テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>9.総務省の来年度概算要求(2)

2003/09/29 16:18

週刊BCN 2003年09月29日vol.1008掲載

 ユビキタスネットワークやデジタル放送など高度化されたネットワークの上で、どのようなアプリケーションを実現できるのだろうか――。総務省がめざしている方向性を来年度のIT政策の重点分野と予算要求から探ってみる。(ジャーナリスト 千葉利宏)

電子タグの高度利活用

 「超小型チップネットワーキング技術などを核に、いつでも、どこでも、何にでもつながるネットワーク社会を実現する」――。ユビキタスネットワークのカギを握るテクノロジーには電子タグが位置づけられている。ありとあらゆる「モノ」に超小型チップが内蔵され、そこに書き込まれたデータがネットワークを通じて流通する基盤を整備することで、これまで難しかった新しいビジネスモデルやアプリケーションを実現しようという戦略だ。

 電子タグの普及には経済産業省でも力を入れているが、まずはバーコードの上位互換としても利用できる基盤(低コスト化や商品コードの標準化など)を整備して、身近なアプリケーションから普及を図るボトムアップ作戦。それに対して総務省は、「ネットワークと有機的につながることで実現できるアプリケーションの研究開発に重点を置いている」(田中栄一・情報通信政策局総合政策課長)。

 具体的には、ネットカフェやホテルなどに設置された様々な端末に、超小型チップを内蔵した非接触カードをかざすだけで瞬時に自分の端末(My端末化)として利用できるようにしたり、超小型チップを保険証券などの金融商品やブランド品などに付与して偽造防止に役立てたり、多様なアプリケーションが検討されている。しかし、My端末化ひとつ取ってみても、個人認証、電子決済などの基盤整備や、さらに使用し終わったあとに個人のデータや使用履歴を端末から完全に消去するセキュリティ技術の開発など解決しなければならない課題は少なくない。

 総務省では、来年度予算の新規要求として「電子タグの高度利活用技術に関する研究開発」を盛り込んだ。かつてネットワークに接続されている端末は、固定電話機やパソコンなど固定化されたものだけで、そのデータがどの場所の端末にあるかを探すことも容易だった。しかし、携帯電話が登場して急速にモバイル化が進展、さらに電子タグの登場で、あらゆる「モノ」がネットワークにつながる時代が到来する。ネットワークを通じて電子タグのデータを見るには、電子タグの商品コードをネットワークアドレスへと変換する技術が必要となる。ネットワーク上で電子タグが貼り付けられた「モノ」の情報を管理するデータベースも不可欠だ。

 12月からスタートする地上波デジタル放送の導入を機に、今後はデジタル放送ネットワークも利活用に重点を移していくことになる。総務省では、デジタルテレビを家庭におけるIT革命の基盤となる情報端末と位置づけて研究開発に取り組んできたが、地上波デジタル放送を使った行政情報サービス提供の調査研究などにも力を入れたい考え。デジタル放送を通じて住民に対して申請や申し込みなどのポータル画面を送信、住民はデジタルテレビのインターネット通信機能を使って必要な手続きを行うイメージだ。パソコンを利用していない住民を含めた幅広い情報提供が可能な地上波デジタル放送をどのように利活用していくか。放送開始をきっかけに議論が活発化しそうだ。

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