地方自治体や金融機関向けを中心とした自社開発の業務システム事業を展開するRKKCS(熊本市)は2025年4月にも、地方自治体を対象に生成AIを活用したマニュアルシステムの提供を開始する。ユーザーが自然言語で問いかけるだけで、事前に取り込んだデータを参照して回答を生成する。同社が提供している基幹系パッケージ「総合行政システム」や他社製品の操作マニュアルのほか、庁内資料、業務の手順書、法律文献など多様なデータを読み込ませることが可能で、ナレッジデータベースとして幅広い用途が想定される。同社はマニュアルシステムの開発を通じて、生成AIに関する知見やノウハウを蓄積し、行政領域での生成AIサービスの拡大や、自社製品への生成AI活用を強化したい考えだ。
(藤岡 堯)
マニュアルシステムは「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)上の「Generative AI」サービスを利用している。RKKCSは日本オラクルと連携し、総合行政システムのガバメントクラウド移行をOCIで実装しており、OCIのテクノロジーに理解が深い。将来の総合行政システムとの連携といった発展性を見据え、OCIを基盤に選んだ。
徳山泰之 室長
マニュアルシステムはユーザーが自然言語を用いて質問し、生成AIが意図に沿ってわかりやすく回答する。RAG(検索拡張生成)によって、事前に取り込んだリソースを参照し、インターネット検索による生成よりもはるかに精度の高い回答を生み出す。さらに、RKKCS独自のチューニング技術によって、何もせずに生成AIに学習させた場合は40%程度だった精度を、100%近くまで高めることができたとする。同社企画室の徳山泰之・室長は「自治体向けシステムを手掛けてきた経験も大きいが、生成AIはゼロからの学習であり、その場で学んでいった」と振り返る。
回答の根拠として利用した文献へのリンクを添付し、正当性を人間が確認できる仕組みとする。取り込むデータはテキストに変換できるものであれば基本的には対応可能で、マニュアル類だけでなく、さまざまなユースケースに応用できるなことから、自治体だけでなく、幅広い業界で活用が見込める。マニュアルシステム自体はインターネット経由で接続するサービスであり、行政総合システムを導入していない自治体でも利用できる。徳山室長は「実績やノウハウを広げ、現場のニーズを集めたい」と話す。
開発のきっかけについて、徳山室長は「(生成AIの流れに)乗り遅れないようにという危機感」があったと語る。目まぐるしい速さで進化していく技術を的確にキャッチアップするために、知見、ノウハウを得て、スキルを高める必要があったという。加えて、国内では行政事務領域での生成AI活用が遅れているとも指摘する。ただ、基幹系のデータは機密性が高く、生成AIの活用が難しいことから、行政の基幹系システムを得意とする同社が参入することで、自治体現場のニーズに沿った生成AI活用のあり方を具現化したい狙いだ。
また、自治体には、総合行政システムに限らず、大量のマニュアルや資料があるものの、それをうまく活用できていない面もあるとみられ、新たに生成AIというチャネルをつくることで、負荷の軽減につながると考えた。
当面はユーザーの要望を踏まえながら、ユースケースを固めていくため、コンサルティングを合わせた直販形式で提供する方針だ。ただ、「パートナーに自分たちのフィールドで自由に展開していただくスタイルもあっていい」(徳山室長)との考えで、柔軟に販売方法を検討していく。
今後の展望に関して、徳山室長は「自治体の現場で生成AIを活用し、サービスを浸透させることが一つの目標だ。ゆくゆくは、基幹系のデータを活用した生成AIサービスの展開、社会実装を進めたい」と強調する。