コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第55回 長崎県

2006/05/15 20:42

週刊BCN 2006年05月15日vol.1137掲載

 長崎県は電子県庁構築にあたって、地元SIerを活用することを決め、2002年度から発注を開始した。今では「長崎ITモデル」として他県からも注目されている。地元企業からも歓迎されているが、これまでの3年間で地元SIerとしては、さらに大きなプロジェクトを受注したいという要望も出てきた。(光と影PART IX・特別取材班)

長崎ITモデルで地元企業も参入 案件の規模拡大を望む声も

■04年度は96案件中、78件を地元が受注

 長崎県の基幹システムは、かつてNECの独壇場だった。NEC長崎支店長を務めた経験があるNBC情報システムの野間一義常務は「長崎支店の売上高は熊本や大分などを上回り、九州でトップだった」という。長崎県側からみれば「何もかもベンダー任せになっており、県の職員にノウハウがなかった。電子県庁構築ではこれを変える必要があった」と島村秀世・長崎県総務部理事(情報政策担当)は、地元発注を取り入れた経緯を説明する。ただ、電子県庁を構成するひとつのシステムを一括発注できるほど地元SIerの力はないと見て、システムを切り分けて入札にかける方式を採用した。

 地元に門戸を開放して何が起きるかは、想像するのに難くない。当初、自治体ビジネスに参入をもくろむ企業による「1円入札」も案の定、出現した。「随意契約から競争入札に変わったことで勇み足もあった。しかしそうした通常の商習慣を逸脱する企業は淘汰された」(島村理事)とし、入札の際の最低制限価格制度を取り入れたことで、現在では健全な競争入札が行われているとアピールする。当然、地元企業からは情報システムの調達政策は歓迎された。「02年度から03年度にかけて発注100件中、48件を地元企業が受注することができた。さらに04年度は96件中78件が地元企業が受注している」(大庭茂雄・長崎県総務部情報政策課電子県庁推進班課長補佐)と効果ははっきりと現れている。

 しかし、長崎県情報サービス産業協会(NISA)の岩永俊之事務局長は、「発注単位が小さく、受注しても大きな収入につながらないという意見もある」と、経験を積んできたことでSIer側にも「より大きなプロジェクトを受注したい」という要望が高まっていると語る。実際、02年度から03年度の金額ベースでの地元受注率は15.1%に過ぎず、04年度でも32.7%にとどまっている。岩永氏も三菱電機系の地元子会社のトップを務めていただけに地元SIerの要望は「もっともだ」という立場だ。

 扇精光の扇健二常務も、「もっとボリュームが欲しい」という1人。パソコンやOA機器の単価ダウンで「ハコ売りの利益はほとんど出ないが、その中でシステム開発を拡大したい。プロジェクトに参加できるチャンスは広がったものの、案件の規模が小さくて開発期間も短い。腰が据わらない感じ」と苦笑する。長崎県は市町村合併でかつて79あった市町村が23にまで減少した。それだけに県の情報化案件の受注に期待をかけているわけだ。

 もうひとつ、地元SIerが課題にあげるのが長崎県のオープンシステム開発に必要なウェブアプリケーション言語「Curl」への対応だ。

 「オープンソースに対応する必要から、これまでJavaやPHPさらにCurlを扱えるエンジニアを増やしてきた。77人のSEからそういうエンジニアをピックアップして電子県庁に対応した“特殊部隊”を編成したばかり」(野間一義・NBC情報システム常務)と対応は急ピッチ。

■開発言語Curlへの対応も必要

 また、長崎県は構築した新しい電子県庁システムをオープンソースとして公開している。著作権は長崎県が保有し、公開の窓口およびソースコードの管理者として長崎県情報サービス産業協会のなかに「オープンソースベンダーフォーラム長崎」を組織している。長崎県はオープンソースとして公開することで地元SIerにビジネスのチャンスを提供しているが、NDKCOMの中野一英専務は、「Curlは少なくともメジャーとはいえない。Curlを商売のタネにするには時間がかかるだろう」と厳しく見ている。それでも、今後も県の案件に参加しプロジェクト管理など同社の特徴を生かしていく方針だ。

 富士通系パートナーのオフィスメーションは、こうした県の発注案件に今のところ参加していない。事態を静観する構えだ。「Curlに対応していないという理由もある。しかし発注単位の小さいビジネスよりも県の外郭団体などの情報システムやこれまで強みを発揮してきた農協向けのシステムなど、やるべきことは多い」(石橋洋志社長)と、異なる方向を見ている。その分、パソコン教室を長崎市に加え福岡市でも展開するなど、長崎以外にもビジネス拡大を狙う。

 意見は様々あり、地元企業でもスキルが高まってきたことでさらに高い要望も出てくる。長崎ITモデルでは、県の職員と発注を受けた企業が新システムの仕様書を作成し、それを受けてさらに競争入札で受注企業が決まる方式をとる。仕様書作成などにも参加する、ドゥアイネットの井川吉嗣取締役システム技術部部長は、「長崎県のプロジェクトを受注できるようになったことで、少なくとも社員の顔を見ることが多くなった」という。同社は開発型企業として、これまで東京を中心に下請け案件を受注してきた。社員も東京などに長期出張していることが多かった。しかし今ではほとんどの社員が長崎市内のオフィスで仕事ができるようになった。

 長崎県経済は、昔から三菱重工業の長崎造船所や三菱電機を中心とした三菱グループの恩恵に浴してきた。そういう環境下で地元SIerは市町村案件や地元資本の流通や製造業向けにシステム構築ビジネスを続けてきた。それだけに長崎県が、大手ベンダーへの“丸投げ”から地元参加を促した効果は大きい。長崎県は、「8年間で基幹システムもオープンに切り替えていく」(島村長崎県理事)ことを明らかにしている。これまでは電子申請といったフロントシステムが中心だったが、今年度から基幹システムに関連する案件も出てくると地元企業では予想する。8年という時間はIT革新のスピードからみれば長い。しかし、これから地元企業が基幹システムに参加していくチャンスも生まれる。

 「分割発注には疑問。複雑化するだけではないのか」という意見がないわけではない。しかし情報産業の地域振興に行き詰まっている他県からは、「長崎ITモデル」に対して、高い関心が寄せられているのは事実だ。
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