Special Feature
盛り上がる福岡のITビジネス 地元発の上場企業も誕生
2023/05/22 09:00
週刊BCN 2023年05月22日vol.1969掲載
新型コロナ禍でITビジネスは大きく変わった。デジタルの力で地域間の距離は縮まり、全国各地のIT企業にとっては商機の拡大につながっている。九州最大の人口を誇る福岡県では、東京を中心とした大都市からの受託開発のニーズが増加し、業界内は盛り上がりを見せている。一方、福岡市で創業したIT企業からは上場企業が誕生。後進のスタートアップ企業と協力して企業のDXを推進したり、地元で培ってきた強みを生かしてさらなる成長を狙ったりしており、福岡式の進化が期待できそうだ。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久)
福岡県情報サービス産業協会
福岡県情報サービス産業協会は、2023年4月1日現在、県内のIT企業を中心に154の企業や団体などが入会している。同協会の藤本宏文会長(シティアスコム社長)は、IT業界の動向について「民間企業では、ITはコスト削減に当てられる部類だった。しかし、今はITを活用して売り上げや効率を上げることを目指しており、投資は盛んになっている」と説明。地元の自治体がシステムの標準化を目指していることから、官公庁向けのニーズも高まっていると紹介する。
福岡県情報サービス 産業協会
藤本宏文 会長
会員のIT企業が手がけているのは「大手IT企業の下請け的な仕事」(藤本会長)が多い。民間企業向けでは最近、基幹システムの老朽化に起因する「2025年の崖問題」絡みの需要が増加している。特に東京や大阪、名古屋といった大都市に拠点を置く大企業向けの案件が目立っており、クラウドベースの開発が半数超になっているという。
IT企業のビジネスは、東京などで案件を獲得した後、いったん福岡に持ち帰り、技術者を集めて対応するニアショア開発が多かったが、コロナ禍で状況が変わった。リモートワークの普及によって、顧客との打ち合わせなどはオンラインで対応できるようになり、他都市の大企業向けの案件がこれまで以上に増えた。藤本会長は「各案件について、福岡にいながら、より広い範囲の開発に参画できるようになった」と語る。
IT企業にとっては、追い風ともいえる事業環境になっているが、課題がないわけではない。人手不足は地元のIT業界にとっても大きな悩みの種だ。藤本会長は「既に地元では技術者をなかなか確保できなくなりつつある」と吐露。海外の半導体企業の九州への進出や、福岡市中心部で進む大規模な再開発も人材確保の面では懸念材料で、「いい待遇や街の中心部で働ける環境は、地元の人にとっては魅力的だ。今のところ直接的な影響は出ていないが、今後、技術者の奪い合いが激化するのではないか」とみる。
人材育成についても課題感を抱えており、「今は大手IT企業からの案件で潤っているが、新しい技術の案件は少ない。既存技術を使った開発ばかりでは、DXのニーズに対応できなくなる」と指摘。「新しい技術に対応できる人材を育成しないと、人材を豊富にそろえている会社に仕事を奪われるかもしれない。そうなると、将来的に会員のIT企業が困ることになる」と不安視する。
今後の見通しについては「それぞれの業界の動きを見ていると、25年くらいまでは案件が増えていくことは確実で、これからはDX関係の割合が高まっていくだろう」と予想し、「福岡では、東京の流行が2、3年遅れて広がることが多いので、先を見据えた準備を進める」と意気込む。具体的には、教育を通じて技術者のスキル転換を進める。福岡で続々と登場しているスタートアップ企業との連携や、地元企業との接点強化にも力を入れる考えだ。
ヌーラボ
プロジェクト管理ツール「Backlog」などを提供するヌーラボは、橋本正徳代表取締役の出身地である福岡市で、04年3月に創業した。22年6月には東証グロース市場に上場を果たした。23年4月からは、福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」のプラチナスポンサーに就任。FGNに所属するスタートアップ企業と協力し、企業のDX推進を支援するなどの取り組みを行っている。
