BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本辺境論』

2010/04/22 15:27

週刊BCN 2010年04月19日vol.1330掲載

 日本人が大好きな「日本人とは何ものか」を著した本。タイトルにある通り、日本人は辺境人、すなわち“世界の中心”足り得ない民族であるというのを論旨としている。 日本人は、常に外国との比較でしか自らを語れない民族ともいえる。その一例として挙げられているのは、オバマ大統領の就任演説のあと、感想を求められたわが国の総理大臣のコメントである。「世界一位と二位の経済大国が協力していくことが必要だ」。これが典型的な日本人の発言というのである。経済力ランキングは毎年変わる。順位が変われば、対米関係も変化する可能性がある。著者は、それを誰も「変だ」と思わなかったことが「変だ」と思うと断じている。

 テレビの長寿ドラマ『水戸黄門』を取り上げた項目は、日本人の気質を象徴的に表している。「光圀自身が印籠を取り出して『控えい』と怒鳴っても、たぶんあまり効果がない」のであって、助さん格さんがやってはじめて有効となる。この二人は「虎の威を借る狐」だから、実のところどうして水戸黄門が偉いのか知らない。「でも、みんなが『偉い人』だと言っているから…」という同語反復によってしか主君の偉さを(自分にさえ)説明できない――というくだりである。

 著者は、「日本人が辺境の民」であることを「よい」とも「悪い」とも言ってはいない。私たち日本人の根源的な思考法や行動の仕方を見つめなおすきっかけを与えようとしていると思える本である。(止水)

『日本辺境論』
内田樹著 新潮社刊(740円+税)
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