情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第42回 青森県八戸市(上) 市町村数で揺れた合併協議

2005/03/07 20:43

週刊BCN 2005年03月07日vol.1079掲載

 青森県八戸市の情報システム政策は、この2年あまり大きく揺れ動いた。2002年夏頃には、市町村合併に伴う情報システムの在り方の検討に着手したが、合併協議が進むにつれて合併自治体数が大きく変動。一時は8市町村からなる大型合併への動きもあったが、最終的には2市村にとどまった。だが、早くから合併対応を進めてきたことが功を奏し、情報システム面に関する大きな混乱は避けられる見通しだ。(安藤章司)

システム統合はスムーズに 八戸市への「片寄せ方式」が奏功

■最終的に2市村の合併へ

 八戸市とその周辺町村の合併を巡っては紆余曲折があった。2001年7月、まず、八戸市と周辺3町村による任意の合併協議会がスタートした。翌02年4月、周辺3町が協議会に加わり、計7市町村からなる「八戸地域合併検討協議会」が発足。この年の夏頃に情報システム面での検討が始まり、情報システムをどのように統合したら最も低コストで効率の良い統合が可能なのかについて議論を重ねた。

 03年4月、さらに1村が加わり計8市町村で法定協議会の立ち上げに漕ぎ着けた。この直後、情報システムの統合方式を、八戸市のシステムに一本化するという合意形成がほぼできあがった。八戸市の人口が約24万人なのに対して、周辺7町村の人口を合わせても5万人余りと少なかったことから、八戸市のシステムに集約することは自然の成り行きだ。

 実は、この合意が取り付けてあったため、その後の合併自治体数の変化に「情報システムが柔軟に対応できる基盤が整った」(玉田政光・八戸市総務部情報政策課副理事兼課長)と打ち明ける。

 8市町村での合併期日の目標は05年1月1日とされたことから、八戸市の情報政策課は、延期できるプロジェクトは極力先送りにして、合併日に照準を絞った情報システムの統合に作業を集中した。

 八戸市の住民基本台帳や税務に関するシステムは、富士通のメインフレームを使っている。合併を無事に終わらせるため、このメインフレームを基本とした骨組みには手を加えず、7町村のシステムを吸収するための機能拡張のみ手を加えることにした。屋台骨には手を加えず、変更箇所も極力少なくすることで、不具合発生のリスク軽減に努めたわけだ。

 04年1月、いよいよ情報システムの具体的な統合作業に着手した。しかし、八戸市のメインフレームの機能を拡張し、7町村の受け入れ準備を始めた矢先に、合併協議会の雲行きが怪しくなってきた。04年4月、八戸市を除く7町村のなかで最も人口が多い階上町が協議会からの離脱を表明。6月には合併協議会そのものも解散に追い込まれた。情報システムの統合作業は、合併協議が難航する影響を受けて大きく揺れ動いた。

 結局、8市町村からなる大型合併はなくなり、04年9月、八戸市と隣村の南郷村だけで合併する方向で法定合併協議会を設置した。合併期日は、当初、目標としていた05年1月1日から3か月延期し、3月31日に決めた。

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■工数の減少で費用軽減

 01年、4市町村から始まった合併協議は、最大で8市町村に増えたものの、最終的には2市村に落ち着いた。この間、情報システム部門は、先の見えにくい合併協議の影響は受けたものの、「合併する自治体数や期日が変わっても致命的なダメージは受けなかった」(池田和彦・八戸市総務部情報政策課主幹)と、通常ならば大混乱に陥っても不思議ではない厳しい状況のなかで、落ち着いて着実に作業を進めることができたと話す。

 合併する自治体数の変更が情報システムの統合に及ぼす影響を最小限に食い止めた背景には、03年4月、周辺7町村の情報システムを八戸市のシステムへ組み入れる「片寄せ方式」の合意を早くから取り付けていたことが挙げられる。もし、8市町村で新しいシステムを構築する方式などの別方式を選択肢として残していたとすれば、合併協議の影響を直接的に受けていた可能性もあった。

 今回の片寄せ方式では、大きく分けて、八戸市の情報システムに合併する周辺7町村のシステムを受け入れる「受け皿」となる基盤を整備する作業と、周辺7町村のデータを八戸市のシステムへ移行させる「データ移行」の作業の2つからなる。

 八戸市の情報システムに他の町村のシステムを受け入れる基盤さえ整えば、あとはデータを移行する作業だけで統合が完了する仕組みだ。合併する自治体数の変更について、当初から想定していたわけではないものの、結果的に片寄せ方式の合意を早い段階で形成していたことが低コストでスムーズなシステム統合を後押しした。

 合併に伴う情報システム関連の費用は、8市町村での合併で約11億8000万円とシステムベンダーからの見積りが来ていた。ここから八戸市で独自の査定をして、適正価格を下げる方向で交渉する予定だった。だが、合併自治体数が減少したため査定を一時中断。最終的に2市村での合併が固まった段階で、改めて査定した結果、今年度下期(04年10月-05年3月)の関連予算ベースで6億5000万円に減らすことができた。合併自治体数が減り、データ移行の作業工数が大幅に減少したことが費用削減の要因だ。

 「これまで、片寄せ方式の大きな方針は揺らいだことはなく、着実に統合に向けた作業を実施できた。データ移行は緊張する作業だが、ミスのないよう確実に行う」(玉田副理事兼課長)と、3月31日の合併期日に向けて、着々と詰めの準備を進める。
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