ヌーラボ 橋本正徳 代表取締役
同社は創業当初、受託開発を中心にビジネスを展開していたが、06年にいち早くSaaS事業の取り組みを開始し、Backlogを発売した。大手企業から中小企業、官公庁などで幅広く利用が進み、有料ユーザー数は120万人以上、23年3月期の売上高は前期比16.2%の27億600万円と高成長を遂げている。橋本代表取締役は「企業のクラウドシフトが進むにつれ、Backlogの需要も拡大し、ユーザー数は大きく伸びている」と解説する。
橋本代表取締役は、福岡の特徴について「成長意欲が高いスタートアップが続々と生まれていることに加え、企業同士の交流も盛んであり、互いに刺激し合える」とし、IT企業にとってビジネスがしやすい環境だとアピール。自社の成長要因として「福岡のコミュニティの存在は大きかった」と振り返り、「恩返しの意味で、スタートアップ企業と提携・協力し、地元企業のDX推進を支援したい」との思いからFGNのプラチナスポンサーになったという。
地元企業の動きについては、DX推進の機運が年々、高まっていると認識する。老舗が多い中、代替わりで社長が若くなった企業では、スピード感を持った取り組みが目立っており、「Backlogを起点にDXを進める事例が出てきている」と語る。ただ「何からやったらいいのか分からないという企業も多い」とし、引き続き各企業を支援していく構えだ。
福岡市中心部の再開発では、今のところビジネスへの直接的な影響は出ていないという。橋本代表取締役は「新しいビルが建てられるなど、街が変化していくことで、活気を含めていい刺激を受けている」と話す。今後、大型ビルの建設で、これまで床面積の都合でオフィスを構えることができなかった大手外資企業が福岡に拠点を設けるといったケースも想定され、ビジネスへの好影響を見込む。
今後は、地元企業への支援などを通じて、さらなる成長を目指す。同社は現在、Backlogのユーザーを多く抱えるが、これからはビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、ビジネスチャットツール「Typetalk」の利用も促進し、顧客のワークフロー全体のサポートを目標としている。特定の業種に特化したバーティカルSaaSを提供するベンダーが増えてきていることから、スタートアップ企業などとの協業を進め、自社商材とバーティカルSaaSを組み合わせた提案も強化する考えだ。Fusic
03年に福岡市で設立したシステム開発会社Fusicは、23年3月に東証グロース市場と福証Q-Boardに上場した。福岡を中心に事業展開する中で得た「(技術的な)カバレッジの広さ」(浜崎陽一郎副社長)を武器に事業を拡大している。
(左から)Fusicの納富貞嘉社長と
浜崎陽一郎副社長
同社は、クラウドインテグレーションと、AIやIoTなどの先進技術を使ったデータインテグレーションの2本柱を中心に事業を展開。人事課題を解決するための本人フィードバックツール「360(さんろくまる)」といった自社プロダクトも提供している。顧客の状況は、45%が東京を中心とした首都圏、45%が九州、10%がその他の地域となっている。
現在の事業環境について、浜崎副社長は「福岡は東京と比べると新しい技術に対してタイムラグがある。クラウドに対しても同様だが、最近、ようやく抵抗感がなくなってきた」とし、さらに「AIやIoTといってもピンとこないところがあったが、生成AIが注目され始めてから徐々に機運が高まってきた」と分析する。
同社がカバレッジの広さを獲得した背景には、東京に比べて規模が小さい福岡の市場でビジネスを進めてきたことがある。浜崎副社長は「東京では、AIなどの特定の技術に特化することが可能だが、福岡では、多くの技術に対応することが必要になる」とした上で、「お客様からすると、求める技術ごとに別々の会社に依頼するよりも、1社に頼めたほうがいい。なかなか細分化モデルを構築できなかったことが強みに転じている」と胸を張る。
