コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第50回 佐賀県

2003/11/03 20:29

週刊BCN 2003年11月03日vol.1013掲載

 面積・人口ともに全国で42番目と小規模な佐賀県は、小さいがゆえに電子自治体に関する取り組みを全県的に行っている。自治体の情報システムの共通基盤を全市町村で検討したり、民間レベルでも、自治体向けにインターネットデータセンター(IDC)を共同利用してもらう新会社が設立されるなど、方向性が定まると進展が早い。今年4月には、「地場産業の育成」を政策に掲げる総務省出身の古川康知事が就任。電子県庁に関連する事業で「地場IT企業」の活性化や雇用増につなげようという動きがさらに強まった。(谷畑良胤)

共通基盤のオープン化が進展、自治体向け民間IDCを共同利用
 新知事が「ローカル発注」を強化

■電子県庁システムを地場IT企業に発注

 佐賀県は2002年3月、県民や県内の企業がITの恩恵を享受できる「情報先進県さが」の実現に向け、「電子県庁基本計画書」と高速大容量のブロードバンド接続エリア拡大を目指す「新地域情報化推進計画」を策定した。国が「e-Japan戦略I」を策定した01年3月の半年後には県が産官学の検討委員会を設置するなど、隣県に比べIT化に向けた対応の迅速さが目立つ。

 この基本計画書では、電子県庁の運用開始を04年度と定め、02-03年度の2年間に制度整備を含めたシステム構築を進める。02年度には本庁・出先機関がネットワークに接続したパソコン約3800台を配備し、職員1人1台を実現した。

 今年度は、文書管理や電子決裁、申請・届出、県庁ポータルなどの電子県庁システム構築を巡り、全般的な詳細設計・開発・運用を、発注側の佐賀県が提示した仕様書に基づき最も有利な方法で落札者を決定する「総合評価一般入札」で今年7月、NTT西日本に一括発注した。

 04年度には、「県民や企業が自宅や職場からインターネットで各種申請・届出を行える『ワンストップサービス』が、一部を除き運用開始される予定」(迎出・佐賀県企画部地域・情報課参事)と、IT化の進捗状況に自信を示す。

 今回の発注は、佐賀県で初めて導入した7年間(03-09年度)の「複数年契約」だが、「地場IT企業を積極的に活用する」ことが条件で、従来の大手ITベンダーによる「1社囲い込み」とは違う。「NTT西日本と地場IT企業が一緒に開発・運用を進め、お互いの技術スキルアップを図れる」(迎参事)方式が導入されたのが特徴だ。

 電子県庁システムが一括発注になり、地場IT企業を活用する方向を提示できたのは、今年4月に就任した古川康知事の影響が大きい。6月13日、古川知事が04年3月までの限定で「ローカル発注に関する緊急措置」を講じたためだ。

 この措置では、IT関係について「随意契約が可能である場合、原則として県内IT企業に発注する。県内IT企業への単独発注が難しい案件は、県外と県内IT企業の共同企業体に発注する」と、隣県の福岡、長崎両県と同様に「地場IT企業育成」が明確になっている。

 現在、佐賀県で稼動している富士通製メインフレームは、電子県庁の進捗と同時に業務システムが許容量を超えるため、一部を小型サーバーなどへダウンサイジングする計画だ。

■全市町村で同じガイドライン活用

 佐賀県庁のIT化は、佐賀市を除く県内市町村をリードする形で進展している。同県でも総務省の方針に従って業務システムの共通化や共同運営の検討を開始し、まずは「電子県庁システム基本設計」の概要と設計書の一部を公表した。電子自治体を目指す県内市町村がシステム設計の参考にするほか、IT関連企業からは基本設計の内容に関して意見を集めている。

 10月末には、この基本設計をもとに、県内49全市町村が同じガイドラインでシステム構築ができるよう、全市町村の情報担当者でLGWAN(総合行政ネットワーク)の利用を検討する「総合行政ネットワーク運用連絡協議会」で、全体の最適化を進める「共通基盤システム」に関する協議を開始。来年3月までに結論を出す。

