OVER VIEW

<OVER VIEW>回復への出口見えず、低迷し続ける世界IT市場 Chapter1

2002/09/02 16:18

週刊BCN 2002年09月02日vol.955掲載

 

二重の打撃に悩むITメーカー

02年になっても00年秋以降の世界的IT不況に回復の動きは見られない。米ITメーカーの02年4-6月決算売上高はマイクロソフトなど少数を除くと、IBM以下大きく落ち込んでいる。パソコン、携帯電話などパーソナル機器以上に、サーバー、ストレージなど企業向けIT商品の需要減と価格下落が激しい。世界のIT市場は有力商品出荷台数の減少とともに、価格デフレによる単価下落という二重の打撃を受けている。わが国大手電機決算ではデジタル化に向かうAV市場が回復基調にあることを示す。(中野英嗣)

■未曾有の減収決算の米ITメーカー

02年4-6月決算を多くの米有力ITメーカーが発表すると、世界のIT市場に回復の兆しが全く見えないことが明白になった。

当四半期売上高が前年同期比2ケタ増となったのはマイクロソフトだけで、これに続く増収組は携帯電話のノキア、ITサービス専業のEDSのみであった(Figure1)。

パソコン関連ではインテル0.2%、AMD39.0%、アップル3.1%、ゲートウェイ33.1%という前年同期比での減収だ。UNIXサーバー第1位サンも14.4%減であった。

通信機器ではエリクソン40.0%減、カナダ・ノーテル39.8%減に続き、ルーセント、コーニングはともに50%台の減収で、まさに惨状と表現してもよいだろう。DRAMマイクロンは5.7%、モトローラ10.0%といずれも減収で半導体業界も厳しい。

またストレージ第1位のEMCも31.3%減で、ストレージ業界の厳しさを物語る。また世界的IT不振は、不況に最も強い抵抗力をもつといわれ続けたIBMにもおよび、同社も5.7%の減収だ。

不振はハードだけでなく、ソフトのピープルソフト11.0%減、CRMのシーベルも28.0%という大幅な減収で、世界のIT投資削減はソフト業界にも大きく影響している。

これら北米メーカーに比べ、わが国大手電機の4-6月売上高は厳しいながらも堅調といえるかもしれない。

増収はシャープの10.0%を筆頭に、ソニー5.4%、松下電器4.9%、東芝2.2%、三洋電機1.5%と続く。一方減収は日立製作所3.6%、NEC9.2%、富士通9.8%、三菱電機15.2%である(Figure2)。

わが国大手電機での増収組の主力商品は従来からのITではなく、デジタルAVであることが大きな特徴だ。一方、10%近い減収のNEC、富士通はIT有力メーカーである。

こうしてみると、世界のハイテク業界はデジタル化に向かうAV市場が明白な回復過程に入っているのに対し、ITは出口の見えない厳しい環境にあるといえよう。IT不況はコンピュータだけでなく、米メーカーの決算にも見られるように通信機器はさらに厳しい環境にさらされている。減収組のNEC、富士通は有力通信機器メーカーでもある。

IBMのサム・パルミザーノCEOは02年7月、ウォールストリートのアナリストにIT不況について次のように述べている。

「世界のIT業界はこれまでの10年間で最も厳しい環境にある。この不振からはもはや抜け出せないと解説するアナリストもいる。しかも残念ながら、誰もこの解説に反論する根拠を持ち合わせていない」

IBMはこの不況策として、全従業員の約5%、1万5600人という90年代初頭以来の大型人員削減を実行した。一方で同社は大手会計監査系ITサービス「プライスウォーターハウスクーパース・コンサルティング(PwCC)」を35億ドルで買収することを発表した。IBMは厳しいIT市場のなかでもITサービスだけは伸びる潜在需要があると考えているようだ。

■米ハイテク営業利益も大幅減少続く

米有力ハイテク企業83社決算を分析する米ファーストコールは、当業界の営業利益は大幅な減少状態にあることを発表した(Figure3)。

ハイテク83社営業利益総額は、00年1-3月以降前年同期比で38%、65%、71%、63%と大きく落ち込んでいた。02年1-3月も前年同期比で34%減で、02年4-6月はやっとプラス1に転じた。

しかしこれらもハイテクピークの00年同期比ではマイナス59%、同64%と大きく落ち込んでいる。02年4月時点で、02年4-6月営業利益予想は00年比59%減であったが、実績は64%減と予想を大きく下回った。

このような大きなマイナスが続く状況では、ピークの00年レベルまでハイテク営業利益が回復することは当面想定できない。またIT不況はメーカーだけでなく、世界ITディストリビューション販売にも大きく影響している(Figure4)。

95年4-6月期の同販売高指数を100とすると、ピーク時の00年同期には219まで伸長したが、02年同期にその指数は162.3と97-98年に逆戻りしていることが判明する。

■すべての有力商品市場が軒並み縮小

米IT調査会社の市場動向調査を集約すると、02年世界のIT有力商品市場はピーク時00年に比べると大きく縮小している(Figure5)。

02年1-6月世界のパソコン出荷台数は6.1%減、携帯電話も中国など発展途上国の普及が期待されていたが、これも予測値で3.1%減である。

パソコン、携帯電話などパーソナル機器以上に落ち込みが激しいのがサーバーである。IDCによると、00年1-3月世界のサーバー出荷金額は162億ドルだったが、02年同期は33.9%減の107億ドルだ。世界的不況のなかでも大きな伸びを期待されていたストレージもピーク時00年に比べると6.1%減である。

このように企業向けIT市場が大きく落ち込んでいる要因の1つは、ネットバブルに躍り過剰なIT投資を続けた米企業のIT投資額が01年以降大きく落ち込んでいるからだ。

フォレスター・リサーチは、00年5860億ドル(70兆円)に達した米企業のIT投資の02年悲観予測値は4820億ドル(58兆円)で、ピーク時比17.7%減と発表している。

世界IT市場の40%近いシェアを占める米国市場が仮に20%の市場縮小となれば、それだけで世界市場に大きな影響を与える。

米国では企業IT投資削減だけでなく、ワールドコム倒産に見られるように通信業界も大不振で、通信機器と設備投資も大幅減となりIT不況を加速している。パソコン、サーバーなどは出荷台数減だけでなく価格デフレの影響が強く出ている。出荷台数減と価格デフレの両面から世界のIT業界は打撃を受けている。仮に、あるIT市場の商品単価が米パソコンのように15%減となればその市場規模を維持するには台数が17.6%伸びなければならない(Figure6)。

しかし、IT不況のなかで20%近い出荷台数伸長が見込める有力商品は見当たらない。
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