コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第26回 宮城県(2)

2005/10/10 20:42

週刊BCN 2005年10月10日vol.1108掲載

 宮城県が今熱心に取り組んでいるのがIT産業の誘致と育成。2003年度、企画部に情報産業振興室が設置されてから、これまでに約20億円の予算を情報産業のために投下してきた。このうち約17億円がコールセンターを中心としたIT企業の誘致に充当され、地場IT産業育成には3億円が活用された。しかし、06年度からはITに「真水の投資をする」方針を固めており、宮城県内のシステムインテグレータ(SI)をはじめとした地域のIT産業育成が本格化することになる。(光と影PART IX・特別取材班)

IT産業誘致に県も予算充当 06年度からはITに「真水の投資」へ

■コールセンターを積極的に誘致

photo 宮城県企画部情報産業振興室は、03年9月に「宮城県緊急経済産業再生戦略」を策定し、観光や農林をはじめ、新産業振興など各課を挙げて県内の産業振興を目指した時に生まれた。伊藤和彦室長は、「特定のミッションを持ったセクションと考えている。ニーズを把握し、どのように市場開拓できるか県内のIT産業の意見を聞きながら、情報産業の振興を図っていく」と、役目の重さを語る。宮城県以外にも、経済活性化のための産業振興を図る担当部署は存在するが、明確にITを切り出す例は多くはない。「第1次産業や第2次産業に投資するよりは、情報産業の方が今後の成長に対する期待も大きく投資効果も高い」と、伊藤室長は宮城県の経済活性化にはIT産業育成は欠かせないと語る。

 これまで投資の中心になってきたのが、コールセンターの誘致。ボーダフォンの東日本地区を担当するコールセンターをはじめ、外資系大手保険会社、IT関連では横河キューアンドエーも仙台市にコールセンターを置く。1年間で10社以上の誘致に成功し、3000人の雇用を生み出した。そればかりではない。コールセンター効果により、仙台市の北隣にある富谷町は地方交付税の不交付団体になったほどだ。

 「情報関連企業立地プロジェクト」として進められているコールセンターの誘致活動は、04年度の誘致企業に対するインセンティブに充てられた予算が1億3000万円で、今年度は6億5300万円に拡大した。そのほかにも、オペレータ養成のセミナーに04年度2600万円、今年度も2600万円を充当。情報通信関連企業立地促進奨励金制度では04年度1億3000万円、今年度は若干圧縮されて1億1000万円を投資する。

 手厚い誘致政策だが、コールセンター誘致を進めているのは宮城県ばかりではない。福岡県や札幌市、沖縄県もコールセンター誘致に熱心な地域だ。コールセンター誘致が好調に進んだ理由として、伊藤室長は行政の施策以外にも、「東京に近いということが大きい」と距離的なメリットを第1に挙げる。「コールセンターを持ってきてもトレーニングなどで東京から出張の必要がある。近ければそれだけコストを抑えられる」(伊藤室長)ことが企業の目を向けたと見ている。

 コールセンター誘致に集中してきたが、その政策も「来年度は拡大しない」という。コールセンターが来れば、そこに雇用が生まれる。進出する企業が増えれば、経験者の引き抜きなど雇用の流動性も出てくる。安定して雇用を拡大できれば、後は企業間の競争原理に任せれば良いという考えだ。コールセンター誘致は雇用を生み出すことになったが、IT産業の活性化のために必要な波及効果は大きくない。これからは、ソフト開発をはじめとしたIT産業の振興に役立てるための「真水の予算」を拡充する方針。ただし、「財政状況は厳しいので、効率的な予算投下が必要」というのは宮城県も他の地域と同様だ。

 有力な地場のIT企業を育成するために、やはり産学官連携などを模索している。仙台市にあるSIやソフト開発企業でも全国区で活躍する企業は少なくない。さらに宮城、福島、山形の南東北3県の企業が連携して発足した東北ITクラスター・イニシアチブ(TIC)のように有力な企業連携も出てきており、波及効果を狙ったIT産業支援策が本格的に動き出しそうだ。

■健康福祉分野で産業育成も

 一方、仙台市がITを活用した産業育成を図ることを狙っているのが健康福祉分野。高齢者介護の施設とそのための技術開発、インキュベーションのための施設を設置した特異なケースだ。仙台市とフィンランド政府の提携により、健康福祉分野の充実を目的とした「フィンランド健康福祉センター推進協議会」が02年4月に発足。今年3月、特別養護老人ホーム「せんだんの館Terve(テルベ)」とそれに隣接する研究開発館がオープンした。ITを活用した健康福祉機器や介護システムなどを開発する企業を入居させるためのインキュベーション施設である研究開発館には、入居企業のプロジェクト進行管理などを助言するビジネス開発ディレクターとしてフィンランド人1人とソニー出身の日本人技術者2人が配置されている。ソニーのような大手IT関連企業出身者が選ばれたのは、「海外企業との連携などの経験が豊富で、ビジネスアイデアに敏感なこと」(小松淳・仙台市産業振興事業団情報・健康福祉産業部長)という。これからの高齢化社会を見据えて、IT活用をメインに据えた企業育成の体制を整えた。

 IT産業の地盤沈下が言われる東北地方だが、宮城県には明るい話題も出ている。IT産業育成とともに、IT産業関係者の間でも「明るい材料」といわれるのが、東北楽天ゴールデンイーグルスの仙台進出だ。1年目の今年は、ダントツの最下位となってしまったが、「楽天もIT関連産業。進出してきたことで少なくとも仙台や東北地方に目が向くようになった」という効果は、企業誘致やビジネス獲得に少しはプラスになっているようだ。
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