大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第82話 得意満面

2003/05/12 16:18

週刊BCN 2003年05月19日vol.990掲載

 1度や2度の失敗にたじろぐようなトレビシックではなかった。「この役立たずめ」。赤く焼けただれた1号試作品を足蹴りにすると、トレビシックは早速、試作2号にとりかかった。ここでトレビシックは蒸気機関が自らの力で丸焼けにならないようにいろいろな工夫をこらした。

水野博之 広島県綜合科学技術研所所長

 1度や2度の失敗にたじろぐようなトレビシックではなかった。「この役立たずめ」。赤く焼けただれた1号試作品を足蹴りにすると、トレビシックは早速、試作2号にとりかかった。ここでトレビシックは蒸気機関が自らの力で丸焼けにならないようにいろいろな工夫をこらした。「今度こそ大丈夫だ」。トレビシックは意気高らかに宣伝した。「皆、見物に来い。この世紀の見ものを見のがす奴はアホウだ」。

 こうしてテストはロンドンの街のなかで行われた。トレビシックの車は時速13キロで爆進したのであった。そして丸コゲになることなく見事に実験は成功したのである。残念なことにトレビシックには金がなかった。彼はスポンサーを求めて歩いた。求めて歩いたけれど、彼のカンシャクと腕力は有名だったので、金持たちは逃げかくれするのが常であった。ロンドンでは悪名(?)がとどろいていたので、彼はウェールズまでおもむいて行った。

 そしてそこの鉄工場の主であるサミュエル・ハンフリーに会った。ハンフリーはなかなかの商売人で、ただ単に金を出すのではなく、自分の鋳物工場と、それを船積みする運河の間を荷物を運んで走れたら賞金を出そうといった。カケの好きなトレビシックは「乗った」とわめき、恐ろしい勢いで試作を始めた。トレビシックは得意満面でその結果を報告している。

 「1804年2月21日、われわれは蒸気エンジンで動く車で、鉄9トン、人間70人を車輌5両に乗せてつつがなく工場から運河まで走った。この車には、私と賭けた紳士も乗っていたが、賭けに負けたことに大変御満足のようであった」もちろん、トレビシックのほうは紳士以上に大満足であった。こうして人間の歴史のなかに初めて実用に耐える蒸気機関車が出現したのである。(鎌倉鶴が丘八幡宮にて)
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