「コンテンツが少ないと、CDNの有用性が分かりにくいよね」。こう話すのは、全国規模でCDN(コンテンツ配信ネットワーク網)構築を進めるインターネットイニシアティブ(IIJ)マーケティング本部副本部長の保条英司取締役だ。

 IIJでは、この4月から全国600万世帯を対象にしたCDNの構築を始めた。まず、同社が運営するデータセンタと、NTT東西が運営する東京、愛知、大阪の地域IP網、およびブロードバンド(BB)接続サービスを提供するケーブルテレビ会社30社のネットワークを接続する。

 今年12月末には、NTT東西の全国地域IP網と約100局のケーブルテレビ局、さらにアッカ・ネットワークスやイー・アクセスなどDSL接続事業者とも相互接続することで、600万世帯に向けた「大容量コンテンツの配信網=CDN」を完成させる。

 だが、肝心のコンテンツがあまりにも少ない。保条取締役は、「音楽CDから取り出したMP3などの音楽データファイルがネットワーク上で不当に複製できるような状態を解決し、コンテンツ制作者の権利が守れるようにならないと、良いコンテンツは出てこない。しかし、権利者の権利を守る仕組みが確立すれば、CDNの必要性が一気に顕在化する」と楽観視する。

 主に音楽CDから取り出したMP3などの音楽ファイル交換が不当に行われているとして問題になったファイルローグ(日本MMOが運営)は、4月9日、サービス差し止め命令の仮処分を東京地裁から受けた。

 日本MMOの松田道人社長は、「ファイル交換技術(PtoP)の可能性を否定する残念な決定で、抗告する」と全面対決の姿勢を示す。一方、レコード会社などコンテンツ制作者は、今回の仮処分を一様に高く評価する。日本レコード協会の富塚勇会長は、「東京地裁の決定は、誰もが納得する『常識』に則ったもの」と評価した。

 裁判が長引いたとしても、「インターネット上でも合法的に権利を守れる」との認識が権利者の間に拡がれば、コンテンツ流通が拡大する機運が高まるかもしれない。オープンMGなどの著作権管理技術(連載第2回参照)と組み合わせれば、技術的な問題も解決できる。

 IIJの保条取締役は、「これまで、音楽や映像をネットワークを使って配信しようと思えば、地上波テレビ放送網か人工衛星を使った衛星放送網しかなかった。それが、今では誰でも自由に使えるインターネットで何百万世帯に配信できる。双方向の特性を生かした新しいビジネスモデルの構築も可能だ」と、インターネット網の魅力をコンテンツ事業者に訴える。

 もっとも、IIJは著作権管理やコンテンツを集めて配信する領域には手を出さない。「当社は、あくまでもネットワーク事業者。インフラ構築が専門」と、通信インフラの運営に徹する。

 年内には、ADSLやケーブル網を合わせて全国1000万世帯がBB回線を導入する見通しだ。「iモードの9.6Kbpsの通信ボリュームでも、需要が激増すればシステムが何度も停止する事態に陥った。BBでは500Kbpsで配信したとしても、iモードの何倍の許容量が必要になるのか、想像を絶する。大渋滞が起こる。当社のCDNは、インターネット網とは別にBB専用の回線をもう1本つくろうという考え方」と急増する需要に備える。

 IIJは、もともと法人向けのインターネット接続サービスが事業の中心部分を占めていた。だが、次の収益の柱として、データセンターを軸にしたアウトソーシング事業に力を入れており、今回のCDN事業が立ち上がれば、CDN利用にともなうデータセンタの収益性が一気に高まる可能性もある。(安藤章司)