OVER VIEW

<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter1

2003/03/03 20:44

週刊BCN 2003年03月03日vol.980掲載

 従来の需要循環論では説明できない構造的不況業種となった世界IT産業では、当然有力ベンダーの決算も厳しさを増している。世界市場の縮尺図となるIBM、ヒューレット・パッカード(HP)の売上高も減少を続ける。IBMも大幅減益で、HPとサン・マイクロシステムズは赤字を続ける。アナリストの間では、単に企業利益だけでなく、国や社会経済への影響力の大きい企業付加価値指標となる「企業版GDP(国内総生産)」が重視されるようになった。また、低迷の続く市場では、強者による他社カニバリズム(共食い)によるシェア激変も起こりやすくなっており、世界パソコン市場でもこの現象が顕著だ。(中野英嗣)

市場低迷で厳しい有力ベンダー

■構造的不況に陥った世界のIT産業

 世界IT市場は、2000年秋口からのITバブル崩壊や世界経済低迷によって02年も市場回復への動きは見られなかった。今回のIT不況は従来の需要循環で説明できない複雑な要因が絡み合った構造不況と考えるべきだろう。市場が大きく縮小する数字的要因は需要数量の低迷と製品の価格デフレだ。

 世界IT市場縮小を端的に説明するのは半導体市場だ。米半導体工業会によると、世界の同市場は00年をピークに01年は前年比32%減、02年も横這いの1%増にとどまった。02年世界半導体市場はピーク時比31%減だ。半導体市場の大幅縮小はハード市場不振による。IDCによると、02年の世界IT投資額は前年比2.5%減で、ピーク時の00年に比べると3.6%減。この中で02年のハード投資は前年比9.9%減だ。

 IT投資が極端に減少しているのはITバブルに躍って過剰投資を繰り返してきた米国だ。フォレスターリサーチによると、02年の米国IT投資は前年比7.8%減、ピーク時の00年比では28.5%減という惨状だ。この大幅市場縮小に見舞われている米国ITベンダーの決算は総じて厳しいものだ。

 世界第1、第2の巨大ベンダーIBMやHPは世界市場を相手にビジネスを展開しているので、その決算、とりわけ売上高は世界市場の縮尺図と考えられる。IBMと、コンパックコンピュータを買収したHPの02年売上高はピーク時の00年比それぞれ8.2%、20.6%減少した。この結果00年にはIBMを凌駕していたHP・コンパック売上高が、02年には再びIBMが12%強上回った。

 製品メーカーで売上高を大きく伸ばしたのはデルのみで、これがデルのWintel市場独り勝ちを実証する。サンもドットコム・バブルの崩壊やローエンドUNIX市場を侵食したLinuxインテルサーバーによって、02年売上高は前年比31.5%減となった。

 マイクロソフトはXboxのゲーム市場新規参入及びソフトライセンス契約の長期化が功を奏し、売上高を大きく伸ばす。インテルの売上高推移は世界半導体市場動向と当然相似形だ。01年同社売上高は21.3%減となり、02年も半導体市場と同じ微増の0.8%にとどまった。

■多くの有力ベンダーが大幅な減益へ

 米国ウォールストリートでは、IT産業をこれまでの定説「成長産業」から、「成熟産業」へ変えるべきだと主張する機関投資家も増えている。これは有力機関投資家やベンチャーキャピタル(VC)がもはやITを投資主力業種と考えなくなっているからだ。このVCの変化は、米国におけるVCの新興企業投資額の大幅減が証となろう。同投資はITバブル前である98年の215億ドルが00年には5倍の1066億ドルに膨れたが、01年以降は大幅減少が続いて02年は212億ドルとバブル前の状況に戻ってしまった。

 IT市場縮小は当然有力ITベンダーの純損益を直撃する。

 純損益でも堅調なのはマイクロソフトとデルのみだ。マイクロソフトもピーク時の00年比では16.9%減だがデルは同2.5%減にとどまる。IBMは02年、ハードディスク事業の日立製作所への売却経費計上もあってピーク比55.8%の減収、サンも00年の高利益企業から赤字企業に転落し、同社は02年10-12月に前年同期の赤字4億ドル強から、さらに所有株式評価損などによって22億ドル強の巨額赤字の苦境に陥っている。HPもコンパック買収効果を出すまでに至らず、前年に続いて赤字決算を続ける。

■重要な業界指標となる企業版GDP、シェアも激変

 最近、先進国の経済アナリストはいわば「企業版GDP」というべき経営指標を重視するようになった。これは企業の経常利益に人件費や販売費、管理費や研究開発費、設備減価償却、金融機関への利払いや税金を加えた「企業付加価値」だ。株主は主として純損益に注目する。しかし企業付加価値の「企業版GDP」は、国全体や社会に与える経済効果を示す数字だ。

 企業は利益を確保するために事業リストラクチャリングや人員削減のダウンサイジングによって経費を圧縮する。結果的に利益を確保すれば株主は評価する。しかし、ダウンサイジングが行われれば失業者は増える。

 わが国でも03年3月期、全上場企業の経常利益は前年の8兆8600億円から70%増の15兆円が見込まれ、V字型回復となる。しかしこれは企業付加価値の増加とは関係ない。このV字型回復は「企業版GDP」の減少幅を大きく上回る経費削減で達成されるものであるからだ。

 この「企業版GDP」に近い経営指標の1つは企業の総(粗)利益だ。その意味でもIT産業界の売上高や総利益を注視しなければならない。産業界全体の売上高減少は総利益の圧縮に加え、社会における業界のプレゼンス弱体化を招くからだ。

 総利益でも堅調なのはやはりマイクロソフトとデルだ。これに対しピーク時の00年比で総利益を大きく減らしたのはサン39.9%減、インテル36.8%減だ。IBMも6.6%減、HPも22.4%減とその減少は大きい。

 さて、これまで世界IT市場拡大をけん引してきたパソコン出荷の低迷も世界業界不況の1つの証だ。成長産業を自負してきたIT業界はこれまで商品やサービス市場の右肩上がりの伸びを期待し続け、設備投資を加速してきた。00年まで世界や米国パソコン市場は2ケタ成長を維持してきた。しかし、両市場とも01年からは減少、微増という状況で2桁成長は昔語りになってしまった。

 低迷あるいは縮小する市場で売上高を伸ばすには、他社にないビジネスモデルを確立して他社市場を侵食するカニバリズム(共食い)が極めて効果的で、シェアの激変も起こりやすくなる。世界パソコン市場シェアも00年以降激変している。

 99年まで世界パソコン市場はHP、コンパック、デル、IBM、NECの5強時代だった。これが市場低迷と、HPのコンパック買収によってデルとHPの2強時代となった。しかも01年には当時のコンパックを合算したHPシェアはトップであったが、02年にはデルが逆転した。このパソコン2強時代が続くのかあるいは、デル独走時代になるのか。これも03年世界IT業界の注目点だ。
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