コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第15回 岐阜県(下)

2003/02/17 20:29

週刊BCN 2003年02月17日vol.978掲載

 IT化に向け、岐阜県の先進的な取り組みを特徴づけているもう1つの要素は、IT産業の誘致だろう。米西海岸がシリコンバレー、東京・渋谷がビットバレーならば、岐阜は「スイートバレー」と名付け、ITばかりでなく、ロボットや航空・宇宙など先端産業の誘致を積極的に進めている。しかし、IT産業に絞れば、大垣市の「ソフトピアジャパン」を中心とする西濃地域に資金が投入されているのに対し、東濃地域はIT産業活性化という点では見劣りしてしまう。「岐阜県のIT産業へのリソースの配分は”西高東低”」という言葉は、決して誇張ではなさそうだ。(川井直樹)

県のIT予算は「西高東低」? 西濃地域を中心に産業誘致進む ベンチャー育成を広報活動でも支援

■ソフトピア内に「dガバメント推進グループ」設置

 岐阜県庁には、地域産業振興を担当するセクションの1つに「情報産業室」がある。

 河内宏彦・岐阜県新産業労働局情報産業室長は、「岐阜県の情報産業振興の基本が大垣市の『ソフトピアジャパン』と各務原市の『テクノプラザ』。その拠点を生かして産業振興につなげる。NTTコミュニケーションズへの戦略的アウトソーシングでも、同社に岐阜県の情報産業育成に協力してもらうことになっている」とし、ソフトピアジャパンとNTTコミュニケーションズが県内の情報産業をリードしていくことになると語る。

 そのため、昨年10月にソフトピアジャパン内に、岐阜県の方針に沿って事業の発注スキームなどを決定する機関として、「dガバメント推進グループ」を設置した。

 さらに、「市町村についても、なるべくdガバメント推進グループに相談してもらって、地元や大手ベンダーへの発注スキームを検討するように要請している」(河内室長)として、県だけでなく、市町村の電子自治体構築でも、ソフトピアジャパンが役割を担っていく方法に変えていく考えだ。

 岐阜県の思惑通り、ITベンチャー育成も軌道に乗ってきた。ソフトピアジャパンにあるITベンチャーを収容する「ドリームコア」は、100室の入居スペースに対して64社が入っており、テクノプラザでは40室中25室が埋まるほどの人気ぶり。

 「昨年度までは無料だったが、今年度から1平方メートルあたり1年目が500円、2年目以降は1000円の家賃を取るようにした」(河内室長)。もちろん家賃収入が目的ではなく、入居するベンチャーに賃貸料という一定のルールを設けたわけだ。

 また、NTTコミュニケーションズは、ソフトピアジャパンに入っている有望なITベンチャー4社と、テクノプラザの1社との間でコンサルティング契約を交わしているという。

 さらに、ソフトピアジャパンに拠点を開設しているサン・マイクロシステムズは、伊藤忠テクノサイエンス(CTC)などとともに、ベンチャーとJavaの開発で提携し、岐阜県もその“橋渡し役”として広報活動などで協力する契約を交わすという。

 岐阜県がビジネスアライアンスに名前を出す背景として河内室長は、「ベンチャー支援の一環として、ベンチャーの活動を紹介するなどの広報活動は岐阜県が協力していく」という理由とともに、岐阜県のIT産業振興を世界に向けてアピールしていきたい、という思いもある。

 ソフトピアジャパンに拠点をもつのは、企業ばかりではない。大垣市も市役所の情報セクションの分室として「情報工房」を置いている。

 情報工房のあるビルは5階建て。「計画では3階建てだったが、建ぺい率を目一杯使うということで、5階建てとし、3階と4階部分はソフトピアジャパンアネックス(別館)として使っている」(片岡博・大垣市企画部情報企画課課長補佐兼情報企画係長兼事業係長)という。

 そのために総工費は、当初計画の38億円から59億円に膨らんだ。情報工房には大垣市の情報企画セクションが入っているほか、「マルチメディアキッチン」という別名のように、IT普及やマルチメディアの体験教室などを開催するスペースも設けられている。

