OVER VIEW

<OVER VIEW>変革へのターニングポイント迎えた、世界ハイテク産業 Chapter3

2004/02/16 16:18

週刊BCN 2004年02月16日vol.1027掲載

 世界ハイテクセクターでのデジタルコンバージェンスが強い流れだと認識した米国有力ITベンダーは、いっせいにAV(音響・映像)市場へ雪崩れ込んだ。デジタルAVは成熟期に向かっているITに代わって急速に市場を拡大すると期待しているからだ。米国ハイテクでは既に有力AVベンダーはすべて退出しており、わが国とは全く異なるIT主導の業界構造となっている。ITベンダーによるAVへの積極参入に伴って、米国の多くのソリューションプロバイダもホームネットワーク市場へ大きな期待を抱く。わが国の当市場はAVベンダーが狙う市場だろう。(中野英嗣)

米国ITベンダー、AV市場へ雪崩れ込む

■AVセクターへ、米ITベンダーが雪崩れ込む

 米国ハイテク産業はこれまでITセクターでデファクトスタンダードを発信し続け、IBMを代表とするエンタープライズシステムから、マイクロソフト、インテル、デルなどのパソコンベンダーも世界市場を席巻し続けてきた。ITセクターが基盤技術から利用技術へと主導権が変わっても、IBM、デルなどの強さが一層目立つ。

photo しかし、AVセクターでは、米国がコンシューマエレクトロニクス商品で世界を牽引する母体はない。既に米国AVでは米国有力ベンダーは存在しない。そこではソニー、松下電器産業など国産勢、韓国サムスン電子、欧州のフィリップス、トムソンが大半の市場を獲得してしまった。しかし、米国ITベンダーは、デジタルコンバージェンスによって、ITの基幹技術がAVでも共用されることを知ると、雪崩の如くAV市場へ進出してきた。

 当初AVへ参入したのはゲートウェイ、デルなどに代表されるパソコンベンダーで、まず薄型液晶テレビを次々と発表した。さらにテレビ分野へはHP、モトローラが参入した。そして2004年1月ラスベガスで開催されたCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)では、インテル、マイクロソフトのWintel陣営も、それぞれ得意とする半導体、ソフトでAV市場へ進出した(Figure13)。

 IBMもこれまで日本のシャープ、三菱電機、ソニー、東芝などとAV、携帯機器向け半導体開発だけを行っていたが、得意のデータベースソフトをテレビ向けに改良し、ソニーなどへ提供することを発表し、米国有力ITベンダーがAVセクターに勢揃いした。これはいわゆるITとAVの業界垣根の低くなるコンバージェンス(融合)現象である。

photo わが国には世界を相手とする巨大AVベンダー群勢が存在するため、国内ITベンダーはデジタルAV市場には静観の構えだ。また、わが国の松下電器、ソニーなど有力AVベンダーはすべて、自社AV用半導体、OSまでを自社あるいは企業連合で開発する典型的垂直統合型企業だ。これに対し、パソコンからAVへ参入したデル、ゲートウェイ、HPなどはすべて液晶テレビをまずOEM(相手先ブランドによる生産)調達してテレビ市場へ参入した。

 これらパソコン母体のベンダーは次の段階でパソコンと同じく、部品を第三者から調達して製品を組み立てる水平分散型ベンダーとしてAV市場でのシェア獲得へ向かうのは間違いない。こうしてAVセクターでも初めて垂直結合型と水平分散型企業の競合が始まる(Figure14)。

 デジタルコンバージェンスによって、AV業界構造も変化しつつある。

■米国ソリューションプロバイダも、ホーム市場に大きな期待

 米国ITセクターでAV市場へ参入するのは、有力ベンダー群だけではない。これまで主としてSMB(中堅・小企業)を対象としてきた数多くのソリューションプロバイダ(SP)もホームデジタルネットワーク市場へ大きな期待を抱き、既に多くのSPがホーム市場でのネットワーク構築事業に着手している。

photo ホームのサービス事業はSMBに比べても1件当たりの単価は極めて低い。ウォールストリートのアナリスト、モルガン・スタンレーのレベッカ・ランクル氏は、「ホームでのSP事業のビジネス単価はAV機器を除くと一世帯当たり、1000-5000ドル(12-60万円)だ。しかし、米国世帯数は1億以上で、そのうち半数の5000万は、近いうちにホームネットワーク市場になる」と分析する。

 5000万世帯のサービス市場規模は上記単価で計算すると500億-2500億ドル(6兆-28兆円)と巨額だ。この数でこなすホーム市場に対し、米国SPの約60%は急速あるいは緩やかな市場の立ち上がりを期待している(Figure15)。

 米国調査会社によると、既に全米世帯の13%が何らかのホームネットワークを保有しており、これが今後4年間で倍の26%まで膨らむと予測されている(Figure16)。

photo ホームネットワークに組み込まれるのは、パソコンから各種デジタルAVや携帯機器、そして新しいAVサーバーも大きな需要が生まれる。米国SP経営者の多くは、米国ITベンダーがAV機器を生産し始めると、その販売ルートとして従来のITチャネルを利用するようになると期待する。そうなるとSPがホームビジネスを展開する際の金額は、サービスだけの数倍になることも予想され、SPのAVへの期待はさらに大きくなる。

 わが国のSPはまだホームAVへの動きを見せない。それは現在ITで取り引きしているベンダーが、AVを静観しているからであろう。むしろわが国では、IBM型のサービスを重視する有力AVベンダーが既存チャネルを利用してホームサービスへ進出する可能性が高い。松下電器が家庭設備に強い松下電工を子会社化するのもホームネットワーク市場を手中にする狙いがあると見られている。

■有力パソコンベンダーを足がかりに、AVもWintelが席巻を狙う

 米国ITベンダーで総合的見地からAV市場への参入を表明しているのは、パソコン市場を席巻したWintelの2社だ(Figure17、18)。

 これは、両社とも世界のパソコン市場の今後の大きな成長は期待できないと考えているからだ。このWintelの動きを警戒するのは、わが国の有力AVベンダー群だ。Wintelにパソコン同様にAVの主要構成部品を握られては、今後の利益に大きく影響するからだ。インテルはパソコンのコストパフォーマンスを劇的に下げ続けてきた「ムーアの法則」をAV市場へ持ち込むとの意気込みを見せる。インテルのポール・オテリーニ社長は「AV機器価格はここ10-15年、大きな価格低下を見せなかった」という。当面Wintelが狙うのは、パソコン同様の水平分散型でAV市場へ参入するデルなどの有力米国パソコンベンダーであろう。

 わが国パソコンベンダーは直接的にAV市場へは参入しない。しかし、国内ベンダーはITとAVの境界両域にある高付加価値のAVパソコンに注力しており、ここでのWintelとの絆は維持される。わが国専業AVベンダーはマイクロソフトと一定の距離を保つ。松下とソニーの強者がAV向けLinuxを共同開発したのも、その1つの証だ。

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