コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第27回 山形県

2005/10/17 20:42

週刊BCN 2005年10月17日vol.1109掲載

 経済産業省の特定サービス産業実態調査(速報値)によると、山形県の情報サービス産業の年間売上高は2004年が105億1400万円と全国43位。山形県より売上規模が小さいのは島根、和歌山、奈良と佐賀の4県だけ。そして1人当たりの年間売上高は1052万円と、山形県が最下位。「地元企業向け案件は少ない。自治体向けは県外大手が持って行く」(山形県関係者)という状況では、地元のシステムインテグレータ(SI)が順調に事業を伸ばすような環境は到底望めない。どのように地元SI、ソフト開発企業を成長させるか官民挙げて重い課題に取り組んでいる。(光と影PART IX・特別取材班)

1人あたり年間売上高が全国最下位 企業力アップに地元各社立ち上がる

■県外へ流出する自治体プロジェクト

photo 山形県のIT企業関係者が、市場低迷を深刻に考えるのは東北地方の他県との比較。宮城県の1135億円は断トツとしても、これに比べて10分の1以下、そして統計上の事業所数がほぼ同じ青森県は、年間売上高180億1300万円で山形県の2倍近く、1人あたりの年間売上高も1358万円で300万円以上の開きがある。

 04年2月に、それまでの懇談会組織から社団法人に改組したばかりの山形県情報サービス協会の会長を務める津志田光弘・YCC情報システム社長は、こうした状況を「地元製造業などのIT投資ニーズが拡大していないことに加え、自治体需要も県外企業が持って行くケースもある」ことが要因だとみる。仙台市と山形市は隣接している。高速道路を使えば、所要時間は1時間程度と近い。そのために、「仙台のSIも進出してくる。大手ITベンダーも仙台にある支店を中心にして山形県をテリトリーにしている」(津志田YCC社長)と、仙台と山形の商圏が一体化していることが、山形県のSI企業の活力を削ぐことになっていると指摘する。

 宮城県は、行政がIT産業振興を強力に推進している。市場が活性化することで、地場のSI企業などにもビジネスチャンスが広がる。それに対して、山形県のSIの多くが、「行政の支援が少ない。この差も大きい」と嘆く。奥山敦・山形県商工労働観光部商業経済交流課IT企画推進主査は、「確かにIT発注が県外に流れるケースが多い。それに加え、県外でもビジネスチャンスを拡げられるようなパッケージ戦略が、山形県のSIは弱い」と語る。

 「行政の支援が少ない」という点について否定はしないが、IT人材の育成やソフトハウス支援も行っている。6月補正予算でもこれらの施策に200万円を追加した。そのほかにも山形県オープンシステム研究会の開催など、県内のSI企業の競争力アップに貢献する施策をここにきて強力に推進し始めた。「99年から01年までのIT企業開業率は全体の6.5%だったが、01年から04年までの値は13.2%に倍増している」(奥山IT企画推進主査)というのも、IT振興策が功を奏しつつあるということだろう。

 しかし、「自治体プロジェクトの県外流出」については、打つ手がないといったところ。YCC情報システムをはじめ、県内各地域の電子計算センターを発祥とする企業は、過去は受託計算ビジネスで安定経営を保証されていた。しかし、情報システムを自前で保有し、山形県のように原課が独自にシステム発注を担う環境では、県内企業への優先発注などを徹底できないという。高梨学・山形県総務部総合政策室情報企画課IT戦略推進主査も、「情報政策としては、通信インフラ整備を優先してきた。企業誘致にしても現代はまず通信インフラが整っていることが条件になるからだ」と、発注方法の改善が必要という考えはあるものの、早急に変革することは難しいと語る。

■共同組合を活用しビジネス開拓も

 全国ランクでは下位に甘んじる山形県のソフト産業だが、中にはNDソフトウェア(南陽市)のように介護システムという分野にビジネスチャンスを求め、九州にも支店を置くなど全国展開をしている企業もある。地元の業界関係者の中には、「NDソフトウェアの売上高の上下が、山形県の情報サービス産業の売上高の上下につながる」と見る向きもあるほど。ちなみに、04年の東北6県の情報サービス産業の年間売上高は、軒並みマイナス成長となっているが、山形県だけは4.0%のプラス成長で、「NDソフトウェアの成長が要因」(県内のSI関係者)という見方も出ている。しかし、プラス成長とはなったものの、03年は前年比7.0%のマイナスとなっており、「これで回復したとは言えない」というのが業界共通の認識だ。

 競争が激しく、単価ダウンで収益も厳しくなる受託ソフト開発だけでは成長できないと判断して、パッケージソフト開発とそのソリューションに活路を求める企業もある。エム・エス・アイ(MSI)の金子昌弘社長は、「県内外の製造業をターゲットに独自の生産管理ソフトとソリューションを提供する」ことを成長の要と位置付ける。そのために、10月には専門の営業セクションと開発チームを編成するなど力を入れている。

 また、中小規模のソフト開発企業もアライアンスにより、受注機会の拡大を図っている。山形県内の中小ソフト開発企業が集まる山形県情報技術振興協同組合がそれだ。

 理事長を務める菊地憲泰・ピーシーエー(PCA)社長は、01年に起業したばかりの若手社長だが、「自治体にも発注してもらえるようにアピールしている。山形県のソフト産業を生かすためにも、行政も目を向けるべき」と協同組合をアピールし、ビジネス開拓に余念がない。

 組合に加入する情報技術サービスは、中規模旅館などをターゲットにした旅館向け情報システムを開発している。山形県は全市町村で温泉が湧くという“温泉王国”である。「大規模旅館は大手の牙城だが、中規模以下の経営者にも、IT導入で経営改革したいという熱意はある」(土屋久雄・情報技術サービス社長)と、手応えを感じている様子。オープンソースソフト(OSS)のスキルを蓄え、東北ITクラスター・イニシアチブ(TIC)に参加するなど積極的だ。「全国43位」という悔しさが、山形県のSI産業の企業力アップの源泉になってきた。
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