 「IT化の基盤として、市民のパソコン教室などIT教育が欠かせない。情報工房をベースに、パソコン教育をサポートするNPO(民間非営利団体)も生まれている」と、情報工房の活動を説明している。

 また、昨年には地方自治情報センター(LASDEC)の公募案件に対し、ソフトピアジャパンが窓口となり、大垣市など西濃地域の20市町村の共同アウトソーシング調査補助金を獲得するなど、市町村レベルでの協力体制もできた。

■多治見市はCDC設立でアウトソーシング活発化

 ソフトピアジャパンを中心とする西濃地域のIT化推進に対して、東濃地域も黙っているわけではない。多治見市や可児市など、IT化で先進的な都市もある。

 多治見市は経済産業省の補助金を得て、CDC(コミュニティ・データ・センター)を設立。「庁内の情報システム業務をどんどん外に出していく」(加藤昌宏・多治見市企画部企画課副主幹情報・防災グループリーダー)と、アウトソーシングに積極的な姿勢を見せる。

 「庁内の情報システムも、メインフレームからクライアント・サーバーへの移行も必要になるが、メンテナンスやセキュリティを考えたら、もはや庁内にシステムは置けない。市の職員で対応するというのは不可能だ」というのが加藤副主幹の考え。

 24時間365日の対応は自治体ではできない。実際にCDCの活用でコストを削減するために、多治見市では「市の情報担当職員を減らすことを進めている」。さらに、2003年度中にはICカードシステムのサーバー、庁内LANのサーバー、ウェブサーバーなど10システムをCDCに出してしまうことを、来年度の予算に組み込んでしまった。

 「基幹システムについても調査を行っており、メインフレームからクライアント・サーバーへの移行をするなかで、どれだけのシステムを外に出せるかを検討しており、3月末までに決定する」(加藤副主幹)と、CDCへのアウトソーシングの姿勢を明確にしている。

 一方、可児市は、岐阜県市町村行政情報センターとともに、庁内の文書管理システムを開発し、「2月から順次テスト的に使用していく」(長瀬繁生・可児市企画部市政情報課情報化推進係長)ことを決めた。

 市政情報課はもちろんだが、総務課など4つの課がまずテストの土台となる。長瀬係長は、「2年間、ソフトピアジャパンに出向していた」という経歴の持ち主。その長瀬係長から見ても、「ソフトピアジャパンを中心に、岐阜県のIT化予算は組まれているでしょうね」というように見える。

 また、多治見市の加藤副主幹は、「東濃の場合は、岐阜市や大垣市に比べて名古屋市に近いという立地条件がある」というのも、すべてが県の施策に乗っかって、IT化を進めているわけではない――という主張にも聞こえてくる。


◆地場システム販社の自治体戦略

セイノー情報サービス

■運輸で培った“得意技”で電子自治体に挑む

 自治体の電子化で公共部門の事業拡大を図るのは、地元システムインテグレータの重要なビジネス戦略。しかし“得意技”がなければ、事業拡大は難しい。

 地元にある大手運輸会社、西濃運輸の情報システム子会社であるセイノー情報サービスも、岐阜県のIT化ではNTTコミュニケーションズと組んで提案を行った会社。

 自治体向けのビジネスでは後発だが、西濃運輸をバックに全国規模の事業活動を行っている。その意味では“得意技”がはっきりしている企業だ。

 同社の開発した「FMS(フリート・マネジメント・システム)」は、衛星を使って運送車両の位置や状態を把握するシステム。もともとは1993年に、伊藤忠商事、クラリオン、クアルコムなどが出資して設立したオムニトラックス向けに開発したシステムで、その後このシステムは、96年にデンソーが中心となり3社とともに、オムニトラックスの事業を継承するために設立したモバイルメディアネットに引き継がれた。

 問山昭・ソリューション開発部企画グループ物流ソリューションチーム次長は、「通信端末が高いことや、通信コストの面から景気低迷のなかでは普及していない」というが、得意分野を生かした先進的なシステム開発では定評がある。

 「運輸業者の労務管理や経営情報化にはFMSが活躍する面もある」と自信を見せており、さらに使いやすいシステム開発やコストを抑えたシステムへのグレードアップを続けていく。
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