コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第31回 秋田県

2005/11/14 20:42

週刊BCN 2005年11月14日vol.1113掲載

 県内IT産業の競争力強化が秋田県の大きな課題だ。県内総生産に占めるITサービス産業の売上高比率は0.6%程度で、全国平均の約3%に比べて少ない。隣県の有力システムインテグレータ(SI)や全国系大手ITベンダーに県内IT需要が流れるケースが見られ、ビジネスチャンスを逃しているとも指摘される。危機感を抱いた県内SIを中心に競争力強化に向けた取り組みが活発化している。(光と影PART IX・特別取材班)

県内IT産業の競争力強化へ ビジネスチャンスをつかめ

■厳しい落ち込みに直面

photo 秋田県のITサービス産業は東北6県の中でも落ち込みが激しい。経済産業省がまとめた2004年の特定サービス産業実態調査によれば、東北6県のうち山形県を除く5県がマイナス成長で、秋田県は前年比12.3%減と最も下げ幅が大きかった。県内産業に占めるITサービス産業の売上高の比率も0.6%と低い。

 売上高減少の背景には、隣県の有力SIとの提案競争に県内IT企業が勝てなかったり、全国系の大手ITベンダーへの直接発注を食い止められなかったことなどが挙げられる。地元企業や自治体の中には、「地元IT企業に発注したい心情はあるが、提案力やコンサルティング力が心細いところがある」(ユーザー関係者)と、地元IT企業の力不足などから、頭越しに県外ベンダーなどへ直接発注せざる得ないケースがあると話す。

 公共投資も先細り気味だ。市町村合併により、県内に69あった市町村数が今年度(06年3月期)末までに25市町村へと半分以下に再編される。これに伴いIT投資額の減少も懸念されており、民需など新しい需要開拓が迫られている。

 県内大手SIの北都情報システムズ(佐々木攻社長)は、民間企業のIT投資需要の開拓や自社商材の拡充などを目的に、昨年から今年にかけて法人営業部やマーケティング開発部を相次いで新設した。これまでビジネスの大きな柱は自治体を中心とした公共関連だったが、「既存の公共関連ビジネスに加えて、民需の取り込みに力を入れる」(佐々木社長)と、県内を中心とした製造、流通業などIT需要の開拓を本格化させる。

 今年度(06年3月期)は、市町村合併に伴う案件が多く「公共関連ビジネスは堅調に推移」(加藤茂・北都情報システムズ取締役本部長兼経営企画部長)しているものの、合併が一段落する来年度以降は、引き続きITへの投資が続くかどうか楽観視できない状況だ。これまでは営業部門の中に公共や民需、マーケティングなどの各担当が含まれていたが、民需とマーケティング開発を切り出して“部”に昇格。まずは親会社の北都銀行と取り引きのある業種大手などをターゲットに提案営業を強化し、新規需要を引き出していく方針だ。

 新規需要開拓の最大のポイントは提案力だ。県内IT産業の縮小などを重く見た県では、今年度、県内ITベンダーの提案スキルの向上に乗り出した。ITを活用した経営革新など、ユーザー企業の啓蒙に焦点を当てた施策だけでなく、ITを提供する側のスキルアップ施策も欠かせないと判断した。県の外郭団体で、地元企業の支援などを手がける、あきた企業活性化センターは、県からの委託を受けて10月、ITベンダーとITユーザーがともに学ぶ「先進IT実践塾」を初めて開催した。

■県も「提案力向上」など応援

 講師は経営とITの両方に詳しい専門家のITコーディネータなどが務め、ITユーザーなどが受講した。地元ITベンダーからは北都情報システムズなどが受講した。ITを活用した経営革新に関するケーススタディやグループ演習などを通じて、活発な議論をたたかわせた。IT活用型の経営革新について共に学ぶ機会がほとんどなかっただけに、「ユーザー、ITベンダーの双方ともいい刺激なった」(あきた企業活性化センター事業推進グループ/創業・経営革新推進担当スタッフ・伊藤茂氏)と、ITスキルの向上に役立ったと話す。

 11月22日には、あきた企業活性化センター主催の展示会「あきたソフト産業展2005」を開催する。今年は第3回目で、県内有力ITベンダー約20社が参加する予定だ。年々徐々に提案力が高まっており、「見応えのある展示会になる」(同)と胸を張る。

 一方、全国系大手ベンダーの支援をフルに活用してビジネスを伸ばしているSIもある。日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のビジネスパートナーであるアキタシステムマネジメント(赤沼侃社長)は、IBMプラットフォームを採用するISV(独立系ソフトウェアベンダー)との連携を強化している。日本IBMは、データベースやアプリケーションサーバーなどIBMプラットフォームを採用したISV支援に力を入れており、有力ISVが相次いでIBMプラットフォームに対応した業務アプリケーションの供給量を増やしている。

 アキタシステムマネジメントは、こうしたISVの動きを迅速に捉え、ビジネスに生かしている。例えば、ISVが新しい物流システムを開発した時は、「県内の物流業種にローラー作戦を展開して需要を開拓する」(菅原恵悦・アキタシステムマネジメント取締役営業部長)と、最新ソリューションを該当する業種1社1社に提案する地道な営業努力を続けることで民需ビジネスを伸ばしている。

 これまでは、顧客の要望に合わせてゼロからソフトウェアを開発するビジネス形態が中心だった。しかし、開発キャパシティが限られていることから、処理しきれずに受注残が膨らみすぎたり、納期が長くなったりするなどの課題があった。IBMプラットフォームに対応するISVのパッケージソフトを随所に活用することで「受注能力の拡大や納期短縮」(同)を進めることが可能になり、ビジネスのスピードアップに結びつけた。

 県内IT産業の拡大には、ユーザー企業の啓蒙だけでなく、ITベンダーのスキルアップが欠かせない。公共投資に過度に依存するのもリスクが高い。民需の比重を増やし、的を射たソリューションや提案営業の力量が求められている。
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