BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『デフレの正体──経済は「人口の波」で動く』

2011/02/03 15:27

週刊BCN 2011年01月31日vol.1368掲載

 日本の社会に「デフレ」という言葉が定着してから、どのくらいの期間が経つのだろう。モノが売れない→物価が下がる→労働者の賃金に抑制がかかる→ますますモノが売れなくなるという悪循環は、どのような要因から発生するのだろうか。

 「景気は循環しているのだから、上向きになればデフレは終息するはずだ」「インフレ誘導が必要」「モノづくりこそが日本が生き残る道」などといった議論がかまびすしい。だが、著者は、すべて間違いだと切って捨てる。

 端的にいえば、内需の落ち込みがこのデフレを引き起こしていると分析しているのだ。所得はあっても消費しない高齢者が、とくに首都圏で激増しているという事実がある。首都圏の一都三県では、2000~2005年の5年間に、65歳以上の年齢層だけが118万人増加した。つまり、「もうそろそろ車は不要」「スーツは要らない」というような人が増えている。貯蓄には関心を向けても、消費には目を向けない高齢者が大勢を占めれば、内需は盛り上がりようがないというわけだ。

 結局のところ、「経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減だ」というのが本書の論旨である。したがって、デフレ対策としては、現役世代の所得が増えるような策をとる一方、高齢者には消費行動に向かわせるような手を打つべきというのが結論だ。突飛な見解のようだが、具体的な数字で裏づけられているので、説得力がある。(止水)


『デフレの正体──経済は「人口の波」で動く』
藻谷浩介 著 角川書店刊(724円+税)
  • 1