【本郷発】あの本を読んで以来のことだ。このところ、「こちら側」と「あちら側」を考え詰めている。そのせいだと思う。何を見ても、「こちら側」と「あちら側」の活字がちらついて、こちら側やらあちら側を見つけてしまう。根津に昔ながらの小さな本屋がある。下駄をつっかけていける、お気軽な街の本屋だ。その店に行くと、「つい本を買ってしまう」というので有名だ。日本全国にあったこんな街の本屋さんは壊滅状態だ。しかし、この「往来堂書店」は元気なのだ。『ウェブ進化論』は、売れ始める前夜に並んでいた。すごい目利きがいるものだ、と感心する。

▼たぶん、IT分野以外でも気の利いた書籍が並んでいるのだろう。書棚を見回すとそんな雰囲気が漂っている。もちろん新刊ばかりではない。この書店に顔を出せば、今週の話題書籍から時代の流れまでを10坪ほどの中で眺望できるのだ。充実した爽快な気分になる。そんな中で、気になる1冊の写真集を見つけた。『東京のこっちがわ』、なぎら健壱著、岳陽舎刊。彼の言う東京のこっち側というのはどこだろうか。荒川から西側となる。こっち側は浅草、上野、本郷、神田と続く。神保町の書店街で本を買う。ビア・レストラン『ランチョン』で生ビールを飲みながら、今、買ったばかりの本を開く。ああ、堪らない光景だ。

▼新聞などの書評欄を見ていると、突然、本を買いたい気分になる。買うのを忘れるといけないので、すぐパソコンを立ち上げて、アマゾンで買う。ほしい本を手に入れる方法は2つある。「こちら側」と「あちら側」だ。しかし、ほしい本を手に入れる目的はひとつで同じだ。なぎら健壱さんのいう荒川の「こっち側」と「あっち側」は同じ関東という土地の上に隣接している。こうして考えると、「こちら側」と向こう岸にある「あちら側」という違った世界は、実は共通基盤を持っていることに気づく。川が流れる台地とか、本を入手したいという要求とかが共通基盤である。では『ウェブ進化論』でいう「こちら側」と「あちら側」の共通基盤はなにか。社会生活のコミュニケーションだ。いかがでしょうか。(BCN社長・奥田喜久男)