情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第11回 広島県広島市 地域ITリーダーの育成も

2004/07/19 20:43

週刊BCN 2004年07月19日vol.1048掲載

 広島県広島市が市民のIT活用を積極的に進めている。2003年2月の市長選挙では、安芸区で全国で2番目となる電子投票を実施。これにより、投票率がアップしたことに加え、選挙管理委員会がIT化への啓発活動を実施する計画を立てるなど、行政IT化の旗振り役である企画総務局情報政策課以外の職員もIT化への取り組みに前向きになるケースも出てきている。また、地域ITリーダーを育成することで高齢者などのパソコン初心者が安心してパソコンスキルが身に付く環境を整えている。(佐相彰彦)

市民のIT活用に積極的 活性化に向けた施策を実施

■市長選で電子投票を実施

 03年2月2日、広島市は市長選挙で全国で岡山県新見市に次いで2番目、政令指令都市では初となる電子投票による投・開票を安芸区で実施した。17投票所に100台の電子投票機を設置。有権者数は5万8748人だった。

 投票率は、安芸区が52・52%と市平均の44・94%に対し7・58ポイントを上回る結果だった。前回の市長選での安芸区の投票率49・85%に対しても2・67ポイント上昇した。さらに、総務省が実施した郵送によるアンケートの回答では、「電子投票を知っていた」が97・6%で、「電子投票だから当日投票所で投票した」が13・6%だったという。電子投票の導入が投票率向上の要因になったといえるだろう。

 年代別では、50歳代の投票率が若干下がったものの、20歳代で投票率が大幅に高まったという。障害者向けの点字・代理投票では、前回が15票だったのに対し、音声案内による点字・代理投票により38票と2倍以上になった。広島市選挙管理委員会では、「電子投票は、障害者や高齢者に適したシステムであることを表しているのではないか」とみている。

 広島市企画総務局情報政策課でも、電子投票が市全体のIT化を図っていくうえで効果的な取り組みだったことを強調している。志賀賢治・広島市企画総務局情報政策課情報政策担当部長・情報政策課長は、「電子投票が市民のIT化に対して懸念を抱く材料を払拭するきっかけになったのではないか」と話す。加えて、「選挙管理委員会もIT化は利便性が高いことを認識しただろう」という。

 電子投票により開票作業の所要時間は大幅に減少した。通常、平均で1時間半程度かかっていた開票が、電子投票で44分と半分程度に短縮された。しかも、分類・集計の必要がないことから、開票所職員を51人削減して33人にした。そのうち、電子投票の開票を行った職員数は専属で2人、不在者投票分との兼任で5人、合わせて7人と大きな効果が出たという。

 「選挙管理委員会では、電子自治体実現に向け、積極的な態度を示すようになった」と、志賀情報政策担当部長は庁内での波及効果も上々だという。地方自治体がIT化を図るうえで壁となってくるのが、情報政策課などIT化を担当する組織と、ほかの組織との確執。「庁内の職員すべてが、利便性のあるサービスを市民に提供したいと考えることが電子自治体実現の近道になる」と言い切る。

■市民のスキルアップ環境を整備

 広島市が電子自治体の実現に向けて掲げているコンセプトは、「市民が使いこなせなければ最適なサービスではない」ということ。そこで、「市民がサービスを使いこなせるような環境を整えていく」と、02年度から「地域ITリーダー育成講習会」を1年に2回程度開催している。

 この講習会は、市民の情報リテラシー向上を支援するためのもの。地域住民のIT実践をサポートしたり、地域の情報化を推進していく市民「地域ITリーダー」の育成をする。20歳以上の市民でパソコンの基礎的なスキルがあれば講習会に参加できる。講習内容は、インストラクション技術の習得をはじめ、「地域活動における情報化」についてのグループディスカッション、パソコンのハードウェアおよびソフトウェアの技術習得など、30講座数を用意した。

 応募者が多ければ抽選で受講者を決定する。過去2年間の倍率は、02年度が218人の募集に対し約4倍、03年度が300人に対し1.3倍だったという。今年度は300人を募集する予定。3年間で818人の地域ITリーダーが誕生する。

 志賀情報政策担当部長は、「地域ITリーダーが中心になって、市民のIT実践のサポート役として自治会や商店街、各サークルなどで情報化に向けた自主的な活動を行っている」と、市民全体のITスキル向上を図っていくという。

 市のサイトでは、地域ITリーダー間の意見交換や活動状況の紹介の場として「地域ITリーダー活動広場」を開設。活動紹介のコーナーでは、地域ITリーダーが高齢者向けにITを教えるボランティアを設立したことや講習会の実施などの情報が発信されている。

 志賀情報政策担当部長は、「広島市は、全国地方自治体のなかでワースト5以内に入るほど財政が厳しい。少ないIT予算で市民が確実に利用するサービスを提供しなければならない」と、なけなしの予算を効果的に活用する方法に頭を悩ましている。

 情報政策課以外の職員を含め、市全体がITを積極的に活用するという気運が高まらなければ、「予算の無駄遣い」という批判を市民から受ける可能性も出てくる。そのため、市民のスキルアップ向上が最適なITサービスの提供につながる。
  • 1