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<OVER VIEW>IT不況、米国業界はSMBに活路を Chapter4

2003/02/24 16:18

週刊BCN 2003年02月24日vol.979掲載

IBM、世界のSMBを重点市場へ

 世界のIT業界が期待するSMB(中小企業)市場への積極参入を、IBMとマイクロソフトの2強が目指す。ともにSMB向けCRMなど業務ソフトで当面競合を激化させる。IBMはSMB戦略を強化するためIBMエンタープライズ事業を熟知する社歴の長いIBMerをロータス部門とチャネル責任者に任命した。IBMは自社の次世代主力ビジネスとするeビジネス・オン・デマンド利用へエンタープライズと並んで、SMBもパートナーと協業して強力に誘導する方針を明確に示した。(中野英嗣)

■SMBへIBM、マイクロソフト参入でチャネル争奪激化

 世界IT業界の両雄、IBMとマイクロソフトが2003年から、ともに世界のSMBを重点市場とする戦略を明確にし、それぞれ当市場のeビジネスの中核業務ソフトであるCRM、ERP、SCMを投入し始めた。

 マイクロソフトは買収した米グレートプレインズ、ナビジョンのソフトを利用して自社ブランド業務ソフトを充実する。一方、IBMはピープルソフト、シーベルなど有力ISV(独立系ソフト会社)との提携を強化し、これに自社ミドルウェアWebSphereなどの統合によって、SMB対象パートナーの武器を揃える(Figure19)。

 現在、CRMなど業務ソフトではシーベルやピープルソフト、SAPなどでシェアが固まっているが、これらソフトは、いずれもエンタープライズを主対象としており、マイクロソフトのSMB対象のMS-CRM発売を歓迎する米SIerは過半数となっている(Figure19、)。

 IBMと提携したISVには、ピープルソフト、J.D.エドワーズ、シーベル、メイテックス、オニオックスなどが顔を揃え、さらにIBMはそのSMB向け米国販売チャネルを強化するため、米国最大のディストリビュータで、15万社のSIerと取り引きするイングラム・マイクロと提携し、SMB向けソリューションを拡販する(Figure20)。

 シーベルはこれまで、マイクロソフトとも提携しているが、同社が自社ブランドのCRMを発売したのを契機に、IBMはただちにシーベルとSMB向けウェブサービスソフトを強化するために提携した。IBMは同社サミュエル・パルミサーノCEOの「SMB市場での必勝」の命を受け、同市場向け戦略強化の決断を早めている。

 世界のエンタープライズのIT投資が当面低迷することが避けられない現状で、IBMとマイクロソフトのSMB戦略強化は、わが国を含めて当市場攻略が重要になったことを示唆する。米国販売網に強い影響力をもつイングラムとはマイクロソフトも協力会計士群(CPA)サポートのために提携した。米国ではSMBに強力なチャネルの争奪戦が激化している。

■世界300億ドル(36兆円)の巨大なSMB市場

 米国CRN、インフォワールドなどによると、03年以降は世界SMBで重要となる新ITで、ウェブサービスがともに上位ランクにある(Figure21、)。

 さらに、ストレージやバーチャリゼーション(仮想化)もランク入りしていることを留意したい。IBMのSMB担当マーク・ローテンバックGMは、世界のSMB市場はIT市場全体9000億ドルの3分の1、3000億ドルと巨額であると説明する(Figure22)。

 さらに同GMは、SMB市場規模の40%、1200億ドルがハード、60%の1800億ドルがソフト&ITサービスと分析する。SMBが世界的に全市場の33%を占めているのに対し、IBM全売上高に占めるSMBの割合は20%と低いことが、これまでエンタープライズ重点指向のIBMの課題だと指摘した。

 加えて同GMは、エンタープライズIT投資が低迷するなか、SMBは世界的にeビジネスへ乗り遅れているため、今後とも年平均5%の市場成長が期待できると分析する。同GMはSMBの問題点として、ITスキルが低いこと、ROI算定が困難、そしてIT投資とビジネス革新が結び付いていないことをあげる。従ってこれからのSMB対象のITでは、「ヘテロジニアスで異機種が入り乱れている環境のインテグレーションが急がれる」と同GMは指摘する。

■IBM、オン・デマンドへSMBを誘導

 IBMグローバル・サービス戦略&マーケティング担当、ラルフ・マルティーノ副社長は、同社は早くからSMBを重視して、それに対応したハードを投入してきたという。そしてIBM基幹ビジネスのITサービスでもSMBは、パートナーに全面依存する戦略を世界的に強化すると説明する。そのためIBMはSMB対象商品サービスの要件をそれぞれ定め、これにもとづいて商品サービスの強化を推進すると説明する(Figure23)。

 さらに、同副社長は「SMBの商品適合条件」として、チャネルレディ、プライスリーズナブル、そしてカスタマイズが低価格、短期間で可能なセミ・パッケージであることをあげる。そして、SMBもウェブサービスの構築時代を迎えることを考えると、これからのeビジネスソリューションの基幹OSはオープンスタンダードのLinuxが最適と指摘する。

 ウェブサービスあるいはこのインフラとなるコマーシャルグリッドでは、ヘテロジニアスITのインテグレーションが必須であるため、OS、プロトコルなどはオープンスタンダードを採用すべきだと同副社長は強調する。

 IBMは03年1月、SMB関連重要部門であるロータス・ソフトウェアとグローバル・ビジネス・パートナーの部門の責任者を入れ替え、SMB重点を鮮明にした。ロータスソフトはこれまでエンタープライズ重点であったが、同市場のサチュレーションもあり、これからはIBMのSMB向け廉価版ミドルウェア群とロータスソフトの統合を急ぎ、SMB重点へと転換する。

 グローバル・ビジネス・パートナーズの責任者に就任したマイケル・ボーマン新GMは、「世界の新SMB市場開拓として、ソリューションドリブン、パートナードリブン」を強調する(Figure24)。

 そしてIBMのSMBチャネルとしてはこれまでのリセーラ、ディストリビュータだけでなく、ISV、コンサルタント、インテグレータなど、多くのプロフェッショナル参加を求め、その間の協業強化も重要と強調する。そして同GMは、「パルミサーノCEOが03年をIBMにとってオン・デマンド・サービス元年と位置づけたこともあり、自分の最も重要な課題はSMBをオン・デマンド利用へパートナーと協力して誘導することだ」という。

 「オン・デマンド・サービスはエンタープライズだけでなくSMB経営者も最新ITを利用できるという観点から、当サービス利用を強く要求するはずだ」と同GMは前置き、SMBを当サービスへ誘導するロードマップを明確に示し、そのために10億ドルを投資することも公約した。IBMは世界のエンタープライズに続いて、SMBでも覇権確立へ積極的に手をあげた。
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