コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第46回 新潟県(下)

2003/10/06 20:29

週刊BCN 2003年10月06日vol.1009掲載

 新潟県内の市町村の多くが合併に向けて着々と準備を進めている。合併の際に大きな課題となる情報システムの統合についても、合併協議会に作られる電算部会といった組織で新市の情報システム構築を検討するほか、合併の中心となる市では、統合を織り込んで新システムの導入を図るケースも出てきた。新市のシステム構築が進むことは、ベンダーの競争が激しくなることを意味する。新潟県内市町村の情報システムを巡るシェア争いは、大手ベンダー、地元システムインテグレータ、県外企業を巻き込んで熾烈さを増している。(川井直樹)

合併中核市でのIT化が進む 長岡市は岡山市と提携 柏崎市はシステムをアウトソーシング

■長岡市の新システムはNECが受注

 新潟県中央部にある長岡市は、岡山市の情報政策課と提携し、ホームページを運営するなど、IT化ではユニークな取組みを進めている。2001年3月には、岡山市と同様にIT化の計画を「長岡情報水道構想」と名付け、さらに02年度からは「e-ネットシティながおか推進事業」を開始。長岡市郊外にあり、長岡技術科学大学も近い青葉台をモデル地区に、地元のCATV事業者のNCT、東北電力系の東北インテリジェント通信、長岡市の3者で光ファイバーネットワークを使ったFTTH実証実験プロジェクトを開始した。岡山県、岡山市それぞれの情報政策担当者も電子自治体構築の講演をするなど、関係を深めている。

 その長岡市を中心に8市町村が合併を計画している。長岡市に編入する形になる情報システム統合については、「今の情報システムは非常に古いタイプ。まず市の予算でこれを更新する。当然、将来の合併をにらんだシステム構成にする」(金子淳一・長岡市企画部情報政策課長)と、合併のタイミングで新システムを構築する考えだ。

 新システムについては、NECが他社システムのリプレースで内定を獲得している。「長岡市のシステムは(受注の)難易度が高かった。合併案件を含めてNECの実績と提案が評価された結果」。東原浩・NEC長岡支店長は大きな商談を獲得し、ホッとした表情を見せながらも、他の電子自治体や市町村合併商談でシェアアップを目指す。

 「県レベルでの共同化や実証実験にもぜひ参画したい」(鹿島徳生・NEC新潟支店長)と、積極的な事業展開を図っているという。特に、「グループ会社のNECソフトの拠点があり、自治体ビジネスに強い。NECグループで連携してサービス、サポートを強化して提案できる」(同)点が強みだ。

 かつて、柏崎市にはファクシミリやプリンタなどの製造拠点「NEC新潟」があった。01年8月末に富士ゼロックスに売却しているが、柏崎市との関係は残る。その1つが柏崎市の第3セクター、柏崎情報開発センター(KASIX)への出資だ。資本金8500万円のうち柏崎市が2500万円、NECは1500万円、さらに原子力発電所がある関係で東京電力も1000万円を出資。このほか、日本政策投資銀行2000万円などとなっている。

 柏崎市は、今年度からKASIXのデータセンターに情報システムのアウトソーシングを始めた。もともとKASIXは柏崎市の情報システムの運用を担当してきただけに、「サーバーなどを移転しただけ」(小池正彦・柏崎市総合企画部情報化総合戦略室室長代理)と語っているが、全国の市町村でアウトソーシングが検討されているなかで、その決定は素早かった。

 「24時間365日の対応など、市庁舎にシステムがあっては不都合なことが多い」(同)と、アウトソーシングは不可欠という考えだ。情報化への取り組みが活発なのも、世界最大の原子力発電所を擁し、電源立地の交付金措置などで財政的に有利という面は否定できない。また、このほど「使用済み核燃料税」の徴収も認められるなど、IT化に使える予算拡大の期待も出てきた。

■新潟県と新潟市を押さえる富士通

 新潟県と新潟市の基幹システムは、ともに富士通。「パートナー会社のBSNアイネットや、富士通新潟システムズという自治体システム専門の開発会社がある」(熊谷弘・富士通新潟支店長)と、自治体システム受注と開発に強みがある点を強調する。

