テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>13.牛トレーサビリティシステム(2)

2003/10/27 16:18

週刊BCN 2003年10月27日vol.1012掲載

 政府のe-Japan戦略IIで、ITの利活用を促進する先導的7分野の1つに盛り込まれた「食」の分野――。「トレーサビリティシステムの構築による豊かで安心できる食生活の実現」と掲げられた目標に向けて、12月から本格運用が始まる牛トレーサビリティシステムをどのように活用していくのか。牛トレーサシステムに対してこんな評価も聞かれる。「と畜場に搬入する時点で全ての牛にBSE(牛海綿状脳症)検査を実施しており、消費者もいちいち牛の個体識別番号をインターネットでチェックして買う人は少ないだろう」との意見だ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

飼養管理DBとも連携へ

 「トレーサシステムは、情報を伝達するための仕組み。これだけで安全が確保されるわけではない」――。牛肉以外の他の食品を含めたトレーサシステム全体を担当する富山武夫・農林水産省消費安全局消費安全政策課課長補佐もそう認める。つまり、食品の安全・衛生の問題が発生した時に原因を特定して対策を講じやすくすることと、消費者に安心感を与えることの2つが大きな目的。BSE検査や品質・衛生管理など具体的な安全対策を効果的に機能させるためのインフラなのである。

 農水省では、トレーサシステムに関する調査研究事業を99年度から開始していた。「先進的な取り組みをしていたフランスなどに調査団も派遣して、まず農作物を対象に導入準備を進めていた」(富山課長補佐)ところに01年9月、BSE問題が発生。補正予算で急きょ「家畜個体識別システム緊急整備事業」を措置、牛トレーサ制度を立ち上げるためにシステム開発と基盤整備に全力を注いできた。

 牛トレーサ制度の構築・運営がいかに大変であるかは、実務を担当する(独)家畜改良センターの取材で実感した。「牛の出生や異動の届け出件数が何件かと聞かれたときに、冗談半分で重さで答えると、みなさん驚きます」(個体識別部管理課の上田和幸氏)。1日の届け出件数は平均約2万5000頭分、うち農家からの大半がFAXを利用しており、1日約1万枚。重さで表現したくなるような量である。

 届け出は、FAXのほかに、音声応答システム、インターネットのウェブ入力、と畜場など大規模ユーザー向けにデータをまとめて送る方式と直接データを入力してもらう方法を多く用意したのだが、今年7月までの調査でウェブ入力の利用率はわずか1.7%、音声応答も0.4%に止まった。制度の早期立ち上げを優先したため、農家のIT化対応の遅れとのギャップが生じた結果といえる。

 一方で、制度の導入で大きく前進した部分もある。IT化の促進で最も重要な標準化では、これまで4種類もあった牛のID番号が「個体識別番号」に統一することができた。「と畜場などでは、きちんと届け出が行われていない牛は受け入れないという動きが出てきている」(上田氏)との変化も顕著だ。と畜場などの譲り受け側が届け出をきちんとされた牛かどうかを確認する手段としてインターネットによる個体識別番号の検索サービスを利用する動きも広がっている。

 (社)畜産改良事業団では、牛トレーサシステムと連携できる牛飼養管理データベースを構築する補助事業も進行中。「牛トレーサシステムで牛の戸籍が完成するわけで、品種改良への利用や、マーケティングデータとして経営管理に役立てることも可能だろう」(冨澤宗高・農水省生産局畜産部畜産振興課課長補佐)。インフラ完成を機に利活用に向けた検討も活発化しそうだ。
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