セキュリティと利便性は相反する。多くの企業がこの難題に頭を悩ませていることだろう。国土交通省が推進するICTを活用した土木建設現場「i-Construction」の構想が発表されてから2年近くが経過し、IT導入が進む建設業界でもそれは例外ではない。人材不足がとくに著しい建設業で業務効率化は必須。とはいえ、セキュリティ対策もおろそかにはできない。そのジレンマに解決策はあるのか。ソリトンシステムズ(鎌田信夫社長)が6月26日に開催したセミナーでは、建設業界のキーマンがICT活用の最新動向やその課題、セキュリティ事情を解説した。(取材・文/銭 君毅)

建設業界のIT動向

日本建設業連合会
IT推進部会
先端ICT活用専門部会
主査
堀内英行氏
 「セキュリティ対策によって利便性が落ちるといわれている。そうなってはならない」。ソリトンシステムズ取締役の橋本和也氏は冒頭のあいさつでそう語った。セミナーの参加者は募集開始から開催まで1~2週間という短期間にもかかわらず、300人を超える申し込みがあったそうで、業界内の関心の高さがうかがえる。

 そもそも建設業界においてIT化はどれだけ進んでいるのだろうか。日本建設業連合会(日建連)IT推進部会 先端ICT活用専門部会 主査 堀内英行氏(大林組 グローバルICT推進室 担当部長)によると、日建連内で実施したアンケートでは96%の企業がスマートデバイスを導入しており、生産性や業務精度、コミュニケーション面において効果があったと回答が得られたという。なかでも堀内氏は、「スマートデバイスを用いて、現場業務のこなし方自体を変えられないかと発想する社員が多く現れた」という事実を取り上げ、ICTサービス導入の進捗状況と導入による利点を強調した。

 また、堀内氏はその場で最新のITソリューション活用の動向を解説。カメレオンコードと呼ばれるバーコードをスマートデバイスなどで管理することで車両の入退場管理を容易にする「いろあと」(インフォファーム)や、VR技術により場所を選ばない現場訓練を実現するVR訓練・研修システム「VROX」(積木製作)など、計10のITソリューション・テクノロジーを紹介した。
 

西松建設のセキュリティ対策

西松建設
社長室 ICT企画部
部長
古村文平氏
 IT化が着実に進んでいる建設業界だが、ソリトンシステムズは、セキュリティと利便性を兼ね備えたソリューションを提案する。堀内氏に続いて登壇した西松建設 社長室 ICT企画部 部長の古村文平氏は自社のIT計画の方針は「攻めのITではなく、守りのITだ」とし、世に溢れている多くの最新技術を取り入れる前に自社内のIT環境を整えることが先決だと語る。そして、現在セキュリティ対策とPC業務の見える化に注力していると述べた。

 上記項目に取り組むにあたって、ソリトンシステムズが西松建設に提案したソリューションは「CounterAct」と「InfoTrace-OnDemand」の二つ。ここでとくに重要となるのはInfoTrace-OnDemandだ。同サービスはPC操作のログを残すことができるもので、ウェブサイトはもちろん、メールから、アプリケーション、ゲーム、プリンタ、外部メディアといったものまで、その項目は多岐にわたる。クラウドストレージや外部メディアへのコピー操作を可視化する「Splunk Cloud」(米スプランク)と合わせて導入することで内部からの情報持ち出しを監視できる。ファイルコピーの状況把握により、全ユーザーへの常時監査と是正指導体制の確立が可能となったという。そのほか、長時間残業対策や管理外PCの把握など、セキュリティだけでない有用性についても語った。
 

顔認証でPCの運用を効率化

竹中工務店
グループICT推進室
副部長
高橋 均氏
 セキュリティと利便性の両立と聞いてパスワードレスを連想する人も多いだろう。現在、竹中工務店では業務効率化に向け、顔認証システムの導入を進めている。同社のグループICT推進室副部長の高橋 均氏は、自社で取り組んでいるICT活用施策「竹中スマートワーク」について説明した。そのコンセプトは「いつでもどこでもその場で完結できる」というもの。同社は2016年頃からWindows 7が搭載されたノートPCの配備を進めており、PC起動時の本人確認をパスワード入力とICカード認証の二段階で行っていた。そして現在、OSをWindows 10に変更するとともにICカード認証も顔認証に変更した。これにより、カードの差しっぱなしでセキュリティがぜい弱になる事態が改善され、カード忘れ対策やリーダーなどの付属品が不要になったといった利便性の向上がみられたという。18年5月時点で約4000台に導入しており、19年12月までに1万台に導入する予定だ。

 導入開始後の感想として、認証スピードや暗所での認証精度は期待以上だったという。しかし、そのセキュリティの厳格さのために、これまでカードの貸し借りなど現場で対応していた運用ができない。この点については、問い合わせのつど、対応方法を決めているとのこと。最後に高橋氏は、「将来的にはカードだけでなくパスワード認証も顔認証に変更し、シングルサインオン、パスワードレス化を進めるとともに、勤怠管理などさまざまなシーンに顔認証を適用していく」として、講演を締めくくった。