都築電気は2025年を「クラウドPBX（構内交換機）元年」と位置付けて、客先設置型のオンプレミスPBXからの置き換えを積極的に進めている。固定電話の番号持ち運び制度の規制緩和により、移動先を問わず市外局番ごと持ち運べるようになったことから「置き換えに弾みがつく」と同社ではみている。主力クラウドPBX「TCloud for Voice」と、グループ会社のコムデザインが開発するクラウドCTI「CT-e1／SaaS」の通信キャリアの選択肢にNTTコミュニケーションズ（NTTコム）のIP電話サービス「Arcstar IP Voice（Universal One）クラウドプラン」（IP Voiceクラウドプラン）を追加。電話番号の持ち運びやすさと接続安定性を一段と高めている。
（安藤章司）

移行を妨げる要因を排除

　現在のクラウドPBXの国内普及率は12％程度で、依然としてオンプレミス利用の割合が高いと都築電気では見ている。クラウド移行の妨げになっているのが、▽固定電話の番号持ち運びに制約があった▽オンプレミスPBX機能の一部がクラウドPBXでは使えなかった▽通話が不安定になるのではないかという漠然とした不安―などが挙げられる。移行の妨げとなっていた要因を徹底的に排除することで、25年をクラウドPBX元年と位置付けて移行促進に力を入れる。
 

　固定電話の番号持ち運びについては規制緩和が段階的に進んでおり、今では「全国のほとんどの場所に番号を持ち運べるようになった」と、都築電気の小林勇介・ボイスクラウドビジネス統括部統括部長は話す。24年12月からはTCloud for VoiceとCT-e1／SaaSにおいて、NTTコムのIP Voiceクラウドプランを選択できるようにしたことで、「全国エリアで市外局番を含めた番号の持ち運びの自由度が一段と高まった」（小林統括部長）と強調する。
 
　代理応答や保留、転送といった既存PBXの各種機能についても、TCloud for Voiceへ順次実装しており、「性能や機能の差はほぼなくせた」（岡上健太郎・ボイスクラウドビジネス統括部クラウドコミュニケーションビジネス推進部副部長）と胸を張る。

  　通話品質についてもNTTコムのIP Voiceクラウドプランとの接続によって通話の安定性を高めている。NTTコムの山口修・パートナービジネス部パートナーセールス部門部門長は、「クラウドPBX事業者との接続検証を丁寧に行っている」とし、既存PBXとの品質差がでないよう努めていると話す。

市外局番をエリア外へ持ち運び

　クラウドPBX移行のメリットは▽物理的なPBX機材を事業所に設置したり、電話回線を引き込まなくても済む▽機材設置がないため現地での出張保守が要らない▽外出先のスマートフォンや在宅勤務で使うPCからでも会社の電話番号が使える―などが挙げられる。全国に複数の事業所を展開する業態では、電話回線の引き込みや設置型PBXの保守費用を削減できるメリットは大きい。

　加えて、固定電話の番号持ち運びの規制緩和が進んだことで、「既存の固定電話の回線からIP電話に切り替えても電話番号を変えずに済むことから、クラウドPBXへの移行がより促進される」と、NTTコムの赤羽裕一・パートナービジネス部パートナーセールス部門第二グループ担当課長は見ている。

　多くの企業は「東京03」「名古屋052」「大阪06」など市外局番から始まる「自社の電話番号にこだわりを持っている」（都築電気の岡上副部長）のが実情で、クラウドPBXに移行しても既存の番号を変えないで済むことの、プラスの影響は大きい。ほかにも「例えば東京事業所の代表電話を沖縄に設置したコンタクトセンターでも使える」（同）といった市外局番のエリア外への持ち運びの自由度も高まっている。

　25年1月からはNTT東西地域会社と他社のIP電話サービスの電話番号を双方向に持ち運ぶことが可能になった。これまではNTT東西地域会社から電話番号を「持ち出す」ことはできても「持ち帰る」ことはできなかったが、「移行先のIP電話サービスに不満があったときに、再びNTT東西地域会社の固定電話に（電話番号の変更なしに）戻れることで心理的なハードルが下がった」（NTTコムの赤羽担当課長）こともプラスに働く。

クラウド移行で業務を変革

　CT-e1／SaaSは、比較的小規模な事業所でも音声通話とコンピューターを連動した受付業務システムを実現でき、音声通話の情報をコンピューターに引き継ぐことで「顧客分析や営業支援などの業務システムと連動させて新しい価値の創出につなげられる」（都築電気の小林統括部長）と指摘。同社では“声をカタチに、カタチを価値に”をコンセプトに、企業の業務変革の支援にも取り組む。

　TCloud for Voiceについては、21年10月のサービス開始から今までで計24社約1万5000ユーザー数の販売実績を積んできた。比較的規模の大きいユーザーが中心だったが、今後は中小規模のユーザーにも積極的にクラウドPBXへの移行を働きかけていくことで、「向こう3年でID数ベースで倍増、社数ではさらにその数倍に伸ばしたい」（同）と拡販に手応えを感じている。