e-Japan最前線

<e-Japan最前線>52.ソフトウェア懇話会

2003/07/14 16:18

週刊BCN 2003年07月14日vol.998掲載

 細田博之科学技術政策担当大臣(兼IT担当大臣)の私的な勉強会である「ソフトウェア懇話会」が今月、報告書「ソフト的な分野において推進すべき事項」を公表した。昨年12月に学識経験者を中心に設置され、先に正式決定したe-Japan戦略IIの取りまとめに向けて議論が行われてきた。報告書は、IT国家戦略を推進する上で重要なカギを握るソフト分野における戦略の方向性を示しており、提言が今後どう具体的に実現されていくかが注目される。

産官学の協力を提言

 2001年から本格的にスタートしたe-Japan戦略では当初、通信のブロードバンド化などハード面のインフラ整備が急ピッチで進められてきた。新しいe-Japan戦略IIでは、医療や食など重点分野を決め、これまで整備してきたインフラを利活用する方向へ舵を切ることになったわけだが、「その利活用を具現化するソフト分野に課題があるのではないか、というのが細田大臣の問題意識だった」(杉山博史・内閣府政策統括官(科学技術政策担当)付情報通信担当参事官)という。

 懇話会には、学識経験者として東大大学院の坂村健教授、元東大教授の月尾嘉男氏、中大の辻井重男教授、同・土居範久教授、京大の長尾真学長、東大大学院の原島博教授、名大大学院の横井茂樹教授、東京電機大の脇英世教授、産業界から富士通の秋草直之会長とリコーの国井秀子執行役員と錚々たる顔ぶれが参加した。報告書では、ソフト的な分野における戦略的な取り組みとして大きく6つの柱で提言。(1)オープンソフトウェア開発・利用の促進、(2)ソフトウェアおよび情報セキュリティの人材育成拠点等、(3)情報セキュリティの強化、(4)総合デジタルアーカイブ・ネットワークの構築、(5)ヒューマンインターフェイスの高度化、(6)アジア重視の取り組み――だ。

 まず注目されるのは、OS(基本ソフト)や基盤ソフトの“開発技術”の重要性が強調された点だ。電子政府でも、Linuxなどのオープンソフトの“利用”を打ち出しているが、開発の面では坂村教授を中心に80年代に開発されたOS「トロン」以降、日本で開発された汎用的なOSはない。米国や中国などではオープンソースOSの開発を国家プロジェクトとして取り組んでいる事例もあり、懇話会でも「日本にOSやアーキテクチャなどを開発できる高度な技術者が少なくなっていることに危機感が示された」(杉山参事官)。

 情報セキュリティでは、技術開発や人材育成に加え、日本の総合的なセキュリティ基準が確立されていない点が指摘された。米国では、政府の情報処理において性能から業務まであらゆる要求事項を規定する基準FIPS(連邦情報処理基準)が策定されており、この中にセキュリティ基準も含まれている。セキュリティ基準を決めるための国レベルの機関は、米国のほか英国、フランス、韓国なども設置。韓国などでは大学でのセキュリティ教育を大幅に強化、人材育成にも力を入れている。

 報告書では、そうした状況を踏まえ、産官学が協力して実践的ソフトの研究開発を進めることで技術力を高めるソフトウェア開発センターや、セキュリティの研究開発・人材育成や基準策定を担える組織の設置などを提言した。コンテンツの分野では、美術館、博物館、図書館などのデジタルアーカイブ化や、技術開発の重要性を指摘。欧州諸国では国家レベルでの取り組みが進んでおり、日本でも著作権処理のルールを確立しつつ取り組む必要性を強調した。また、日本でも旧字体などの多様な文字のデジタル化で課題となっている文字コードの標準化や、アジア言語を中心とした多言語間の機械翻訳システム技術の開発をあわせて推進することも提言している。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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