BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『グローバル恐慌の真相』

2012/02/09 15:27

週刊BCN 2012年02月06日vol.1418掲載

 経済産業省の官僚から京都大学大学院准教授に転じた異色の経済学者と、滋賀大学准教授である社会学者との対談。両者とも最近の論壇では注目の論客で、とくに中野は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加の是非を論じた『TPP亡国論』(集英社)で一躍マスコミの寵児となった。

 二人が論じるのは、リーマン・ショックに端を発した「グローバル恐慌」の原因と、脱出への処方箋である。中野は、日本が「これ以上、下手を打つと、20年後、GDPベースで世界10位以下まで落ちてもおかしくない」と危機感を募らせ、柴山が「固定観念を疑ってみるところが重要」と応じて対談が始まる。二人がまず注目するのは、グローバル・インバランス(世界的な経常収支不均衡)だ。アメリカ主導の過度なグローバル化、過剰な資本移動にもとづいた経済成長を「自由が大事というより新陳代謝が大事」と評し、借金と消費を繰り返すアメリカは、もはやそれを続けるしかないとする。この犠牲になるのが日本で、現在のデフレ状況に追い込んだ犯人を、アメリカから輸入した新自由主義による構造改革だと喝破。この危機から脱するには、重商主義に対抗する保護主義を採るべきだと結論づけている。

 あまりの舌鋒の鋭さにあてられてしまったら、八代尚宏『新自由主義の復権』(中央公論新社)の“服用”をお勧めする。こちらは新自由主義への正しい理解と実践・徹底を通じて、この状況からの脱出を目指す“オン・ザ・レール”。日本の未来を論じるときに必読の2冊だ。(叢虎)


『グローバル恐慌の真相』
中野剛志・柴山桂太 著 集英社 刊(740円+税)
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