テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>51.e-文書イニシアティブ(下)

2004/08/02 16:18

週刊BCN 2004年08月02日vol.1050掲載

 政府が来年4月の施行をめざして準備を進めているe-文書法──。法令によって保存が義務付けられている紙の書類を電子保存できるようにするのが狙いだが、企業活動などの検査・監査を行ううえで重要な証拠となってきた紙の書類を電子保存しても大丈夫なのだろうか。(ジャーナリスト 千葉利宏)

内部統制の確保が課題

 現代社会では、スーパーで買い物しても病院にかかっても、代金を支払えば必ず紙のレシートや領収書が発行される。年末に医療費控除を申告しようとすれば、1年分の領収書を集めて税務署に提出しなければならず、非常に面倒だ。もし電子決済時のデータをICカードなどに記録・保存して電子領収書として利用できれば、紙の領収書を発行する必要がなくなる。そのデータを使えば帳簿や家計簿も自動的に作成でき、電子申告でもデータの添付が簡単になる。そんな本格的な電子商取引社会を実現するためには、まず既存の紙の書類を電子保存して問題ないような制度や仕組みを構築することが第1歩であるだろう。

 「企業などが作成する文書・帳票の電子化はIT社会のサービスレベル向上に貢献するものであり、われわれとしても賛同できる」。日本公認会計士協会の増田宏一副会長はe-文書法制定の動きを評価する一方で、監査する立場から文書・帳票の電子化における課題も指摘する。同協会では鈴木昌治常務理事を中心にe-文書法に関する意見書を作成し4月に金融庁に提出した。そのなかで、(1)紙媒体そのものが偽造でないことの確認方法、(2)電子文書と紙媒体の同一性を保証するため公証役場のような役割の必要性、(3)電子証明書の有効期間(1-3年)を超えた場合の保証の確保、(4)電子媒体が長期間変質せず、変更記録も必ず残るようにするための方策、(5)電子文書で使用したハード・ソフトが提供されなくなった場合の対処法──などの課題を慎重に検討することを求めた。


 「紙であろうと、電子であろうと、監査証拠の真実性が確保できていれば問題はない」(中山清美・日本公認会計士協会IT委員会副委員長)。しかし、紙が電子に変わると真実性を確保するための方法も変わらざるを得ないという。紙の書類では偽造や改ざんは手間や労力もかかるし、見破るノウハウも蓄積されている。コンピュータを使うと、一部のデータをあとから改ざんしても帳簿全体のデータを簡単に更新でき、データの偽造を見破るのも難しくなる。紙では書類そのものの真実性の確保が重要だったが、電子ではデータへのアクセス権限の管理など内部統制による真実性の確保がより重要になってくる。

 すでに98年からは電子帳簿保存法も施行されているわけだが、「実際に法律を適用できる企業は限られており、法の施行後しばらくは監査する場合も帳簿を紙に打ち出しているケースがほとんど」(中山副委員長)。実際のところ、企業などが内部統制やセキュリティを含めて電子帳簿に対応できる体制を構築することは容易なことではないようだ。さらに他社が発行した請求書や領収書などの書類まで電子化されるようになると、取引先企業の内部統制やセキュリティがきちんと確保できているのかどうか、といった問題まで生じかねない。

 日本経団連では先月、政府のe-文書法に関する方針を歓迎するコメントを発表、「今後、検討される技術的要件等については、多くの企業が広く活用できる内容となるよう、配慮してほしい」と要望した。それを実現するには、カラースキャナなどの技術的要件だけでなく、本格的な電子商取引社会に向けて電子証明書、タイムスタンプ、電子公証制度、さらにはICカードや電子タグのデータ記録・保管の要件などの制度や仕組みについても議論を深める必要がありそうだ。
  • 1