旅の蜃気楼

五感を描写するデジカメの表現力

2006/01/16 15:38

週刊BCN 2006年01月16日vol.1121掲載

【本郷発】あなたはデジカメ派?それとも銀塩派ですか?――この質問はいまさらの感じだ。携帯で写せば全員、デジカメ派だ(電子音はだいぶ耳に慣れてきた。慣れとは恐ろしいが、人の耳元で写すのだけはやめてほしい)。カメラと喫煙は、お父さんの特権、なんていう時代もあったが、とうに過ぎた。気をつけたいことがある。50歳を超えた“ちょい悪おやじ”(前号参照)が銀塩カメラの、それもライカなんぞを首から下げていようものなら、「退職金で買ったな」などと思われ、その途端に余生を味わう「中高年カメラマン」の部類に入ってしまう。それでも楽しいマイペースの人生を過ごせば本望ではある。が、“モダン”の追求(前号参照)とはちょい違うな。

▼カメラ雑誌の老舗に『アサヒカメラ』がある。新年号を紹介したい。新春スペシャルインタビュー「写真の明日」を語る、だ。篠山紀信ら9人のプロカメラマンがデジカメの明日を語っている。総合すると「異次元な五感の表現力」を秘めた技術だ、となる。その号で、三好和義さんが伊勢神宮・別宮の伊佐奈岐宮の祭事を作品に取り上げている。神宮の祭りは夜、限られた炎の明かりの中で、無音で執り行われる。正確に記すと、火の燃える音と、拍手の音がする。もちろん、神職が玉砂利の上に正座する音と歩く音はする。

▼三好さんは語る。「デジタルだと望遠レンズが効果的に使えるし、暗いところでも夜間撮影でもISO感度を上げれば問題なく使えるのが一番の強みだ」。もしかすると、シャッター音も消音にしたのではないか。文明の気配をすべてなくした超文明の環境で、古代を写したのである。肉眼とは別の五感の描写になっている。祭主から手前2人目の神職にピントを決め、唯一人いる“緋の袴”の幻想さを深めている。さすがだ。“ちょい悪おやじ”はかなわない。同じ号でD200とEOS5Dの思想を比較している。ニコンに引かれそうだ。編集長は丸ごとデジタルな雑誌の『アサヒパソコン』前編集長の奥田明久さんだ。BCNランキングによると、昨年のデジカメはキヤノンがトップシェアだ。(BCN社長・奥田喜久男)
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