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<OVER VIEW>IT不況克服、米有力メーカー戦略を検証 Chapter 2

2002/10/14 16:18

週刊BCN 2002年10月14日vol.961掲載

ホワイトボックスで課題解決を試みるデル

 世界パソコン業界で独り勝ち、独走を続けるデルコンピュータは、突然米小規模システムインテグレータ(SIer)に人気の高いホワイトボックスを供給すると発表した。デルは独走するが、チャネルとの敵対関係、少ない中小企業ユーザー、ITサービス売上構成比が低い、あるいは少額な研究開発費など多くの課題解決を迫られている。デルは各経営指標が堅調ながらも硬直化し、デルモデルを経費の安い中国メーカーが模倣することにも強い懸念を示す。IT不況下でもこれら課題を順次解決したいというデルの新しい挑戦第1弾がホワイトボックス戦略だ。(中野英嗣)

■デルモデルで価格破壊し台数を伸ばす

 デルコンピュータは長引く世界的IT不況下でも、独りパソコン、インテルサーバーなどWintel商品の出荷台数を伸ばし、世界市場で独走体制を固めつつある。02年4-6月、世界パソコン出荷台数が前年同期比0.5%減少するなか、デルは15.5%伸ばし、コンパックを買収したヒューレット・パッカード(HP)は逆に出荷を16.6%も減らした。このため、コンパック買収で僅差でデルを抜き世界市場トップとなったHPも、近いうちにデルに再逆転されると米業界は予想する。デルのみがこのように大きく台数を伸ばすのは、デルモデルに支えられて、他社が追随できない値下げを繰り返し、自ら世界市場での価格破壊を演出するからだ。

 デルモデルは、ダイレクトセールス、CTO方式による生産、徹底した在庫圧縮など他社が簡単には追随できない数々の特徴がある(Figure7)。

 さらにこれまでマイクロソフト、インテルが仕様を決定するWintel商品に専念したため、ITメーカーとしては極端に低い研究開発費率も大きな特徴だ。デルは総利益率が20%台であった時に10%の販管費率を、総利益率低下にともなってこれを下げ、不況下でも7%台の営業利益率を確保する(Figure8)。

 さらに、営業利益率を一定に維持しながら、原価低減を追求し値下げ余地をつくり出し、自ら価格破壊を演出し他社を突き放す。研究開発費も1%台を継続し、一定の営業利益率を維持する。02年7月末に3.2日まで圧縮された在庫も原価低減の大きな原動力だ。

■独走デルにも多くの経営課題が

 デルのマイケル・デル会長は、「デルがIBMと対抗できるITメーカーになるには、パソコン世界市場シェアを30%まで高め、営業利益率もIBM並みの10%台が必要だ」と語る。さらに独走中のデルにも、多くの経営上の課題があるとデル会長は発言する(Figure9)。

 デルの総利益率、販管費率、営業利益率など経営指標はきわめて堅調だ。しかし、ここ数年、その各指標はあまりにも固定化してしまって、硬直化ともいえるだろう。これら指標を上向きのベクトルに変えるためのフレキシビリティも求められている。

 また世界的にデルユーザーは中・大企業に偏重しており、SMB(中小企業)ユーザーが極端に少ないことも、中・大企業にIT投資増加が期待できない現在、大きな問題である。

 さらに、売上高構成比で9%、30億ドルのITサービス売上高も早急に増大させなければならず、デル会長は100億ドル目標を発表している。そして重要なことは、ダイレクトモデルがもたらした世界のチャネル企業のデルへの敵対感情の解消だ。チャネルの協力なしではSMB市場の開拓はできないからだ。

 また、Wintel特化戦略の転換も急ぐ。Wintelでの利益率の大きな改善は望めなく、これだけではエンタープライズ基幹系への参入も困難であるからだ。

 デルはマイクロソフトオルタナティブとして加コーレルのオフィスソフトも利用し始め、Linuxへも注力する。エンタープライズシステムでのデルの目玉は数百台のサーバーを連動させるLinuxクラスタで、米有力大学への納入を次々と開始した。

 ノンWintelに向かうには研究開発費の大幅増が要求される。そしてデル会長が最も懸念するのが、人件費・物件費が極端に低い中国メーカーのデルモデルの模倣だ。経費単価30分の1の中国メーカーがデルモデル採用で成功すれば、デルの価格優位性は直ちに崩れるからだ。

■課題解決の第1弾、ホワイトボックス参入

 02年8月、デルは米国SMB対象のチャネル販売の30%にも達している(IDC調べ)ノーブランドのホワイトボックス市場に参入すると発表し、IT業界に衝撃を与えた。デルはホワイトボックスで、チャネルのデルへの反感を解消しチャネル網を構築して大きな課題であるSMB市場開拓に邁進する。ホワイトボックスでも高シェアを獲得できれば、量産による原価低減、売上高伸長も期待できる。ホワイトボックスをチャネル経由販売にすることで販管費増大なしに利益が伸びれば研究開発費も増やせる(Figure10)。

 またSMBユーザーは、将来のITサービスの主力、ホスティングサービスの基盤ユーザーとなる。デルのホワイトボックスにはデル名ではなく「チャネル・パートナー・ソリューションズ」とのブランドが貼られ、これにSIerのハウスブランドのダブルブランドも可能だ(Figure11)。デルがホワイトボックスを提供するSIerなどチャネルは、「年商500万ドル以下、従業員20人以下」という厳しい条件を満たす小規模チャネルに限定される。このホワイトボックスはCTO方式で生産され、標準モデルはない。

 デル・スモールビジネス部門フランク・ミュールマン上級副社長は、「ホワイトボックス参入はデルのダイレクトモデル変更ではないし、チャネルセールス開始でもない」と強調する。

 さらに「デルがホワイトボックスを提供する小SIerは、ユーザーのITを全部任されるアウトソーサーで、これはユーザーのIT部門でありチャネルではない。デルはホワイトボックスのメーカーではなく、OEMerとして参入する」と説明する(Figure12)。

 また、同上級副社長は「デルは価格統制も行わず、SIerの付加価値ビジネス、保守サービスも自由だ」と説明し、「デルの目標チャネル数やチャネルマージンは公表しない」と語る。また中・大企業相手の大規模チャネルを「値引き騒動の主演者であり、ここにホワイトボックスを提供することはあり得ない」と極め付ける。デルは「安い高品質ホワイトボックスの提供で世界的にSMBパソコン市場を拡大し、SMB対象SIerの利益率を改善し、SMBのITサービス市場を拡大することが狙い」と語る。

 デルは当面ホワイトボックス販売目標を年商の0.5%と低く設定し、SIerのデルへの反感解消などSIer反応を見極めつつ今後のホワイトボックス戦略を決定する。当然デルは米国に続いて、SMB大市場のある日本、EUでのホワイトボックス参入を計画している。米ITアナリストの1人は、「ホワイトボックスでチャネルのデル敵対視が解消できるかがまずデルの課題だ」と論評する。
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