創業以来、早くから最新技術の動向を追っていたことも特徴で、納富貞嘉社長は「技術力の高さは東京のIT企業と比較しても遜色ない」と強調する。顧客からの幅広い要求に応えられるほか、個々の技術を高いレベルで取り扱えることは、市場で選ばれる要因になっている。実際、リモートでシステム開発の対応ができるようになってからは、東京の顧客は以前に比べて増えたという。
今後の成長に向けた課題について、納富社長は営業やマーケティングの体制強化を挙げ、「上場したことを考えると、成長の方向性を明確に示すことが必要になった。今まではニーズに沿って仕事をすることが多かったが、今後は積極的に案件を獲得できるよう動いていく」と力を込める。
新しい領域では、量子コンピューターと宇宙領域でのビジネスを見据える。このうち、宇宙ビジネスに関しては、内閣府から衛星リモセン法に基づく「衛星リモートセンシング記録を取り扱う者」の認定を受けており、データの取り扱いを起点とした事業に投資する方針だ。
同社は23年6月期の業績予想で、売上高は前期比32.2%増の14億8500万円、営業利益は同126%増の1億5800万円を見込む。納富社長は「上場企業としては新参者だが、事業は20年手がけている。上場したメリットを大いに活用して成長していきたい」と気を引き締める。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久)

福岡県情報サービス産業協会
先を見据えた準備を進める
福岡県情報サービス産業協会は、2023年4月1日現在、県内のIT企業を中心に154の企業や団体などが入会している。同協会の藤本宏文会長(シティアスコム社長)は、IT業界の動向について「民間企業では、ITはコスト削減に当てられる部類だった。しかし、今はITを活用して売り上げや効率を上げることを目指しており、投資は盛んになっている」と説明。地元の自治体がシステムの標準化を目指していることから、官公庁向けのニーズも高まっていると紹介する。
藤本宏文 会長
会員のIT企業が手がけているのは「大手IT企業の下請け的な仕事」(藤本会長)が多い。民間企業向けでは最近、基幹システムの老朽化に起因する「2025年の崖問題」絡みの需要が増加している。特に東京や大阪、名古屋といった大都市に拠点を置く大企業向けの案件が目立っており、クラウドベースの開発が半数超になっているという。
IT企業のビジネスは、東京などで案件を獲得した後、いったん福岡に持ち帰り、技術者を集めて対応するニアショア開発が多かったが、コロナ禍で状況が変わった。リモートワークの普及によって、顧客との打ち合わせなどはオンラインで対応できるようになり、他都市の大企業向けの案件がこれまで以上に増えた。藤本会長は「各案件について、福岡にいながら、より広い範囲の開発に参画できるようになった」と語る。
IT企業にとっては、追い風ともいえる事業環境になっているが、課題がないわけではない。人手不足は地元のIT業界にとっても大きな悩みの種だ。藤本会長は「既に地元では技術者をなかなか確保できなくなりつつある」と吐露。海外の半導体企業の九州への進出や、福岡市中心部で進む大規模な再開発も人材確保の面では懸念材料で、「いい待遇や街の中心部で働ける環境は、地元の人にとっては魅力的だ。今のところ直接的な影響は出ていないが、今後、技術者の奪い合いが激化するのではないか」とみる。
人材育成についても課題感を抱えており、「今は大手IT企業からの案件で潤っているが、新しい技術の案件は少ない。既存技術を使った開発ばかりでは、DXのニーズに対応できなくなる」と指摘。「新しい技術に対応できる人材を育成しないと、人材を豊富にそろえている会社に仕事を奪われるかもしれない。そうなると、将来的に会員のIT企業が困ることになる」と不安視する。
今後の見通しについては「それぞれの業界の動きを見ていると、25年くらいまでは案件が増えていくことは確実で、これからはDX関係の割合が高まっていくだろう」と予想し、「福岡では、東京の流行が2、3年遅れて広がることが多いので、先を見据えた準備を進める」と意気込む。具体的には、教育を通じて技術者のスキル転換を進める。福岡で続々と登場しているスタートアップ企業との連携や、地元企業との接点強化にも力を入れる考えだ。
ヌーラボ
「恩返し」で地元企業のDXを推進
