中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>13.“汗をかく”行為の蓄積

2003/03/31 20:43

週刊BCN 2003年03月31日vol.984掲載

 本号から、当連載の主題に入る。国内の中小ソフト会社が中国とどう付き合ってゆけば良いのか、ひいては日中のソフト産業が協調していく道はあるのかどうか、考えていきたい。まず、もう一度強調しておきたいのは、多くのソフト会社にとって、“中国”は避けて通れない現実だということだ。いくら無視を決め込んでも、ビジネスを営む以上、現実からは離れられない。(坂口正憲)

 それは製造業を見ればわかることだ。一足も二足も先に中小製造業は、中国の台頭という現実を受け入れながら、四苦八苦しながら変化に対応している。一例を挙げよう。従業員100人を抱える東京のある日用品製造会社A社は、今春から中国工場での生産を本格化する。顧客のコスト要求が厳しくなり、生産に不可欠な協力工場も次々中国へ進出。国内生産だけに頼っていられなくなった。

 ただ、A社は何も慌てふためいて中国に出ていったのではない。中国に工場を設立したのは10年も前だ。独立資本で中国に進出する日系企業が、数えるほどしかなかった頃である。では、A社は10年もの間、中国で何をしていたのか。A社経営者は「あえて生産量や生産品目を限定しながら、技術を徐々に移転し、中国の文化を吸収していた」と説明する。その間、不良品トラブルや労働争議、文化摩擦をイヤというほど経験しながらも、中国工場という切り札を捨てなかった。だからこそ今や、「生産能力は国内と同等。いつでもフル生産に乗り出し、顧客の要求にも応じられる」状態に仕上げることができた。

 中国で順調にビジネスを展開する中小製造業を取材すると、中長期的な視点で進出し、じっくりとビジネス基盤を築いている例が多いことに驚かされる。体力のある大手企業は、力業でビジネスを立ち上げることが可能だ(必ずしもうまくいくわけではないが)。中小企業の場合は、“汗をかく”地道な行為の積み重ねがモノをいう。だからこそ、少しでも余裕があるうちに、中国との関係を考えてみるべきだろう。何年か先、それがビジネスの切り札になる可能性は十分にあるはずだ。
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