コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第25回 宮城県(1)

2005/10/03 20:42

週刊BCN 2005年10月03日vol.1107掲載

 宮城県の情報関連産業の地盤沈下を食い止めようと様々な取り組みが始まっている。宮城県情報産業振興室が中心になって県の産業振興の立場からの支援や産官学コンソーシアムによる新技術への対応、さらに企業連携によるスキルアップや需要開拓などの活動だ。宮城県や仙台市といった「官」、東北大学を中心とした「学」、そして地元システムインテグレータ(SI)など「産」の各ポジションで、情報産業の活力減退に対する危機感は共通だ。情報サービスにタッチするSIは、こうした連携に参加しながらも、自ら生き残りの道を模索している。(光と影PART IX・特別取材班)

共同事業や産学官連携に加え 自助努力で生き残り図る

■“e-みやぎ”フェアに100社・団体が出展

photo 9月22日。仙台市・榴ヶ岡の仙台サンプラザホールで日本情報振興協同組合(Jia)東北支部や宮城県情報サービス産業協会(MISA)の主催により、「Jiaビジネスフェア2005in東北─拓け“e-みやぎ”フェア2005」が開催された。出展者は100社・団体を数え、展示だけでなく学生向けの会社説明会、セミナーなどが開かれた。MISAでは、当日の参加者を2000人と見込んでいたが、その予想を上回るほどの混雑だった。

 会場に活気が溢れているのは、情報関連産業の「なんとか浮上のきっかけをつかみたい」という熱意のためだろう。宮城県の情報サービス産業の売上高は2000年が1287億円だったのに対し、01年は1223億円に減少。02年に1370億円に拡大したものの、03年、04年と続けてマイナス成長。04年は1135億円にまで落ち込んだ。こうした状況を招いた理由に、下請けビジネスへの依存度が高いため発注額の抑制が影響したことに加え、財政難による自治体案件の金額ダウン、地域の需要減少など多面的な要因が挙げられる。

photo 江幡正彰・アート・システム社長らが中心になって01年10月に6社共同出資で発足したハイパー・ソリューション。企業の大規模システム案件の受注や、それまでは参画できなかった自治体プロジェクトなどを獲得することを目的に、各社のスキルを持ち寄り、あるいは一緒になって技術力を高めることで着実に成果をあげ始めた。当初6社の共同出資でスタートしたが、02年11月には第3者割当増資の実施により18社が構成メンバーとなった。そして、今年1月にさらに2社が加わり、技術連携など関係する企業は25社となっている。

 昨年度は、富士通とジョイントして宮城県の電子申請システムなど基幹系システムのリプレースに参加。さらに、仙台市の財務会計システムの更新案件にも日立製作所との連携で参加した。「確実にスキルが高まり、大きな案件にも参加できるようになった。なんとか地域のSIにとって浮上のきっかけを作りたい」とハイパー・ソリューション社長である江アート・システム社長は力を込める。「私たちのような現役の社長の次の世代に引き継ぐためにも、宮城県の情報サービス産業の基盤を引き上げなければならない」。

 東北ITクラスター・イニシアチブ(TIC)で幹事会をとりまとめる荒井秀和・サイエンティア社長は、同社の売上高の60%が東京中心であるにもかかわらず仙台市にこだわる。「ここには応援してくれる人もいる。東北だからというデメリットは感じない」と語る。国立大学向けの人事・給与システムで事業を拡大し、官公庁向けにも進出。全国的な大手民間企業向けに人材開発システムまで納入しているが、「本社を東京に移すことは考えていない」とキッパリ。ただ、「ソフト産業の“地産地消”という考えを否定はしないが、内向きな発想だと思う」という考えも持っている。宮城、福島、山形の南東北3県のSIなどで構成するTICも、全国を向いた活動というわけだ。「下請けがすべて悪いわけではない。戦略的な下請けだってある」というのも、そうした背景があるからだろう。

■宮城県外や全国規模での顧客獲得も

 9月になって宮城県内のあるSIが倒産した。県内の自治体システム案件で実質的な開発業務を請け負っていたが、その開発業務の停滞から多額の売掛金が発生。これが経営を圧迫した結果と報道された。その小さなニュース記事を見ながら、宮城県情報サービス産業協会(MISA)会長を務める地元のNEC系SIであるテクノ・マインドの龍田勝利会長は、「いつかこういうことが起きると思っていた」とため息をついた。倒産した企業はかつてMISAの会員企業だったが、今では脱会しているという。「無理をして荷が重いプロジェクト獲得に走る企業は少なくない。プロジェクトマネジメントがしっかりしていればこうした事態にはならないが…」と危機意識は強い。

 テクノ・マインドはNECの出資を35%受けている。NEC系というわけだが、「富士通関連のビジネスもあるし、NECばかりに依存しているわけではない」(龍田会長)と、経営基盤安定のために“系列外”のビジネスにも積極的だ。また、手がける自治体案件に関しても宮城県内だけではなく、「県内の北部よりは山形市の方が時間的にははるかに近い」ことから、山形県などの公共ビジネスも獲得している。「山形県のSIもビジネスチャンスの多い仙台市に進出しているから」と“おあいこ”とばかりに笑って言う。

 東北6県に加え新潟県もテリトリーとしている東北電力。子会社で情報システムを担当する東北インフォメーション・システムズ(TOINX)は01年7月、東北電力傘下の東北コンピュータ・サービス、東北情報ネットワークサービス、東北オー・エー・サービスの3社が合併して発足した。売り上げの75%は親会社向けだが、「東北電力向け以外のビジネスの拡大が必要」(白根澤克行・取締役ビジネス・ソリューション本部本部長)と、大阪商工会議所向けにASP(アプリケーションの期間貸し)サービスで電子契約・文書管理システムを提供するなど、顧客を全国規模で広げている。「そのために大阪事務所を開いて常駐社員を置いている。周辺の商工会議所にも顧客を広げていきたい」としている。しかし、東北電力というバックの存在は小さくない。新潟県の土木関連システムを受注したのも、親会社のテリトリーということとは無縁ではないだろう。また、「全国の電力系情報システム子会社の連絡会がある」ことは、情報収集や連携などの面でも有利に働いているようだ。
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