組み込みソフト開発大手の富士ソフトは、TOPPERSプロジェクトに参加するとともに、株式会社組織のAPTJにも出資会社の1社として参加している。同社は、自動車向けOSの「AUTOSAR」で事業化を目指すAPTJの話が出た当初から、強い関心をもって注視してきた。この背景には、TOPPERSの活動のなかで、「企業としての事業への道筋が十分に描ききれなかった」(三木誠一郎・執行役員)と歯がゆい思いがあった。(安藤章司)

富士ソフト
三木誠一郎
執行役員
(APTJ社外取締役) 富士ソフトが力を入れる自動車向け組み込みソフト開発では、リアルタイムOSの「ITRON」の技術が強みになることから、TOPPERSの活動を通じて技術向上に努めてきた。だが、TOPPERSの成果物は原則として公開するものであり、参加メンバーにライバル会社も少なくない。社内からは「ライバルに手の内をみせるのはいかがなものか」と厳しい意見もあったという。
こうしたなか、APTJは、利益を追求する株式会社組織であることから、これまでの活動の収益化に通じると判断。APTJに一部出資し、三木執行役員自身もAPTJの社外取締役に就任した。とはいえ、APTJにもライバル会社が参加しており、ややもすれば「呉越同舟」とみえなくもない。しかし、自動車向けのソフトウェア開発には、「今後、国家規模の莫大な研究開発予算が投じられる領域であり、1社、2社のSIerがどうこうできるものではない」(三木執行役員)と、大局的な視点でオープンイノベーションを推し進めている。
この11月にはAPTJが開発するAUTOSAR準拠の車載OS製品の名称を「Julinar(ジュリナー)」にすると発表。製品ブランドが決まり、事業化に向けての具体化がより一段と進展した。まずは、AUTOSAR準拠のベーシックなソフトウェアで事業基盤をつくり、車載ソフトウェアを巡る巨大市場へのアクセスルートを確保する必要がある。その基礎となるのがAPTJによる事業化だと位置づける。

「Julinar(ジュリナー)」のロゴ
車載ソフトは、従来のドメスティックな開発から、AUTOSARをはじめとする共通プラットフォームをベースとしたグローバル規模の開発へとシフトしていくとみられる。日本のSIerが10年後の車載ソフト開発で国際競争に勝ち残っていく手段の一つして、オープンイノベーション手法による技術蓄積、人材育成に取り組んでいる事例といえそうだ。