OVER VIEW

<OVER VIEW>回復への出口見えず、低迷し続ける世界IT市場 Chapter3

2002/09/16 16:18

週刊BCN 2002年09月16日vol.957掲載

 現在のIT不況は、世界的景気低迷やIT価格デフレ、TCO削減効果の大きい新ソリューションの普及などが複雑に絡み合った現象だ。ユーザー投資を削減するフリーのOS、ミドルウェアの急激な普及やサーバーやストレージのコンソリデーションなどは、エンタープライズだけでなく、中小企業へも波及し始める。ユーザーの要求するTCO削減、ROI追求にIT業界は積極的に対応しなければならないのは当然である。しかし、これだけではIT市場は縮小するばかりだ。新アプリケーションの展開と普及、これがIT業界の大きな課題だ。(中野英嗣)

複雑に絡み合うIT世界不況の要因

■景気低迷、デフレ、新ソリューション

 00年秋口より始まり、02年中盤を過ぎても回復基調が見えない世界的IT不況はさらに深刻さを増している。とくにこの不況は多くの要因が複雑に絡み合っていることが大きな特徴で、単純にこれまでのように景気・需要の循環説では説明しきれない。

 このIT不況要因は大きく、(1)世界的景気低迷と企業IT投資削減、(2)ITの広範囲に拡大する破壊的価格デフレ、(3)IT業界提起の新ソリューション普及効果に分類することができよう(Figure13)。

 とくに米国では92年から00年の8年間にネットバブルもあり、この間IT投資が2.6倍にも膨らみ企業利益を圧迫し始めたため、米企業はTCO削減ソリューションを求め、投資効果(ROI)を厳しく追求し始めた。またネットバブル期のIT投資が過剰であったため、投資調整も長引きIT需要を減退させている。

 さらに、光波長多重分割(WDM)技術の発展により、既設光通信網の帯域性能が大幅に向上したため、テレコム各社も過剰設備となって通信料金の価格破壊を招いてしまった。

 現在米テレコムの抱える光網は5%しか稼働しておらず、WDMによって1本の光ファイバーで1億5000万人が同時に電話がかけられる時代も到来する。

 また、世界的IT投資抑制によってパソコン、サーバー、ストレージ、通信機器の量的需要が減少すると同時に、ハード、ソフト、ITサービスの広範囲の価格デフレが起き、この2つの要因の掛け算効果によってIT市場規模が縮小した。

 とくに価格デフレが波及しないと考えられていたITサービスの価格も、サービス・インフラとなるハード、ソフト商品価格の低下によってきわめて安くなった。

 この間の事情をEDSディック・ブラウン会長は次のように語る。

 「当社はサンSolarisサーバーをインフラとするシステム開発案件が多い。同じシステム開発でも高価なサンStarcat(スターキャット)を使う場合と安いStarkitty(スターキティ)を使う場合では、ユーザーの予定する開発コストは20%も違う。このため当社はできるだけ高価なStarcatを販売するよう営業に指示している」

 IT不況の最も深刻な課題は、IT業界がユーザーのTCO削減要求によって開発した、Linuxなどカーネル無料のOSやミドルウェア、あるいはサーバーやストレージのコンソリデーション(統合)がユーザーの投資額を削減して市場を縮小させてしまったことだと米国で指摘され始めた。

 IT業界の提起するソリューションの効果が大きく、この間新アプリケーション需要が伸びなかったため、市場をシュリンクさせる皮肉な現象を招いた。

■オルタナティブ利用によるIT投資削減

 UNIXやウィンドウズオルタナティブ(代替)としてユーザーのTCO削減期待効果が大きいのは、カーネル無料のLinuxだ。Linuxは02年より米国ではエンタープライズに普及し始めたことで注目されている。さらにこれまでのように業界側の普及願望だけでなく、米ユーザーも本格的にLinuxを利用し始めた。

 米調査によると、02年米IT投資額の9%はLinux関連である。これまで自社OSのみに固執してきたサンがLinux市場へ参入したことも、Linux普及を加速する要因となろう。またLinuxはサーバーだけでなく、企業クライアントとしてのデスクトップにも広がり始めた(Figure14)。

 米SIer調査でも、Linuxがウィンドウズオルタナティブになると考えるSIer比率は40%近くに達し、否定的な考え方の割合は1年前の45%から33%へと後退した(Figure15)。

 また01年12月にはLinux普及の障害と考えられていた多くの要因の壁が低くなっていることも米調査は物語る。

■コンソリデーションによるTCO削減

 パソコン以外でIT市場拡大を牽引すると期待されていたサーバー、ストレージではTCO削減ソリューションとしてIT業界が提供するコンソリデーション(統合)が急速に普及し始め、新システム需要が少ないため市場規模を小さくしている。

 サーバーではUNIXサーバーなどがIBMのLinuxメインフレームにコンソリデーションされている。数十台から最大数千台のUNIXサーバーが1台のメインフレームに統合された事例をIBMが数多く公開している。

 サーバー・コンソリデーションでは多数のローエンドを1台のハイエンドに統合、パーティショニングによる統合などに続き、とくにウィンドウズサーバーではシンサーバー、ブレードサーバーによるコンソリデーションが本格的に始まった。

 またストレージでもサーバー単位に別々に接続するDASから、NAS、SAN、IP-SANなどストレージを複数サーバーで共用するネットワーク型普及の時代を迎えた(Figure16)。

 またこれから複数のウィンドウズサーバーを利用する中小企業にも普及し始めるのが、1台のラック内にサーバー統合するブレードサーバーだ。米国におけるブレードサーバー導入理由についての調査でも、ユーザーはコスト削減に大きな期待を抱いていることが判明する(Figure17)。

 またブレードサーバーでもLinuxを利用する割合が大きくなっている。サーバーなどのコンソリデーションは単にITコストを削減するばかりでなく、eビジネスが要求するインフラITの24時間365日の連続運用を実現するためのソリューションでもあるため、その普及は勢いをつけている(Figure18)。

 このようなコンソリデーション実用化効果もあって、02年1-6月世界サーバー出荷金額は前年同期17.4%減となった。サーバーはパソコンよりも激しい価格デフレに見舞われている。

 また、不況下でも大きく伸びると期待されていた02年世界ストレージ市場もピークは00年に比べると6%も減少する予想だ。

 いずれにせよIT業界が新しく提起したTCO削減ソリューションが市場縮小要因になっていることを業界は見逃すことはできないだろう。業界はTCO削減ソリューションを積極的に普及させユーザー要求を満足させたうえ、新しいアプリケーション展開をより積極的にユーザーに呼びかけれなければならない。
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