削減を推し進める。

 顧客がハードウェアを持ち込むこれまでのタイプでは、SIerの知見を生かした最適化が十分行えないケースが見られた。クラウド型では顧客との間であらかじめ決めたサービスレベルに準じて、グリッドや仮想化技術を駆使したITインフラの最適化がしやすい特性がある。

 一方で課題もある。absonneの本来の姿は、割り当てられたDCリソースすべてをグリッド化、仮想化し、複数の顧客企業に最適なリソース配分をするものだ。さらに突き詰めれば地理的に分散している複数のDCを仮想的につなぎ合わせて、一つの巨大なITリソース群にまとめあげることも将来構想に入れる。

 ただ、現状では1顧客企業の単位で一部サーバーの仮想化を行っているに過ぎない。「技術的に難しいというよりは、ビジネスモデルの設計が難しい」(鎗水徹・営業企画部運用・DC企画営業グループシニア・マネジャー)のが主な理由。複数顧客に提供すると、リソース配分の予測がつきにくく、結果としてコスト計算が難しくなる。

 absonne事業では、まず個別企業ごとにリソースを分けて検証を重ね、再来年度をめどに、より完成度の高いクラウドコンピューティングのビジネスモデルを構築する。

国内最大級のクラウド
 新日鉄ソリューションズが今回受注したワイズマンの介護・福祉事業者向けサービスは、既発表の商用クラウドコンピューティングサービスでは国内最大級のもの。2009年春をめどに、数百台規模のサーバーと数十テラバイトのストレージを駆使してサービスを始める予定だ。ハードウェアなどITインフラは新日鉄SOLのものを使うため、ワイズマンはシステムの利用料だけ支払えば済む。
 ワイズマンのASP事業のターゲットである介護・福祉事業者は全国に事業所が点在し、かつ法令改正などで定期的なバージョンアップやデータのバックアップが求められる。このため管理コストのかかるクライアント/サーバー(C/S)型からASP化への移行に早い段階から取り組んできた。DCで集中的に管理できるASP化によって利便性や低コスト化を実現。ユーザー数が増える傾向が続いている。一方、ワイズマンではハードウェアなどITシステムの先行投資の負担増が懸念されていたが、今回のクラウド型への移行によって初期投資を抑えることが可能になった。
 新日鉄SOLから見れば、継続的に拡張するシステムはクラウド型と「相性がいい」(大城・ITエンジニアリング事業部長)とみる。必要とするITリソースが常に一定のシステムではクラウドの拡張性の高さを生かしにくいが、ワイズマンのASPサービスのように今後拡大が見込める事業では、柔軟にシステムを拡張できる強みを存分に生かせる。コスト的なメリットも大きく、付加価値を発揮しやすい。すべての案件をクラウド型に持ち込むのではなく、システムの継続的な拡張が見込める案件を重点的にクラウド化することが、双方のメリットを最大化しやすくするポイントだろう。
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