プロジェクト管理ツール「Backlog」などを提供するヌーラボは、橋本正徳代表取締役の出身地である福岡市で、04年3月に創業した。22年6月には東証グロース市場に上場を果たした。23年4月からは、福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」のプラチナスポンサーに就任。FGNに所属するスタートアップ企業と協力し、企業のDX推進を支援するなどの取り組みを行っている。
同社は創業当初、受託開発を中心にビジネスを展開していたが、06年にいち早くSaaS事業の取り組みを開始し、Backlogを発売した。大手企業から中小企業、官公庁などで幅広く利用が進み、有料ユーザー数は120万人以上、23年3月期の売上高は前期比16.2%の27億600万円と高成長を遂げている。橋本代表取締役は「企業のクラウドシフトが進むにつれ、Backlogの需要も拡大し、ユーザー数は大きく伸びている」と解説する。
橋本代表取締役は、福岡の特徴について「成長意欲が高いスタートアップが続々と生まれていることに加え、企業同士の交流も盛んであり、互いに刺激し合える」とし、IT企業にとってビジネスがしやすい環境だとアピール。自社の成長要因として「福岡のコミュニティの存在は大きかった」と振り返り、「恩返しの意味で、スタートアップ企業と提携・協力し、地元企業のDX推進を支援したい」との思いからFGNのプラチナスポンサーになったという。
地元企業の動きについては、DX推進の機運が年々、高まっていると認識する。老舗が多い中、代替わりで社長が若くなった企業では、スピード感を持った取り組みが目立っており、「Backlogを起点にDXを進める事例が出てきている」と語る。ただ「何からやったらいいのか分からないという企業も多い」とし、引き続き各企業を支援していく構えだ。
福岡市中心部の再開発では、今のところビジネスへの直接的な影響は出ていないという。橋本代表取締役は「新しいビルが建てられるなど、街が変化していくことで、活気を含めていい刺激を受けている」と話す。今後、大型ビルの建設で、これまで床面積の都合でオフィスを構えることができなかった大手外資企業が福岡に拠点を設けるといったケースも想定され、ビジネスへの好影響を見込む。
今後は、地元企業への支援などを通じて、さらなる成長を目指す。同社は現在、Backlogのユーザーを多く抱えるが、これからはビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、ビジネスチャットツール「Typetalk」の利用も促進し、顧客のワークフロー全体のサポートを目標としている。特定の業種に特化したバーティカルSaaSを提供するベンダーが増えてきていることから、スタートアップ企業などとの協業を進め、自社商材とバーティカルSaaSを組み合わせた提案も強化する考えだ。
Fusic
カバレッジの広さを武器に事業を拡大
03年に福岡市で設立したシステム開発会社Fusicは、23年3月に東証グロース市場と福証Q-Boardに上場した。福岡を中心に事業展開する中で得た「(技術的な)カバレッジの広さ」(浜崎陽一郎副社長)を武器に事業を拡大している。
浜崎陽一郎副社長
同社は、クラウドインテグレーションと、AIやIoTなどの先進技術を使ったデータインテグレーションの2本柱を中心に事業を展開。人事課題を解決するための本人フィードバックツール「360(さんろくまる)」といった自社プロダクトも提供している。顧客の状況は、45%が東京を中心とした首都圏、45%が九州、10%がその他の地域となっている。
現在の事業環境について、浜崎副社長は「福岡は東京と比べると新しい技術に対してタイムラグがある。クラウドに対しても同様だが、最近、ようやく抵抗感がなくなってきた」とし、さらに「AIやIoTといってもピンとこないところがあったが、生成AIが注目され始めてから徐々に機運が高まってきた」と分析する。
同社がカバレッジの広さを獲得した背景には、東京に比べて規模が小さい福岡の市場でビジネスを進めてきたことがある。浜崎副社長は「東京では、AIなどの特定の技術に特化することが可能だが、福岡では、多くの技術に対応することが必要になる」とした上で、「お客様からすると、求める技術ごとに別々の会社に依頼するよりも、1社に頼めたほうがいい。なかなか細分化モデルを構築できなかったことが強みに転じている」と胸を張る。