 同協議会では、佐賀市が基幹システムや情報系システムにLinuxやUNIXなどのオープンソースを採用することを検討しているため、市町村の共通基盤がオープンプラットフォームに統一する可能性は高い。10月9日には、これら共通基盤やLGWANなど県内の行政システムの「受け皿」として、LGWANや行政手続きなどがオンラインで行える電子自治体の実現を支援する目的で、佐賀電算センターなど県内の22社・組合の民間IT企業が共同出資した「佐賀IDC」が設立された。「県内のほとんどの市町村は、地場IT企業がほぼ集結した佐賀IDCに、LGWANの利用やシステム運営などを発注することになるだろう」(迎参事)という。

 一方、その佐賀市では、昨年10月に策定した04年度までの「佐賀市IT推進計画」が進行中だ。「IT化の進展は早いので、5年先を見通した計画は立てられず、3年ごとに見直しを図る」(松尾邦彦・佐賀市情報政策課IT推進係長)方針だ。

 佐賀市の電子自治体に関する取り組みは、97年度の庁内光無線LAN構築を手始めに、99年度のグループウェア導入、今年度の1人1台のパソコン整備とウェブ版「新財務会計システム」導入――など、九州圏での進捗度合いはトップクラスだ。同市では「全国の市町村では数少ない、基幹システム(住民情報や税情報など)をウェブ化する計画」(松尾係長)と将来を語る。

 佐賀市の同推進計画では、市民生活や産業発展の情報化に関する数値目標や施策も盛り込まれ、世帯あたりのインターネット普及率50%を目指すほか、佐賀大学と連携して新しいIT産業の創出を支援する「インキュベートルーム」が設置されている。

 佐賀県内の情報インフラは、全国トップクラスの普及率を誇るケーブルテレビ(CATV)や産官学が連携した「ネットコムさが」により、ADSLと合わせて全世帯の7割でブロードバンド接続が可能となる見込みにあるが、今後4年間でさらに世帯カバー率を90%まで高めるとしている。

 佐賀県は昨年度から今年度までの2年間で、国土交通省が設置した情報ボックスを活用し、光ファイバー網による県内大容量幹線網の整備を行い、県内の高速インターネット網を整備する。面積・人口とも全国で42番目と小さい県だが、「逆に諸施策を講じる上で好都合」(古川知事)のようで、他県にはない柔軟な電子自治体の路線が築けそうだ。


◆地場システム販社の自治体戦略

佐賀電算センター

■電子自治体目指し「佐賀IDC」設立

 パソコンを使った受託計算や販売などを手掛ける佐賀県内最大のシステムインテグレータ、佐賀電算センターは10月9日、県庁の「地場IT企業育成」の方針を受け、同社を中心に県内IT企業22社・組合が共同出資する「佐賀IDC」を設立した。

 「県内の電子自治体実現を支援する共同体として、地域活性化と雇用創出を図る」(菰田秀三・取締役情報システム事業本部長)と、新展開に期待する。

 佐賀市内のNTTコムウェア内にインターネットデータセンター(IDC)などを設置し、当面は県庁と同IDCを光ファイバー網で結び、来春から電子県庁や県内市町村が進めるLGWAN、共通基盤整備などのシステム運用を視野に入れる。

 浅川達夫・専務取締役は、「設備や技術者の共同化ができ、各市町村が単独で電子自治体に取り組むより、佐賀IDCに委託した方がコスト低減になる」と話す。

 今後は、オープン化が進む県内自治体の動きを受け、地場IT企業にいるSE(システムエンジニア)の技術力向上にも佐賀IDCが力を注ぐ方針だ。

 佐賀電算センターは、自治体向けではこのほか、オリジナルのパッケージソフトとして、身体障害者手帳発行管理を13道府県に納入している。また、企業向けを含め県庁や農協などにグループウェア「Web Walker's(ウェブ・ウォーカーズ)」を導入するなどの実績がある。企業向けでも「中堅企業のシステム構築に力を入れる」(浅川専務)と、成功事例の積み上げを図り、業績を伸ばしていく計画だ。
  • 1