BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『減速思考 デジタル時代を賢く生き抜く知恵』

2011/10/06 15:27

週刊BCN 2011年10月03日vol.1401掲載

 コンピュータが、世に大きな恩恵をもたらしたことを否定する人はいない。最初は人々の生活を裏側から支える存在であったチップは、やがて主役に躍り出て、いまや日常生活のあらゆる場面になくてはならないものになった。しかし待て、われわれは何かを置き忘れてきているのではないか……。幾度となく繰り返されてきた議論だが、ここに新しい地平をもたらすのが本書である。

 「現代に生きる人間には、急速に流れる情報を監視し、即座に対応できる知性が必要だ。(中略)だが同時に、好奇心にあふれ、遊び心があり、想像力豊かで、深い洞察力のある知性もきわめて重要だ」。著者は、前者を支えるのがデジタルデバイスであり、後者を生み出すのが「深い思考」だと指摘しながら、われわれがデジタルデバイスに依存し、のめり込み、時間を費やすことで、ものごとを深く考えることを忘れてはいないか、と問いかける。

 もちろん、デジタルの恩恵を否定するわけではない。人間の知性とコンピュータが得意とする論理分析の違いを明らかにして、アナログ的行動とデジタル的行動のバランスが取れた生活を強く勧めている。唯一の例外が、生まれたときからデジタルデバイスがそこにある世代への教育だ、経験知のない、あるいは少ない子どものデジタル依存を許すことは、脳の構造を変えてしまうとして。警鐘を鳴らしている。

 人間だけがなし得る「深く考える」ことの大切さを、あらためて「深く考える」ことができる良書だ。(叢虎)


『減速思考 デジタル時代を賢く生き抜く知恵』
リチャード・ワトソン 著 北川 知子 訳 徳間書店刊(1600円+税)
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