WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第153回 デル、プリンタへ参入

2003/05/12 20:29

週刊BCN 2003年05月19日vol.990掲載

 2002年3月、デルコンピュータはレックスマーク製プリンタのOEM調達によって、自社ブランドでプリンタ市場へ参入した。デルの真の狙いは、パソコン市場でデルと競合するヒューレット・パッカード(HP)の揺さぶりだ。最近のHPは、黒字を続ける事業はプリンタのみで、ほかのハード事業はエンタープライズ製品もパソコンも赤字である。

戦々恐々のHP

 HP売上構成ではプリンタ関連は28%となり、これだけが売上高も伸びている。従ってHPのビジネス中核となっているプリンタ市場にデルがダイレクトモデルをもって参入すれば、HPは防戦一方となって、パソコン事業へも影響を与えるとデルは考えているようだ。HPは、「デルの参入は脅威ではない」と発言しているが、プリンタ戦略も単体ビジネスから、デジタル・ドキュメント・ネットワークへ転換しようとしている。

 米業界は、デルのプリンタ市場への参入はHPにとっては大きな脅威で、HPはあれこれ戦略を考えていると見ている。HPのイメージング・アンド・プリンティング・グループ(IPG)上級副社長、ボイメッシュ・ジョシ氏は次のように語る。「自分はデル参入を懸念していない。われわれには全世界2億6000万台のプリンタ・インストール実績がある。プリンタは巨大なユーザーベースがないと、営業コストも高くなってプロフィットビジネスにはならない。さらにわが社プリンタの97%はチャネル経由であり、チャネルを無視するデル戦略は怖くない」

 しかし、HPはIPG戦略をエンタープライズの総合的デジタルドキュメントへ切り替えようとしている。デルがチャネルなしのダイレクトモデルでパソコン市場で独走をする実態を十分にわかっているからだ。既に米エンタープライズではコピー、プリンタ、Fax、スキャナはデジタルコンバージェンスで多機能ドキュメントデバイスに置き換わり、これをネットワークで接続し、ストレージも共有するデジタル・ドキュメント・マネジメント・システムを構築する時代に入っている。

 ドキュメントデバイスはオフィスネットワークでクライアント、サーバー、ファイルと共に重要な構成要素となった。HPは自社IPGの主戦場をデスクトッププリンタからドキュメントネットワークへ切り替え、デルとの競合を避けようとしていると見る米国ITアナリストも多い。HPは米国デスクトッププリンタでは寡占状態となっているが、エンタープライズのドキュメントシステムは新しい競合、リコー、ゼロックス、IBMが強敵となる。

 IBMは早くからエンタープライズでのデジタルドキュメントの総合ネットワーク化の必要性を訴え、HPよりも先行する。IBMはドキュメント・システムにおける配布、ファイルを含めたトータルコストを低減するソリューションを提供している。デルの社内事業に詳しいあるアナリストは匿名で次のように語る。「デルはHPがドキュメントシステムでIBMなどとぶつかるようになることだけでも、プリンタ参入戦略の効果があると考えている」(中野英嗣●文)

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