創業以来、早くから最新技術の動向を追っていたことも特徴で、納富貞嘉社長は「技術力の高さは東京のIT企業と比較しても遜色ない」と強調する。顧客からの幅広い要求に応えられるほか、個々の技術を高いレベルで取り扱えることは、市場で選ばれる要因になっている。実際、リモートでシステム開発の対応ができるようになってからは、東京の顧客は以前に比べて増えたという。
今後の成長に向けた課題について、納富社長は営業やマーケティングの体制強化を挙げ、「上場したことを考えると、成長の方向性を明確に示すことが必要になった。今まではニーズに沿って仕事をすることが多かったが、今後は積極的に案件を獲得できるよう動いていく」と力を込める。
新しい領域では、量子コンピューターと宇宙領域でのビジネスを見据える。このうち、宇宙ビジネスに関しては、内閣府から衛星リモセン法に基づく「衛星リモートセンシング記録を取り扱う者」の認定を受けており、データの取り扱いを起点とした事業に投資する方針だ。
同社は23年6月期の業績予想で、売上高は前期比32.2%増の14億8500万円、営業利益は同126%増の1億5800万円を見込む。納富社長は「上場企業としては新参者だが、事業は20年手がけている。上場したメリットを大いに活用して成長していきたい」と気を引き締める。
新型コロナ禍でITビジネスは大きく変わった。デジタルの力で地域間の距離は縮まり、全国各地のIT企業にとっては商機の拡大につながっている。九州最大の人口を誇る福岡県では、東京を中心とした大都市からの受託開発のニーズが増加し、業界内は盛り上がりを見せている。一方、福岡市で創業したIT企業からは上場企業が誕生。後進のスタートアップ企業と協力して企業のDXを推進したり、地元で培ってきた強みを生かしてさらなる成長を狙ったりしており、福岡式の進化が期待できそうだ。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久)
福岡県情報サービス産業協会
福岡県情報サービス産業協会は、2023年4月1日現在、県内のIT企業を中心に154の企業や団体などが入会している。同協会の藤本宏文会長(シティアスコム社長)は、IT業界の動向について「民間企業では、ITはコスト削減に当てられる部類だった。しかし、今はITを活用して売り上げや効率を上げることを目指しており、投資は盛んになっている」と説明。地元の自治体がシステムの標準化を目指していることから、官公庁向けのニーズも高まっていると紹介する。
福岡県情報サービス 産業協会
藤本宏文 会長
会員のIT企業が手がけているのは「大手IT企業の下請け的な仕事」(藤本会長)が多い。民間企業向けでは最近、基幹システムの老朽化に起因する「2025年の崖問題」絡みの需要が増加している。特に東京や大阪、名古屋といった大都市に拠点を置く大企業向けの案件が目立っており、クラウドベースの開発が半数超になっているという。
IT企業のビジネスは、東京などで案件を獲得した後、いったん福岡に持ち帰り、技術者を集めて対応するニアショア開発が多かったが、コロナ禍で状況が変わった。リモートワークの普及によって、顧客との打ち合わせなどはオンラインで対応できるようになり、他都市の大企業向けの案件がこれまで以上に増えた。藤本会長は「各案件について、福岡にいながら、より広い範囲の開発に参画できるようになった」と語る。
IT企業にとっては、追い風ともいえる事業環境になっているが、課題がないわけではない。人手不足は地元のIT業界にとっても大きな悩みの種だ。藤本会長は「既に地元では技術者をなかなか確保できなくなりつつある」と吐露。海外の半導体企業の九州への進出や、福岡市中心部で進む大規模な再開発も人材確保の面では懸念材料で、「いい待遇や街の中心部で働ける環境は、地元の人にとっては魅力的だ。今のところ直接的な影響は出ていないが、今後、技術者の奪い合いが激化するのではないか」とみる。
