県土が広く、冬の厳しい地方にとっては、住民の利便性を考える上で「電子自治体」の構築は不可欠の要素になってくる。青森県もまさに電子自治体を必要としている県の1つだろう。しかし、そのためには住民に等しく行政サービスを提供できるネットワーク整備が必要だ。青森県は電子県庁構築プロジェクトを「電脳AOMORI」と名付け、地域情報化を積極的に推進している。その一方で、町村によっては電子化への取り組みのスピードが鈍く、全体の進捗を遅らせる原因になっているのも事実。IT化を広く県内に普及させる苦労も並大抵ではない。(川井直樹)

電子自治体推進協議会を今年度スタート IDCによる共同運用も検討項目に

■インターネット利用拡大がカギ

 青森県の場合、単純に県土が広いというだけではない。陸奥湾に面した青森市を中心とする地域、むつ市を中心とする下北半島、青函トンネルの本州側にあたる津軽半島、太平洋に面した八戸市を中心とする地域、弘前市を中心とした地方と、生活・経済圏が分散し、それぞれ地勢も環境も異なるという複雑な地域でもある。また、それぞれの地域で市町村合併が進められていることも地域情報化という点では、より複雑になる様相を呈している。

 青森県のネットワークにはこれまで、県の行政情報の通信網や、2000年度に国の電力移出県等交付金を利用し、国の研究開発用ギガビットネットワーク(JGN)へ接続するための県内高速回線網として設置した「青森県情報通信ネットワーク基盤(AI-NET)」などがある。

 AI-NETは、青森港に面した観光物産館「アスパム」に基幹ネットワークセンターを置き、弘前大学など計5か所のアクセスポイントをもつ。基幹通信網には毎秒50メガビットのATM(非同期伝送モード)回線を活用する。

 さらに、99年度から本格稼動を開始した、県や市町村が共同で運営する基幹ネットワークがある。これはアスパムにある基幹ネットワークセンターと弘前市、八戸市、むつ市など、県内の市外通話区域10か所のアクセスポイントを結び、観光情報や農業情報のほかに、インターネットを経由せずに市町村ネットや総合防災情報システム、図書館ネットなどの一部をAI-NETと共有する形で行政システムにも活用している。

 基本的には、「通信事業者の回線サービスを活用し、自設回線網は作らない」(武藤信雄・青森県企画振興部情報政策課副参事IT推進グループリーダー)と、多くの県と同じ方針。だが、今後、これらの用途を限定したネットワークに加え、電子自治体の要となるアクセス回線をどうするか、という点が課題になっている。

 昨年には総合行政ネットワーク(LGWAN)整備協議会を設けて、各市町村の通信環境などについて調査・分析を進めてきた。今年度からは、「青森県電子自治体推進協議会」を設けて、本格的な情報通信網整備の検討に乗り出している。

 しかし、その一方でパソコンの世帯普及率は89年に全国46位、94年43位、99年再び46位と、全国的に見て下位に低迷。ADSLサービス利用可能地域は世帯数で80%以上に拡大しているものの、インターネットの普及状況は「劇的に増えているわけではない」と情報政策課の担当者は言う。

 これでは特に町村レベルでは費用負担の問題もあり、早急なネットワーク整備に対して消極的なのも仕方がないだろう。

 このため電子申請などの共通基盤を、IDC(インターネットデータセンター)を設けることで共同活用しようという話も出てきてはいる。「各市町村へのヒアリングを進めるなかで、共同アウトソーシングのような形が必要だろうということが、徐々に浮き彫りになってきている」(武藤・IT推進グループリーダー)と、県内の自治体をまとめるには、やはり県主導でIDC構想を進める方が手っ取り早い、という結論も見えてくる。

