コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第34回 徳島県

2005/12/05 20:42

週刊BCN 2005年12月05日vol.1116掲載

 産業集積はそれほど大きくはないものの、独自性を発揮するユニークな企業を輩出してきた徳島県。情報サービス産業においても、ユニークな発想で厳しい環境を乗り切ろうとする企業は少なくない。(光と影PART IX・特別取材班)

自由な発想で新たなビジネスチャンスを生み出す

■思い切った価格設定でターゲットを拡大

photo 徳島県では、2004年度からスタートした3か年計画「徳島県経済再生プラン」において、県内で1万人の雇用創出をうたっており、情報産業やITの活用なども重要な要素に位置付けている。継続的に実施している施策のほか、今年度は中小企業がITを活用することで企業経営の展開を図る「eビジネス展開支援事業」を創設した。徳島県商工労働部地域経済再生課の林泰右係長は「実際の募集や研修はこれから。とくしま産業振興機構が実施する」としており、県内中小企業のIT化推進策と一体になって展開していく考え。

 情報システムや物品調達に際し、県内企業に優先発注するための指針も、今年1月から運用を始めている。県内の大学などでも来年度から新たにコンテンツ系の学科を創設する動きもあり、情報サービス産業を取り巻く環境は、悪くはない。

 もっとも、瀬戸内海に面した香川県や愛媛県に比べ、民間企業が弱いという側面は否定できない。富士通の白津昌之・四国営業本部長も「徳島県や高知県(での事業)は、公共関連の比率が高く、バランスを変えることは難しい」とみている。

 徳島県を地盤とするフジタ商会(徳島市)の藤田重臣社長も「県内企業の情報化投資は低調で、どちらかというと縮小傾向にあるかもしれない」という。全国区の有力企業はいくつかあるものの、その次のクラスの企業となると、格段に規模が小さくなる。同社の場合も、公共関連の比率が8割以上を占めているのが現状だ。

 厳しい民間需要だが、これを乗り越えなければ成長は望めない。そこでフジタ商会が新たに乗り出したのが、自社開発パッケージのダウンロード販売。創業25周年を機に、7月から給与計算システム「一給さん」の販売を始めたが、10月末に有給休暇機能を追加し、開発が一段落したことから本格的な販売活動を展開する。

 「先行する企業も多いので、初年度のサポート料(最新プログラムへのアップデート)を含めた価格を2万5000円に設定し、次年度以降のサポート料は5000円と思い切った。中小企業も狙える」(藤田社長)。販売を行う自社のホームページの認知度を高めるため、ゴルフコンペの履歴管理などに用いるゴルフ同好会システム「ゴルコン2005」を無償ダウンロードできるようにした。こちらは、すでに80件以上のダウンロード実績があり、認知度向上という面で効果が上がっている。

 「今までフォローできなかったエリアをカバーするといっても、代理店販売ではコストもかかる。いわば、インターネット活用の実証実験」(藤田社長)といったところだ。しかし、商品性を高めるためには、まず身近なエリアで着実に実績を上げ、改良を続けていかなければならないと考えている。また、商品ラインアップの拡充も不可欠で、同社の主力商品の1つである地図情報システム「PELGIS(ペルギス)」についても、ニーズを調査しながら、ダウンロード販売版を開発していく方針。売上構成の官民比率を変えていくための試行錯誤が続く。

■リスク分散やニッチ市場開拓に活路

 スタンシステム(徳島市)も事業構造改革のただなかにある。オフコンディーラーとしてスタートしたが、現在ではソフトの受託開発が売り上げの大きな部分を占めるようになっている。「残念ながら、今後のIT関連サービスの提供者は東京が中心にならざるを得ない。地方の企業もそうしたサービスの受け手であり、地場の情報サービス企業は開発拠点か、地方企業へのコンサルティングを行うことになる」とは近藤紳一郎社長。独自パッケージの開発や販売力強化には、資金も必要。幻影は追わず、受託開発とコンサルティングでスタンシステムの将来を支えていくという。

 ただし、これは「現・スタンシステム」についての話。「従来の会社を成長させようとしても、会社は簡単には変われない。変われないなら、新しい部分を切り出せばいい」(近藤社長)という。念頭にあるのは、巨大マーケットである東京。強みのある部分を生かし、東京でコンサルティング業務を行うというのも、1つのプランだ。開発が伴うものであれば、徳島のスタンシステムが受託する。

 新たなビジネスのリスクを切り離す一方、開発受託という相乗効果が得られる。また、東京でのコンサルティング業務についても、業務や資本の提携、新会社設立など、いろいろな方法が考えられる。既存の会社を発展させるより、グループとして利益を確保するということだ。

 「徳島県内の情報サービス産業の中で一番元気」と関係者が口を揃えるのは、阿波電子情報(徳島市)。02年7月の設立で、まだ4年目に入ったばかりだが、「派遣と下請けは、原則やらない。小さくてもキラリと光る企業を目指した」と若木正義社長。キーワードは「サービス業本来の姿」だ。たとえば、地元の金融機関や化学会社のパソコン管理を受託しているほか、開発に専念したい大手ソフト会社のバックヤード業務も手がけている。ニッチな業務だが、誰もやらない。安くて良い提案をすれば認めてくれる素地はできている。役所なども本業に専念したいという思いはあるはずで、そうしたサービスを提供することがサービス業本来の姿」(若木社長)と語る。

 市町村合併により、職員は減少傾向にある。本来の行政サービス以外の付随業務については、手が回らなくなってくる可能性もある。情報サービス産業からすれば「地方でも伸びるビジネス」だ。実際に手応えを感じている若木社長も「アイデア次第。必要となるソフトだけを受託開発するのでなく、ソフト開発を含めた全体の業務を受託する。大手ベンダーも、ニッチな部分だけに手を出してこない」と分析している。

 もちろん、阿波電子情報もパッケージ開発・販売を軽視しているわけではない。独自の地理情報システム「TSE」や寺院を対象とした「檀家管理システム」なども開発している。ただし、「パッケージはあくまでボーナス」(若木社長)であり、サービス提供がメイン。アイデアが勝負を分けるという信念は強固だ。
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