人材育成についても課題感を抱えており、「今は大手IT企業からの案件で潤っているが、新しい技術の案件は少ない。既存技術を使った開発ばかりでは、DXのニーズに対応できなくなる」と指摘。「新しい技術に対応できる人材を育成しないと、人材を豊富にそろえている会社に仕事を奪われるかもしれない。そうなると、将来的に会員のIT企業が困ることになる」と不安視する。
今後の見通しについては「それぞれの業界の動きを見ていると、25年くらいまでは案件が増えていくことは確実で、これからはDX関係の割合が高まっていくだろう」と予想し、「福岡では、東京の流行が2、3年遅れて広がることが多いので、先を見据えた準備を進める」と意気込む。具体的には、教育を通じて技術者のスキル転換を進める。福岡で続々と登場しているスタートアップ企業との連携や、地元企業との接点強化にも力を入れる考えだ。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久)

福岡県情報サービス産業協会
先を見据えた準備を進める
福岡県情報サービス産業協会は、2023年4月1日現在、県内のIT企業を中心に154の企業や団体などが入会している。同協会の藤本宏文会長(シティアスコム社長)は、IT業界の動向について「民間企業では、ITはコスト削減に当てられる部類だった。しかし、今はITを活用して売り上げや効率を上げることを目指しており、投資は盛んになっている」と説明。地元の自治体がシステムの標準化を目指していることから、官公庁向けのニーズも高まっていると紹介する。
藤本宏文 会長
会員のIT企業が手がけているのは「大手IT企業の下請け的な仕事」(藤本会長)が多い。民間企業向けでは最近、基幹システムの老朽化に起因する「2025年の崖問題」絡みの需要が増加している。特に東京や大阪、名古屋といった大都市に拠点を置く大企業向けの案件が目立っており、クラウドベースの開発が半数超になっているという。
IT企業のビジネスは、東京などで案件を獲得した後、いったん福岡に持ち帰り、技術者を集めて対応するニアショア開発が多かったが、コロナ禍で状況が変わった。リモートワークの普及によって、顧客との打ち合わせなどはオンラインで対応できるようになり、他都市の大企業向けの案件がこれまで以上に増えた。藤本会長は「各案件について、福岡にいながら、より広い範囲の開発に参画できるようになった」と語る。
IT企業にとっては、追い風ともいえる事業環境になっているが、課題がないわけではない。人手不足は地元のIT業界にとっても大きな悩みの種だ。藤本会長は「既に地元では技術者をなかなか確保できなくなりつつある」と吐露。海外の半導体企業の九州への進出や、福岡市中心部で進む大規模な再開発も人材確保の面では懸念材料で、「いい待遇や街の中心部で働ける環境は、地元の人にとっては魅力的だ。今のところ直接的な影響は出ていないが、今後、技術者の奪い合いが激化するのではないか」とみる。
人材育成についても課題感を抱えており、「今は大手IT企業からの案件で潤っているが、新しい技術の案件は少ない。既存技術を使った開発ばかりでは、DXのニーズに対応できなくなる」と指摘。「新しい技術に対応できる人材を育成しないと、人材を豊富にそろえている会社に仕事を奪われるかもしれない。そうなると、将来的に会員のIT企業が困ることになる」と不安視する。
今後の見通しについては「それぞれの業界の動きを見ていると、25年くらいまでは案件が増えていくことは確実で、これからはDX関係の割合が高まっていくだろう」と予想し、「福岡では、東京の流行が2、3年遅れて広がることが多いので、先を見据えた準備を進める」と意気込む。具体的には、教育を通じて技術者のスキル転換を進める。福岡で続々と登場しているスタートアップ企業との連携や、地元企業との接点強化にも力を入れる考えだ。
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- ヌーラボ 「恩返し」で地元企業のDXを推進
- Fusic カバレッジの広さを武器に事業を拡大
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