■弘前市や八戸市など合併構想が目白押し

 青森県庁単独では、庁内LANの整備や職員1人1台のパソコン整備など、電子県庁構築に関しては積極的に進めてきた。グループウェアに「ノーツ」を使い、電子メールや掲示板、会議室の予約、スケジュール管理、文書データベースの検索など、一連の作業をパソコン上で行えるようになった。今後はさらに、LGWANの本格活用とともに、文書管理システムや電子決裁なども実用化する方針だ。

 「02年度に策定した青森県電子県庁基本方針に沿い、今年度は電子入札、文書管理システムなどの検討を進めていく」(鈴木勇・IT推進グループ総括主幹)としており、BPRの側面だけでなく、「文書管理システムの先には情報公開がある。文書のライフサイクルを通じての電子化は包括的に進めなければならない」(小山田雅春・副参事情報管理グループリーダー)と重要性を認識する。

 一方で、「各課の調整も必要で、それに手間取れば導入が遅れることもあり得る」と、一気に電子化を進めることの難しさにも直面している様子。それでも、部課によっては電子化に前向きになっており、道路使用の許可申請など申請受付の一部についてはワンストップサービスを実現できそうだ。

 もう1つ、県内自治体のIT化へのスピードを鈍らせる要因は、青森県の場合でも市町村合併が盛んなこと。

 青森県の市町村合併の特徴は、弘前市を中心に14市町村、八戸市を中心として8市町村と、とにかく合併してできる新市を構成する自治体の数が多いこと。合併特例法の期限が2年を切っているが、全国的に見れば数市町村の合併ですら思うように進まないのに、まして数が多ければそれだけ問題を抱えることになる。

 現に弘前市総務部情報政策課に問い合わせたところ、「電子市役所構築のためのアクションプランづくりに着手したところ。合併に不可欠な情報システム統合については、まだ任意協議会なので手についていない」という。規模の大きな合併だけにさまざまな面で困難が予想され、そのために各自治体単独のIT化の優先順位は、自然と低くなっているようだ。

 これら市町村合併におけるIT統合の難しさを訴えるために、今年4月1日付で新市となった山梨県南アルプス市の情報政策担当者を招いて説明会を行った。実際に情報システムの統合作業に関わった担当者に苦労を聞いたわけだが、その話がどこまで浸透したかは未知数だ。

 青森県では今年度から電子自治体推進協議会で、積み残しになっている問題も、これからの課題も含めて県と市町村との連携を深めていく方針。しかし、県がいくら煽っても、合併作業を進める市町村にはそこまで手が回らないというのが本音だろう。


◆地場システム販社の自治体戦略

富士通青森支店

■合併フォーメーションで受注拡大狙う

 青森県内市町村の情報システムで約40%のトップシェアをもつ富士通。多くの市町村が1市に集約されるとなれば、たとえトップであっても安閑とはしていられない。再編をチャンスに乗り込んでくるシステムインテグレータも少なくないと見る。

 県内のディーラーやシステムインテグレータのパートナー数も多く、「パートナーと協力して合併案件を受注し、お客様の要求に合わせて効率良く統合を進めていかなければならない」と、中村芳明支店長は気を引き締めている。

 青森、岩手、秋田の北東北3県の間には、大合併による道州制論議もわき起こっている。「時間は限られており、この短い時間のなかで戦力をどのようにマネジメントしていくかがカギになる」という。

 富士通グループでは、富士通青森システムエンジニアリングと青森システムラボラトリがあり、約200人のSE(システムエンジニア)に加え、協力会社のSEも動員できる体制にある。

 東北全体の開発体制のなかでどのような布陣を敷くかが問題になるが、「地元中心のフォーメーションを組んで、システム構築だけでなくアフターサービスに関しても十分な体制を構築している」というのが富士通の強みと語る。また、「各自治体のニーズに対応して、必要な期間やSEの人数、最適なソリューションを配して自治体の合併ニーズに応える」ことを最大のテーマに掲げる。

 「今年度下期からは一斉に情報システムの統合ビジネスが具体化する」と、準備を整えて待ち構えている。