WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第157回 SCOとのライセンス契約

2003/06/16 16:04

週刊BCN 2003年06月16日vol.994掲載

ゲイツ会長の狙いは?

 元々はLinuxディストリビュータであったカルデラが買収し、その買収した企業名に社名を変更したのがSCOだ。SCOはUNIXソフトでは有力企業だった。このSCOは2003年3月、UNIX技術をLinuxに無断で転用したとしてIBMを知的所有権侵害で告訴した。SCOはIBMに10億ドル(1200億円)超の損害賠償を要求している。一方マイクロソフトは03年5月、自社ウィンドウズにUNIX技術を利用し、UNIXとの互換性を保持するとの目的で、SCOとUNIX技術ライセンス供給の契約を行った。ここまでのストーリーならば、IT業界ではよく起きる現象だ。

 しかし、このSCOとマイクロソフトの契約には深い狙いがあると、米国IT業界は観測する。その裏付けとなるのが、SCOがマイクロソフトとライセンス供給を行う契約直前に、世界のLinuxを活用するエンタープライズ1500社に、LinuxはSCOのUNIXコードを無断借用しているので、Linuxユーザーにも法的責務が及ぶ可能性を示唆する、いわば脅しに近い手紙を配信していることだ。この手紙配信直後にSCOはマイクロソフトと契約した。他方、マイクロソフトはSCOに対し「恭順の意」を表した。マイクロソフトにとってLinuxの急激な普及は最も懸念する動きだ。

 マイクロソフトはLinux対抗戦略を立案し、これを実行する部門を設け、既に数億ドルを投じている。この部門の重要戦略の1つが「Liunxが各社の知的所有権を侵している可能性を示唆し、ユーザーがLinuxに深入りすることを避けるよう仕向けること」であると、米Linux陣営は警戒していた。このLinux陣営が懸念した通りのことを、マイクロソフトではなくSCOが行ったのである。この動きを見た米アナリストの1人は、「SCOは既にマイクロソフトのビル・ゲイツ会長の操り人形になって、マイクロソフトの代理人としてLiunx潰しに動いた」と分析する。

 もちろんマイクロソフトもLinux陣営の代理人論を十分承知のうえで、6月上旬に次のような広報コメントを発信した。「当社はどこの企業の知的所有物も尊重することを経営方針としている。SCOとの契約もこの方針を貫くためで、これ以外の狙いはない」IBMはSCOの提訴を外見上は無視するように見えるが、裏ではSCOと和解の道も探っているようだ。提訴でLinuxが傷付くことは避け、その普及の勢いに影響を与えたくないからだ。

 多くのエンタープライズもIBMの動きを見て、Linuxを避けるような動きはしていない。SCOは営業不振なので、少額金額でIBMと和解すると、ウォールストリートも考えている。Linuxカーネル開発者、リーナス・トーバルズは次のようにいう。「SCOの言い分は理解し難い。自分はIBMが知的所有権侵害のような悪いことをしていることを示唆する情報に接したことはない。IBMに落度はない筈だ」(中野英嗣)
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