 熊谷支店長は、「県内自治体の基幹システムでのシェアは50%。新潟市のシステムがあることで人口比では60%程度のシェアになる」と、富士通の強さを誇示する。その一方で、合併商談における競争の激化にも直面しており、「1社で全ては解決できない。基幹部分だけでなく、自治体業務の電子化でサブシステムにも需要が出てくる」と、むしろITニーズの裾野拡大に注目している。

 その新潟市も政令指定都市入りを目指して、周辺12市町村との合併を目指す。隣接する旧・黒崎町との合併を昨年度に果たしているだけに、情報システムの統合は経験済み。合併に備えたIT化を考えながらも、今は県都・新潟市としての情報化に注力している。

 「現在は統合型GIS(地理情報システム)の構築を進めている。どんな形で市民に提供するかが課題」(本間寿晴・新潟市企画財政局企画部情報政策課課長補佐・IT企画係長)と、データの有効活用を模索している段階。電子申請については、「県での共通化の検討もあり、新潟市としての結論は出していない。県での検討の進み具合が気になる」(同)という。

 新潟県による電子申請などのフロントオフィス共同化の実現を期待しているのは、上越市の折橋修・企画部情報政策課長も同様だ。「電子申請について独自に考えていくとしたら、次のシステム更新のタイミングを待つことになる。しかし、財政難であり独自開発は現実的には不可能」。

 しかも、上越市は14市町村の合併を控え、情報システム統合をまず優先しなければならない。「データ量の多さで考えれば、合併でのシステム統合は基本的には上越市のシステムに編入・統合することになる」(折橋課長)と、システム統合に対する方針は決めている様子。上越市のシステムも富士通のメインフレームを使用しており、これについては「02年に更新したばかりなので、変更しない」(同)方針だ。

 上越地方は、距離的には新潟市より長野市が近い。そのため、周辺市町村の住民情報システムなどは長野市に本社のある電算が請け負っているところも多い。同社では02年4月に専任のシステムエンジニア(SE)を置く「市町村合併プロジェクト」を発足し、合併の本格化に合わせて増強してきた。そんな中、佐渡島の10市町村合併における情報システム統合は、電算が獲得した。

 合併して阿賀野市になる北蒲原地域では、「当社の顧客は1か所だけだったが受注できた」(黒坂則恭・電算専務)と語り、「長年にわたるサポートが評価されたのだろう」と、激しいシェア争いも、実績とIT企業に対する信頼性で勝ち負けが決まるとしている。

 電子自治体構築と合併で、自治体のIT化は大きく前進しつつある。その中でIT企業間の競争は、当分激しさを増していきそうだ。


◆地場システム販社の自治体戦略

ジャパンネット

■得意分野は固定資産税システム

 新潟駅南口の一帯は、普通の住宅地と商業地域で構成されているが、不思議とソフトウェア開発企業が多く立地している。その中の1社が、ソフトの受託開発を中心に事業展開しているジャパンネットだ。

 小川美輝男常務取締役は、「自治体システムも日立情報システムズから受託開発しているが、特に固定資産税のシステムでは評価が高い。東京都庁のシステム開発にも10人のシステムエンジニア(SE)を派遣している」という。もともと業務知識をもったSEがいたことで固定資産税システムの受託を開始したが、その結果として日立情報の自治体システム開発には不可欠なプレイヤーになった。

 自治体向け以外では、シャープからPOS(販売時点管理)システムなど流通向けのシステム開発を受託している。「流通のシステム化が進んでいることで、シャープからの引き合いも増えている」と語り、むしろ人手が足りなくなってきているという。

「これ以上、受注が増えても対応できなくなる可能性も出てきた」としており、Uターン組などの中途採用は常時行っている。しかし、東京都のシステム開発にまで参加するとなると、「せっかくUターンで新潟に帰ってきても、また東京に戻らなければならない。新入社員から文句がでるかも…」と冗談も出るのは、それだけビジネスの引き合いが多くなっているということだろう。
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