WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第147回 仏、独テレコム、過去最大赤字に

2003/03/24 16:04

週刊BCN 2003年03月24日vol.983掲載

 2003年3月、02年12月の年決算を仏、独テレコムが相次いで発表した。仏テレコム年売上高は6兆153億円(1ユーロ=129円)、独テレコムは6兆9273億円だ。これに対し最終損益は仏テレコムが2兆6749億円、独テレコムが3兆1734億円という巨額赤字だ。この両社の赤字額はともに仏、独企業としては過去最大の赤字となった。この巨額赤字の原因は、ともに買収企業の営業権や、第3世代携帯電話事業免許料の巨額償却費用である。ネット時代の社会インフラ産業としてのテレコムの重要性は議論の余地はない。従ってこれら巨大テレコムの巨額赤字発生の影響はきわめて大きい。

IT産業への影響は甚大

 売上高最終損益率は仏がマイナス45%、独が同46%と、共に高い。この巨額赤字とともに世界のテレコムはわが国を除くと、巨額負債を抱えている。巨額赤字と巨額負債が米欧テレコム共通「双子の問題点」である。通信インフラ投資、企業M&A、そして欧州では第3世代免許料によって米欧テレコムは資金需要が急騰し、99年から01年の3年間に米通信業界は、5104億ドル(61兆円)、欧業界は5026億ドル(60兆円)という巨額有利子負債を増やしてしまった。

 この間わが国通信の負債増は米欧の10分の1以下の485億ドル(5.8兆円)にとどまった(国際決済銀行、BIS)。この負債増のツケは重く、例えば独テレコム決算時の有利子負債は7兆8819億円である。独テレコムは年売上高を14%も上回る巨額負債を抱える。01年決算時の独テレコム負債は8兆6430億円だったので、この1年負債減少率はわずか9%弱にとどまり、負債を短期間で大きく減らすのはきわめて困難だ。

 仏、独テレコムの決算は02年夏、米破産法11条適用を申請して倒産した米巨大テレコム「ワールドコム」を思い起こさせる。破産法申請時ワールドコム負債は410億ドル(4.9兆円)で、38億ドル(4560億円)の利益不正かさ上げの粉飾決算が明るみに出た直後のことであった。ワールドコムは株価維持のため巨額粉飾決算を行い、これが致命傷となった。わが国NTTも02年3月決算で買収企業にかかわる償却で2兆円強の特損を計上したため8121億円の最終赤字となった。

 しかしNTTの当決算売上高は11兆6815億円で、売上高比赤字は7%と、仏、独に比べて小さい。また当時点のNTT負債は3.1兆円で、これも売上高比では仏、独よりはるかに小さい。欧米企業に比べると、わが国テレコムは赤字、負債のツケは軽い。米国ではテレコム企業は多いが、仏、独テレコムはそれぞれ巨大テレコムであり、シェアも他を寄せつけないほど高い。両社ともにNTT同様に国営テレコムであったからだ。米欧の巨大テレコム不振は通信機メーカー決算に直撃を与えている。わが国NEC、富士通も米欧テレコムへの通信機器売上高も大きく、米欧テレコム不振がわが国IT産業へ与える影響は今後とも続くことを覚悟しなければならない。(中野英嗣●文)
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